鳥取(市)(読み)とっとり

日本大百科全書(ニッポニカ) 「鳥取(市)」の意味・わかりやすい解説

鳥取(市)
とっとり

鳥取県東部に位置する市。県庁所在地。市域北部は千代(せんだい)川下流域に形成された鳥取平野、千代川の埋積作用や砂丘の発達などで埋め残された潟湖(せきこ)の湖山(こやま)池、日本海沿いに発達した鳥取砂丘(国指定天然記念物)、河内(こうち)川、勝部(かちべ)川、日置(ひおき)川の流域などからなり、南部は中国山地と山地から流出する河谷からなる。また、南西部は岡山県と、東部は兵庫県と接し、東縁の扇ノ山(おうぎのせん)西麓(ろく)は、県内で大山(だいせん)に次ぐ深雪地である。鳥取砂丘など海岸部一帯は山陰海岸国立公園に含まれる。

 1889年(明治22)市制施行。1923年(大正12)富桑(ふそう)村、1932年(昭和7)稲葉村、1933年中ノ郷、美保(みほ)の2村、1937年賀露(かろ)村、1953年倉田(くらだ)、面影(おもかげ)、神戸(かんど)、大和(やまと)、美穂(みほ)、東郷(とうごう)、大正(たいしょう)、千代水(ちよみ)、豊実(とよみ)、明治、松保(まつほ)、湖山、大郷(おおさと)、吉岡(よしおか)、末恒(すえつね)の15村、1955年米里(よねさと)村、1963年津ノ井村を編入。2004年(平成16)岩美(いわみ)郡の国府町(こくふちょう)、福部村(ふくべそん)、八頭(やず)郡の河原町(かわはらちょう)、用瀬町(もちがせちょう)、佐治村(さじそん)、気高(けたか)郡の気高町(けたかちょう)、鹿野町(しかのちょう)、青谷町(あおやちょう)を編入。なお、この合併により気高郡は消滅した。2005年特例市、2018年中核市に移行。JR山陰本線と因美(いんび)線、国道9号、29号、53号、482号、鳥取自動車道、青谷・羽合(はわい)道路、鳥取西道路などが通じる。鳥取空港があり、東京と結ばれている。面積765.31平方キロメートル、人口18万8465(2020)。

[岩永 實]

歴史

鳥取の地名は『古事記』の垂仁(すいにん)天皇の条に記される「鳥取部(ととりべ)」(水鳥などを捕(と)る部民)が居住した地とされ、『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)(和名抄)』の鳥取郷の地。古い歴史をもち、縄文・弥生(やよい)期の直浪(すくなみ)遺跡、縄文期の栗谷(くりたに)遺跡などがある。国府地区は因幡(いなば)国府所在地であり、奈良から鎌倉時代に栄えた。周辺の丘陵地には古墳群が多く、魚、サギ、舟などの線刻装飾古墳もあり、魚などを描いた彩色壁画のある梶山古墳(かじやまこふん)や宮下(みやのした)の火葬墳伊福吉部徳足比売(いふきべのとこたりひめ)墓跡、中郷(ちゅうごう)付近の条里遺構中に発掘確認された因幡国庁跡などは国の史跡に指定されている。1466年(文正1)ごろ因幡の守護山名(やまな)氏は天神(てんじん)山城(鳥取市)に本拠を構えたが、1545年(天文14)山名誠通(のぶみち)は約6キロメートル東方の鳥取久松山(きゅうしょうざん)に出城を築き、1573年(天正1)山名豊国(とよくに)はこの城を本城とした。鳥取城下町の始まりである。1580年鳥取城は羽柴(はしば)秀吉により攻略され、一時毛利(もうり)方の吉川経家(きっかわつねいえ)が城主となったが、1581年経家も秀吉の攻撃を受け落城した。江戸時代は1617年(元和3)姫路から入封した池田光政(みつまさ)が鳥取城主となり32万石を領有、1632年(寛永9)には岡山藩の池田光仲が移封され、廃藩置県まで池田氏の治下にあった。鳥取城の南方に掘削された外濠袋川(ふくろがわ)は千代川河口の外港賀露に通じ、川舟や筏(いかだ)が往来した。用瀬地区は、天正(てんしょう)年間(1573~1592)には景石(かげいし)城があり、近世は智頭(ちず)街道の宿場町。鹿野地区は、1580年(天正8)以降亀井(かめい)氏3万8000石の城下町であったが、1617年(元和3)石見(いわみ)(島根県)津和野(つわの)へ移封、後、鳥取藩領となり、在町(ざいまち)化した。城跡や町割、町名などに亀井氏時代の名残(なごり)をとどめる。青谷地区は、奈良時代の山陰道の古駅で、江戸時代も宿場町であった。

 なお、江戸時代の中心街は鹿野(しかの)街道沿いであるが、明治になって中心は東方の智頭街道沿いに移り、明治末の山陰本線鳥取駅の設置で若桜(わかさ)街道沿いが中心街となった。1978年(昭和53)には鳥取駅の高架化で駅周辺が市の中心となった。鳥取市街は低湿地にあり、大正期までしばしば水害にみまわれた。1943年(昭和18)には鳥取地震、1952年にはフェーン現象による大火災にあうなど大きな災害にみまわれたが、耐震・耐火都市に変わった。その後、面積約300ヘクタール、計画人口約6500人のニュータウンの建設や鳥取都市計画などが行われた。

[岩永 實]

産業

城下町であり、第二次世界大戦前までは消費都市的傾向にあり、工業も食品、木工、製糸に限られたが、戦後、鳥取三洋(さんよう)電機や日立(ひたち)金属、グッドヒルなど電機・繊維縫製品工業の町となった。製造品出荷額は県内有数。砂丘地帯では1955年(昭和30)から近代的な灌漑(かんがい)技術により畑地農業が安定した。近年は住宅地化が著しい。鳥取(賀露)港は沿岸・沖合漁業の基地で、カレイ、ハタハタ、ズワイガニなどの水揚げがある。環日本海諸国との貿易の拠点となる1万トン岸壁がある。船磯(ふないそ)と酒津(さけのつ)は江戸時代からの漁村で、夏泊(なつどまり)は海女(あま)漁業で知られる。農業は、水稲と果樹栽培を中心に、野菜・花卉(かき)栽培、畜産が盛ん。とくにナシ栽培は有名で、砂丘畑地利用のラッキョウ砂丘らっきょう)やメロン栽培も知られる。古くから因州紙(いんしゅうがみ)の産地として知られ、現在も因州和紙の製造が行われている。「因州青谷こうぞ紙」「因州佐治みつまた紙」は県の無形文化財。鳥取砂丘、浜村温泉、鹿野温泉などの観光資源にもめぐまれ、観光も主産業となっている。千代川はアユ釣りが盛んでアユ料理が名物。佐治川は水石・庭石用で有名な佐治川石の産地。

[岩永 實]

文化・観光

久松山鳥取城跡(国の史跡)は山上(さんじょう)の丸に戦国時代の山城(やまじろ)城郭、山下(さんげ)に近世の城郭が残っている。内堀内には県立博物館と明治時代の洋風建築仁風閣(じんぷうかく)(国の重要文化財)がある。上町(うえまち)の鳥取東照宮(旧、樗谿神社(おうちだにじんじゃ))はかつて因幡東照宮とよばれた神社で、その本殿、拝殿および幣殿、唐門、学行院(がくぎょういん)の木造薬師如来(やくしにょらい)および両脇侍坐像・吉祥天像、常忍寺の絹本着色『普賢十羅刹女(ふげんじゅうらせつにょ)像』、福田家住宅などは国の重要文化財。国史跡には、布勢(ふせ)古墳、栃本(とちもと)廃寺跡、鳥取藩主池田家墓所などがあり、観音院庭園は江戸中期の作庭で国の名勝。「因幡(いなば)の菖蒲(しょうぶ)綱引き」は国の重要無形民俗文化財に指定されている。因幡の白兎(しろうさぎ)神話の白兎(はくと)海岸は、ハマナスの自生南限地帯として国指定天然記念物。砂丘上には白兎神を祀(まつ)る白兎(はくと)神社があり、その樹叢(じゅそう)は国指定天然記念物となっている。ほかに、松上神社のサカキ樹林、キマダラルリツバメチョウ生息地などの国指定天然記念物がある。このほか藩主池田氏の菩提(ぼだい)寺興禅寺(本堂は国の登録有形文化財)などがある。「大和佐美命(おおわさみのみこと)神社の獅子舞(ししまい)」「越路(こえじ)雨乞踊(あまごいおどり)」「円通寺人形芝居」「因幡の傘踊」「宇倍(うべ)神社獅子舞(ししまい)」「細尾(ほそお)の獅子(しし)舞」「余戸(よど)の雨乞(あまごい)踊」「日置のはねそ踊」、人形(ひとがた)に穢(けがれ)を託して川に流す「用瀬のひな送り」、2夜3日間潔斎(けっさい)した神官が、的を弓で射て五穀豊穣(ほうじょう)を祈る姫路神社の「百手の神事(ももてのしんじ)」は県指定無形民俗文化財。このほか8月16日の「鳥取しゃんしゃん祭」などがある。

 岡山県境に近い佐治川の原流、谷奥の辰巳(たつみ)峠付近には堆積(たいせき)型ウラン鉱床、景勝地山王(さんのう)滝や猿渡(さるわたり)渓谷が、曳田(ひけた)川上流には三滝渓(みたきけい)がある。長尾(ながお)岬の付け根にある魚見(ようみ)台は好展望点。岬の突端の長尾鼻(ながおばな)は日本海に迫る安山岩質の溶岩台地で、39万カンデラの長尾鼻灯台がたつ。田岡神社のツバキ樹林、犬山(いぬやま)神社社叢(しゃそう)、坂谷(さかだに)神社社叢は県指定天然記念物。稲葉(いなば)山(因幡山(いなばのやま))は在原行平(ありわらのゆきひら)の和歌とゆかりが深い。八上(やかみ)の売沼神社(めぬまじんじゃ)は『古事記』の因幡の白兎神話に出る八上比売(やかみひめ)を祀(まつ)る。牛戸(うしと)は民芸の牛ノ戸焼の発祥地。浜村は民謡『貝殻節』で知られた温泉町。市内には荒木又右衛門(あらきまたえもん)や渡辺数馬(わたなべかずま)、後藤又兵衛(またべえ)(後藤基次(もとつぐ))、亀井茲矩(これのり)、山中鹿介(しかのすけ)らの墓所がある。ほかに、冬季に水鳥の飛来で知られる水尻(みずしり)池、因幡万葉歴史館、製紙用具などが特色の佐治歴史民俗資料館、山根和紙資料館などがある。鳥取市歴史博物館に収蔵・展示されている栗谷遺跡出土品は国の重要文化財。1994年(平成6)に天文台や宿泊施設を備えた「さじアストロパーク」が開館した。市街地南西方には県立の布勢(ふせ)総合運動公園、湖山池の青島公園や吉岡温泉がある。湖山池東方には鳥取大学が、市街地南東方には公立鳥取環境大学が立地する。

[岩永 實]

『『鳥取市誌』1~4巻(1972~2003・鳥取市)』『『新修鳥取市史』1~3巻(1983~1988・鳥取市)』


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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