黒鉛
コクエン
graphite, plumbago
石墨,グラファイトともいう.炭素の同素体の一つ.天然にも,産状によってうろこ状黒鉛,土状黒鉛などとよばれるものが産出するが,無定形炭素を2400~3000 ℃ に加熱(黒鉛化)すると得られる人造黒鉛がおもである.完全な黒鉛構造にするためには3000 ℃ 以上の加熱が必要である.六炭素環が二次元的に連なった層が積み重なった層状構造をもつ六方晶系の結晶.層内の原子間距離C-C 0.142 nm,層間隔0.335 nm.層と層との結合はファンデルワールス力による.普通,うろこ状,粒状,塊状,土状などの集合晶として得られる.へき開は底面に完全.黒~鋼灰色,不透明,金属光沢をもつ.密度2.26 g cm-3(単結晶,20 ℃).硬さ1~2.融点3550 ℃,4800 ℃ で昇華する.構造上いちじるしい異方性を示す.たとえば,電気抵抗は,単結晶層方向で0.40 μΩ m であるが,垂直方向では数けた大きい.したがって,単結晶と多結晶集合体,あるいは粉末との間にはいちじるしい物性の差がある.また,構造の不完全さによっても差を生じる.とくに人造品では,原料および処理方法による黒鉛化度の差による物性上の差も生じる.耐熱性,耐熱衝撃性,耐食性に富む.電気,熱の良導体で滑性がある.化学的に安定な物質で,通常の試薬には侵されにくい.π電子と反応する原子,分子またはイオンは層間に入り込み層間化合物をつくる.空気中での着火温度は500~600 ℃ 以上.粉末を濃硫酸と強酸化剤で処理すると,石墨酸などの構造不明の物質を生じる.各種の電極,とくにリチウムイオン電池用,電動機や発電機などのブラシ,抵抗発熱体,るつぼ,耐火物,減摩剤,鉛筆などに用いられる.原子炉用減速材,反射材として利用するものは,とくに高純度が要求される.繊維状のものは樹脂補強用強化材として,航空宇宙機器,釣り,ゴルフ,テニス用具などに用いられる.[CAS 7782-42-5][別用語参照]ダイヤモンド
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
黒鉛【こくえん】
炭素の同素体の一つ。石墨,グラファイトとも。六方晶系の結晶。普通は鱗片状,塊状,土状などで産出。黒〜鋼灰色,油脂状の感触がある。比重2.1〜2.2,硬度1〜2。へき開は完全。電気の良導体で,融点がきわめて高く(3700℃以上),酸,アルカリに不溶。電極材料,るつぼ,減摩剤,鉛筆などに使用,原子炉の中性子減速材ともされる。結晶片岩,片麻岩,ペグマタイトなどから産出。工業的には無煙炭,カーボンブラックなどの無定形炭素を電気炉などで2500〜3000℃に加熱してつくる。なお,石墨は狭義には鉱物名をさし,人工のものを含めていうときは黒鉛ないしグラファイトとよばれることが多い。
→関連項目潤滑剤|ダイヤモンド
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くろ‐なまり【黒鉛】
〘名〙 (
錫(すず)を「しろなまり」というのに対していう語) 鉛の異称。〔
新撰字鏡(898‐901頃)〕
こく‐えん【黒鉛】
〘名〙 「せきぼく(石墨)」の化学名。〔五国対照兵語字書(1881)〕
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こくえん【黒鉛 graphite】
グラファイト,石墨(せきぼく)ともいう。炭素Cからなる鉱物の一つで,炭素の同素体。図のように,炭素の平面形6員環が二次元的に連なった層状構造をなす。六方晶系。黒色で,金属光沢をもつ。へき開は{0001}に完全。比重2.1~2.2。モース硬度1~2。天然には変成された炭層や接触変成岩,片麻岩などの中に産する。融点は3700~4300℃だが,空気中で加熱すると500~600℃以上で着火する。原子面内をπ電子が自由に動きまわるため,電気の良導体で,比抵抗は層方向には10-3Ωcm程度であるが,垂直方向には約100倍である。
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デジタル大辞泉
「黒鉛」の意味・読み・例文・類語
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世界大百科事典内の黒鉛の言及
【炭素】より
…周期表元素記号=C 原子番号=6原子量=12.011地殻中の存在度=200ppm(16位)安定核種存在比 12C=98.892%,13C=1.108%融点=3550℃(無定形),3550℃以上(ダイヤモンド,黒鉛)沸点=4827℃比重=1.8~2.1(無定形),3.15~3.53(ダイヤモンド),1.9~2.3(黒鉛)電子配置=[He]2s22p2 おもな酸化数=II,IV周期表第IVB族に属する炭素族元素の一つ。非金属元素としては硫黄とともに最も古く紀元前から知られている元素の一つである。…
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