黒印(読み)こくいん

精選版 日本国語大辞典 「黒印」の意味・読み・例文・類語

こく‐いん【黒印】

〘名〙
① 黒い印。墨、あるいは黒肉をつけて押された印影。また、それに用いる印。〔日葡辞書(1603‐04)〕
② 特に、室町江戸時代幕府大名公文書に押された墨、黒肉の印。また、その文書朱印よりも格が落ちる。おすみつき。
※ロドリゲス日本大文典(1604‐08)「シュイン(朱印)は尊ばれて、公的のものであり、cocuin(コクイン)は格が低くて、内部的な事柄に使はれ」

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デジタル大辞泉 「黒印」の意味・読み・例文・類語

こく‐いん【黒印】

墨、あるいは黒色印肉を用いて押した印影。また、それを押した文書。室町・江戸時代にかけて、武家の公文書に用いられた。おすみつき。

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改訂新版 世界大百科事典 「黒印」の意味・わかりやすい解説

黒印 (こくいん)

朱印に対して墨を使った印章の名称。古代の黒印はわずかに写経典籍などにおす蔵書印のほかには例がない。鎌倉時代中期に初見のある版刻花押は黒印であり,戦国時代の印判状の初見も黒印である。これらの諸例を考えても黒印が朱印に劣り略式,薄礼であることは明らかである。江戸時代の庶民階級に対して幕府が朱印の使用を厳禁したこともこれで理解できる。織田信長は印文〈天下布武〉の印を朱,黒両様印に使用したが,厚薄両礼の段階色別は不明である。秀吉には黒印状はまったくない。比較的簡易な文書と思われる戦国時代の伝馬手形の印についても,後北条氏は虎の印を朱印としてのみ用いたが,伊達政宗は黒印を手形印としている。甲斐の武田信虎が朱の円印をおしてそれに一部を重ねた印文〈信虎〉の鍔(つば)形印を黒印としておしているのは珍しい例であるが,それをどう解釈するかはなぞである。
印章
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世界大百科事典(旧版)内の黒印の言及

【黒印状】より

…広義には黒印(墨印)を押して発給した文書を指す。狭義には朱印状に対置する概念として,近世において主として社寺に所領を寄進あるいは安堵するため発給した黒印状をいい,その給付地を黒印地と称した。…

【朱印】より

…朱肉を使っておす印。黒印と対応して使われる。歴史的には朱印が正式とされ,略式の黒印より優位にあって,庶民階級は明治以降はじめて朱印の使用を公認された。…

※「黒印」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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