鶴田錦史(読み)つるたきんし

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鶴田錦史」の意味・わかりやすい解説

鶴田錦史
つるたきんし

[生]1911.8.15. 北海道,滝川
[没]1995.4.4. 東京,江戸川
薩摩琵琶演奏家。鶴田流の創始者。本名鶴田菊枝。1918年上京錦心流の小峰元水に入門,1920年には女流第一人者の速見是水に師事。1923年長野県上田市に移住し,弟子を養成したり,無声映画に出演したりした。1926年鶴田欷水を名のり名古屋放送局で『白虎隊』を放送。女流の若手ながら深みのある語り,鮮烈な弾法が注目を浴びた。1929年には錦琵琶を創流し,人気を博していた同じく 1911年生まれの女流水藤錦穣門下となり,錦琵琶の号櫻玉を得た。1960年頃まで実業界を中心に活躍し,1958年錦史と改名,しだいに琵琶に本格的に復帰するとともに,楽器を改造し新手法を開発した。1964年映画『怪談』で音楽担当の武満徹と出会い,1967年武満がニューヨーク・フィルハーモニック委嘱を受けて作曲した,琵琶と尺八オーケストラのための『ノヴェンバー・ステップス』を小澤征爾指揮でニューヨークで初演して好評を得た。その後尺八の横山勝也とともに,この作品の 200回をこえる海外演奏を行なった。流派をこえて後進の育成にも尽力した。1971年芸術選奨文部大臣賞受賞。1985年フランス芸術文化勲章コマンドールを受章。作品に『春の宴』『壇の浦』『本能寺』『義経』がある。

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百科事典マイペディア 「鶴田錦史」の意味・わかりやすい解説

鶴田錦史【つるたきんし】

薩摩琵琶(びわ)錦心(きんしん)流の女性演奏家,作曲家。北海道江部乙に生まれ,8歳で上京し錦心流の速水是水に入門。尺八演奏家の横山勝也〔1934-2010〕とともに作曲家武満徹の作品の演奏でも名を残し,小林正樹監督の映画《怪談》(1964年)に始まる武満との協同作業は,《エクリプス》(1966年),《ノベンバー・ステップス》(1967年),三面の琵琶のための《旅》(1973年)などに結実。その風格に満ちた演奏は海外にも広く知られた。《壇の浦》《敦盛》など,古典に材を得た作品を残している。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「鶴田錦史」の意味・わかりやすい解説

鶴田錦史
つるたきんし
(1911―1995)

女流琵琶(びわ)奏者。北海道江部乙(えべおつ)町(現滝川市)生まれ。7歳で上京し、兄の鶴田嚴水(げんすい)に錦心(きんしん)流薩摩(さつま)琵琶を学び、ついで速見是水(はやみぜすい)、雨宮薫水(くんすい)らの下で修め、10代には関東で教授や演奏活動を始めた。1960年代から新しい琵琶楽の開拓に着手。64年(昭和39)映画『怪談』(武満徹(たけみつとおる)音楽)の「耳なし芳一(ほういち)」で琵琶を演奏したのをきっかけに、武満の作品『エクリプス』『ノヴェンバー・ステップス』では尺八の横山勝也(かつや)とともに伝統と前衛の融合に努めた。自作『春の宴』『義経』『八甲田山』『壇の浦』では声楽部分にもくふうを凝らし、楽器改作とともに新機軸を打ち出したので、80年代には鶴派または鶴田流と称せられるようになった。鶴翔会を主宰した。

山口 修]

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「鶴田錦史」の解説

鶴田錦史 つるた-きんし

1911-1995 昭和-平成時代の琵琶(びわ)演奏家。
明治44年8月15日生まれ。錦心流薩摩琵琶の小峰元水にまなぶ。上田高女を中退して上京。昭和42年武満徹作曲「ノヴェンバー・ステップス」初演のソリストをつとめるなど,琵琶と現代音楽を結び付ける。横山勝也らと海外で演奏活動をおこない,46年芸術選奨。鶴派家元として鶴翔会を主宰。平成7年4月4日死去。83歳。北海道出身。

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世界大百科事典(旧版)内の鶴田錦史の言及

【琵琶】より

…これに手を加え繊細な節回しの様式が20世紀初頭永田錦心によって確立され錦心流と称したので,従来のものは正派と呼ぶようになった。さらに新しく錦心流の中から水藤錦穣(すいとうきんじよう)が錦(にしき)琵琶を,鶴田錦史(1911‐95)が鶴田派の新様式をつくり出した。(4)筑前琵琶 琵琶歌のもう一つの系統筑前琵琶はもと筑前盲僧の橘旭翁らにより薩摩琵琶や三味線音楽にならって明治期に確立され,女性的な優雅さをたたえた音楽として全国的に流行した。…

※「鶴田錦史」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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