鴛鴦(読み)おしどり

精選版 日本国語大辞典 「鴛鴦」の意味・読み・例文・類語

おし‐どり をし‥【鴛鴦】

〘名〙
① カモ科の水鳥。全長約四五センチメートル。雄は美しく、背に思羽(おもいば)と呼ばれるイチョウの葉のような形をした羽がある。雌は全体に地味な色で、背部は暗褐色。雄も夏には雌とほとんど同じ色になる。川や湖水などに群をなしてすみ、夏は深山の木のほら穴などに巣をつくって産卵する。シベリア東南部、中国、日本などに分布する。おん。おし。えんおう。《季・冬》
万葉(8C後)一一・二四九一「妹に恋ひ寝(いね)ぬ朝明(あさけ)に男為鳥(ヲシどり)の此ゆかく渡る妹が使か」
夫婦や男女の仲むつまじいようすにいう語。
浄瑠璃・平仮名盛衰記(1739)三「我は名残もおし鳥の、つがひ離るる憂き思ひ」
③ 髷(まげ)の一種。
(イ) 髪を左右に分け、笄(こうがい)の上にたすきを掛けたように結ったもの。近世、町娘などが結ったもので、結い上げた髪形オシドリに似ているところからいう。また歌舞伎で、お染、お夏など上方狂言の娘形のかつらとして用いる同型のものをいう。
※吾妻余波(1885)〈岡本昆石編〉一「鴛鴦(ヲシドリ)維新前に折々此風に結者みえしが方今廃れり」
(ロ) 男の髪の結い方の一種という。
洒落本・仕懸文庫(1791)一「髪の風はをしどりといふやつもっとも小びたゐあり」
学科成績で乙のこと。〔新時代用語辞典(1930)〕
[語誌]和歌では「をしどり」より「をし」の形で使われることが多く、同音の「惜し」を導く序詞もしくは「惜し」との掛詞としても用いられる。「書紀歌謡」に「をし二つ居て」と詠まれて以来、一般には「鴛鴦、匹鳥」〔詩経‐小雅・鴛鴦・毛伝〕の理解に基づき、雌雄仲の良いたとえとして用いられた。

おし をし【鴛鴦】

〘名〙
① 鳥「おしどり(鴛鴦)」の古名。《季・冬》
※書紀(720)大化五年三月・歌謡「山川に 烏志(ヲシ)二つ居て たぐひよく たぐへる妹を たれか率(ゐ)にけむ」
※俳諧・其袋(1690)冬「鴛(ヲシ)のきて物潜なる小池哉〈尚白〉」
紋所の名。オシドリの形、または一つがいのオシドリを円形にかたどったもの。江戸時代、近衛家の替え紋。
※平治(1220頃か)上「紺地の錦のひたたれに、萌黄匂のよろひに、鴛のすそ金物打ちたるに」
[語誌]→「おしどり(鴛鴦)」の語誌

えん‐おう ヱンアウ【鴛鴦】

〘名〙
① (「鴛」は雄、「鴦」は雌のオシドリ) =おしどり(鴛鴦)
※性霊集‐二(835頃)大和州益田池碑「鴛鴦鳧鴨、戯水奏歌」 〔詩経‐小雅・鴛鴦〕
② (オシドリは決して雌雄が離れないといわれるところから) 仲のよい夫婦、男女。また、そのたとえ。
※新撰朗詠(12C前)下「鴛鴦袂を連ねて謳吟す 窈窕簾を隔てて談咲す〈藤原斉信〉」

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デジタル大辞泉 「鴛鴦」の意味・読み・例文・類語

おし‐どり〔をし‐〕【鴛鴦】

カモ科の鳥。全長48センチくらい。雄の冬羽はだいだい色や緑色で美しく、翼に銀杏羽いちょうばがあり、冠羽やほおの飾り羽をもち、くちばしは赤い。雌は全体に地味な灰褐色で、目の周囲から後方へ白線がある。森の中の湖や川辺の木の洞に卵を産み、またドングリを好む。アジア東部に分布。おしかも。えんおう。 冬》「―や松ケ枝高く居静まり/茅舎
夫婦などの男女がむつまじく、いつも一緒にいること。また、そういう男女のたとえ。「鴛鴦夫婦」
女性の髪形の一。髪を左右に分け、こうがいの上でたすきをかけたように結ったもの。多く、近世、町娘が結った。
[類語]真鴨軽鴨夏鴨小鴨鵞鳥家鴨あひる合鴨

えん‐おう〔ヱンアウ〕【××鴦】

《「鴛」は雄の、「鴦」は雌のオシドリ》
オシドリのつがい。
《オシドリの雌雄がいつも一緒にいるところから》夫婦の仲のむつまじいことのたとえ。

おし〔をし〕【鴛鴦】

オシドリの古名。 冬》

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

普及版 字通 「鴛鴦」の読み・字形・画数・意味

【鴛鴦】えんおう(ゑんあう)

おしどり。〔詩、小雅、鴛鴦〕鴛鴦于(ここ)に飛ぶ 之れを畢(あみ)し之れを羅(あみ)す 君子年 祿之れに宜(かな)ふ

字通「鴛」の項目を見る

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「鴛鴦」の解説

鴛鴦
(通称)
おしどり

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
鴛鴦容姿の正夢
初演
文政11.1(江戸・中村座)

鴛鴦
おしどり

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
天明6.秋(京・嵐座)

出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報

動植物名よみかた辞典 普及版 「鴛鴦」の解説

鴛鴦 (オシドリ)

学名:Aix galericulata
動物。ガンカモ科の鳥

出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の鴛鴦の言及

【オシドリ(鴛鴦)】より

…雄の非繁殖羽は雌によく似ているが,くちばしは赤色をしている。多くの場合つがいか小群で見られるので,仲のよい鳥の代表のように思われ,昔から〈鴛鴦の契(えんおうのちぎり)〉とか〈おしどり夫婦〉などということばがあるが,実際は,つがいは毎年新しくつくられる。雄の美しい羽毛は,つがいになるときに雌を引きつけるためのディスプレーに用いられる。…

※「鴛鴦」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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