黄金のろば(読み)オウゴンノロバ(英語表記)Metamorphoses

デジタル大辞泉 「黄金のろば」の意味・読み・例文・類語

おうごんのろば〔ワウゴンのロバ〕【黄金のろば】

原題、〈ラテンAsinus aureusローマ作家アプレイウスによる古典ラテン語小説変身物語」の別題。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「黄金のろば」の意味・わかりやすい解説

黄金のろば (おうごんのろば)
Metamorphoses

2世紀後半にローマの作家アプレイウスによって書かれた小説。《黄金のろばAsinus aureus》の通称で知られているが,原題の意味は〈変身物語〉である。全11巻から成り,魔女によってロバに変えられた主人公ルキウスが,さまざまの人の手に渡りながら放浪をつづけ,その間,気づかれることなく人間世界の裏面を観察し,最後には女神イシスの秘教の信仰によって人間に戻ることができるまでを描く。途中《クピドプシュケ》の物語が挿入されているが,これは神話の研究上貴重なものとなっている。動物の姿で人間社会を見るという形式としては,夏目漱石の《吾輩は猫である》の源流に当たるといえるが,同じ2世紀のギリシアルキアノスにも《ルキオスかろばか》と題する作品があり,2人の著作の手本となったさらに古い作品が存在したと考えられ,それはパトラスの人ルキオスLoukiosによってギリシア語で書かれたと伝えられる《ろば物語》であったとみなされる。しかしこの原作は現存していない。アプレイウスの場合は完全な形で残っているローマの小説としては唯一のものであり,盗賊やぺてん師,偽善的な僧侶などが登場し,当時の退廃した社会が風刺をこめて描き出され,しかも想像力に富んでいるので,きわめて独創的な作品となっている。中世以降好んで読まれ,チョーサーボッカッチョシェークスピア材料を与えており,W.ペーターが熱愛するなど,後世に与えた影響は大きい。
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世界大百科事典(旧版)内の黄金のろばの言及

【アプレイウス】より

…アフリカでの多くの演説の中から抜粋した《フロリダ(名句集)》は4巻にまとめられて残っており,その他の作品としては《プラトンの教説について》および《ソクラテスの神について》と題する哲学的な著述があり,アリストテレスの作と誤って伝えられてきた《宇宙論》のギリシア語からラテン語への翻訳もあるが,主としてプラトン哲学の影響を示すこれらの作品は,思想的にもあまり重要視されていない。それよりもアプレイウスの名を有名にしているのは,魂の遍歴を描いたきわめて異色の小説で,一種の教養小説とも解せる《黄金のろば》であり,これによって後世の文学に大きな影響を及ぼしている。【引地 正俊】。…

【プシュケー】より

…2世紀のローマの作家アプレイウスの《黄金のろば》に語られる挿話〈クピドとプシュケー〉中の女主人公。その名は古代ギリシア語で〈魂〉の意。…

【ラテン文学】より

…ほかにウェレイウス・パテルクルスVelleius Paterculus,クルティウス・ルフスCurtius Rufus,フロルスなどの歴史家の名がみられる。またそのほかの散文作家には,小説《サテュリコン》の作者ペトロニウス,百科全書《博物誌》の著者の大プリニウス,《書簡集》を残した雄弁家の小プリニウス,農学書を残したコルメラ,2世紀に入って,《皇帝伝》と《名士伝》を著した伝記作家スエトニウス,哲学者で小説《黄金のろば(転身物語)》の作者アプレイウス,《アッティカ夜話》の著者ゲリウスなどがいる。 詩の分野ではセネカの悲劇のほかに,叙事詩ではルカヌスの《内乱(ファルサリア)》,シリウス・イタリクスの《プニカ》,ウァレリウス・フラックスの《アルゴナウティカ》,スタティウスの《テバイス》と《アキレイス》など,叙事詩以外ではマニリウスの教訓詩《天文譜》,ファエドルスの《寓話》,カルプルニウスCalpurniusの《牧歌》,マルティアリスの《エピグランマ》,それにペルシウスとユウェナリスそれぞれの《風刺詩》などがみられる。…

※「黄金のろば」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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