鬼ごっこ(読み)おにごっこ

精選版 日本国語大辞典 「鬼ごっこ」の意味・読み・例文・類語

おに‐ごっこ【鬼ごっこ】

〘名〙 (「ごっこ」は接尾語) 子供の遊びの一つ。ひとりが鬼となって他の者を追いまわし、つかまった者が代わって鬼となり、これを繰り返すもの。鬼遊び。鬼かいな。鬼ごと。おについぼ。鬼っこ。おにふくろ。鬼渡し。鬼事遊び。
滑稽本浮世風呂(1809‐13)三「こいつらァ、打遣置(うっちゃっとい)たら、湯の中へ糞(ばば)をたれて、鬼渡(オニゴッコ)や捉迷蔵(めかくし)も仕兼めへ」
[語誌](1)追儺(ついな)、鬼遣(おにやらい)が原形で、後に子供の遊びとなったものという。
(2)「守貞漫稿‐二五」に「京坂にて『きっきりもう』江戸にて『鬼ごこ』〈略〉今は江戸にても鬼ごこと云は鬼事の訛ならん」とある。

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デジタル大辞泉 「鬼ごっこ」の意味・読み・例文・類語

おに‐ごっこ【鬼ごっこ】

一人が鬼になって、他の者たちを追い回し、つかまった者が次の鬼となる子供の遊び。鬼事おにごと。鬼遊び。鬼渡し。

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改訂新版 世界大百科事典 「鬼ごっこ」の意味・わかりやすい解説

鬼ごっこ (おにごっこ)

古くから行われてきた子どもの遊び。〈おにごっこ〉〈おにあそび〉が一般的な名称であり,この系列の遊びに対する総称にもなっている。しかし時代,地方によりさまざまな呼称がある。《物類称呼》によれば〈江戸にて鬼わたしと云,京にてつかまへぼと云,大坂にてむかへぼと云,東国及出羽辺又肥の長崎にて鬼ごとと云,奥の仙台にて鬼々と云,津軽にておくりごと云,常陸にて鬼のさらと云〉とあり,各地方の種々の別称を挙げている。しかしこれらは,全国的にはごく一部にすぎず,同じ地方でありながらさまざまの別称で呼ばれており,これまで収集された名称は250以上にも及んでいる。これは,童遊びのなかでは別称の最も多いものであるが,その半数以上は鬼にちなんだ呼称で,そのほかは〈追いかけ〉や〈つかまえ〉といった方法上からの命名がほとんどである。

 鬼にちなんだこの類の一連の遊びは,鬼と子を決め,鬼は逃げまわる子を追跡して捕らえようとする。追跡と逃避がこの遊びの骨子であり醍醐味でもある。その鬼とは,人間を脅かし生活の妨げとなる大敵であり,邪なるものとして往昔から語り継がれてきた仮想の動物に由来する。この鬼を追放しようとする祭事や行事もまた往昔から行われていた。例えば,追儺(ついな),儺(な)やらい,鬼遣(おにやらい)などと呼ばれる行事はその典型で,後に鬼追い,鬼むけ,悪魔払いなどとも呼ばれるようになった。現在行われている節分の豆まきはその遺風である。こうした鬼や悪魔を追い払う儀式が,子どもの世界に伝承され,それが常時の遊びとして行われるようになったと考えられる。

 鬼ごっこの形式や方法はきわめて多様であるが,その概要は以下のとおりである。基本的には,(1)参加者の中から鬼を決める。これがいわゆる〈鬼定め〉で,じゃんけんで決めることが多い。(2)一般的に鬼は1人であるが,参加者数や形式によっては2人の鬼を決めることもある。鬼以外は子となり,決められた区画内を逃げまわる。(3)鬼が子を捕らえるか,またはタッチしたとき(さわり鬼),鬼と子の立場を交替する。この交替法もさまざまである。以上が基本的事項で,そのほかはそれぞれの名称にちなんだ形式・方法により,それなりの取決めに従って行われる。そのおもなものを挙げてみよう。

 (1)鬼定め 地方によっては鬼定めが鬼あそびの別称になっている。しかし,鬼定めそれ自体を遊びの一種として行うこともあり,〈手々甲(ぜぜがこう)〉とも呼んでいた。《世事百談》に〈手々甲といふことは(中略)その戯れは左右の手を組合せて,手の甲をたがいにうち鳴らしながら唱へて,その詞の終るところにあたれるものを鬼とさだまるよし。その唱への詞,むかいの河原で土器(かわらげ)やけば 五皿六皿七皿八皿めにおくれてづでんどっされ それこそ鬼よこれこそ鬼よ 蓑(みの)きて笠きてくるものが鬼よ〉とある。また《嬉遊笑覧》は〈手をくみ顔にあて手々甲といひて(中略)おもふに目に銭をあててさる戯れすることもあれば銭元興といひしにや。もと手をあててすることなれば手々甲と書たりと見ゆ(中略)これいづくにてもする鬼定めなり〉と述べている。内容としては,じゃんけん法が一般的に広く行われているが,〈ずいずいずっころばし〉などのはやしことば(歌)に合わせて行う法,かぞえる数と鬼に当たる数をあらかじめ決めておく数かぞえ法などに大別される。(2)会話型 鬼が決まれば合図によって鬼の追跡がはじまるが,この開始の合図を会話形式で行う。例えば,鬼が〈向いのお婆さんお茶のみに〉というと,子は〈鬼がいる(出る)のでよう行かぬ〉と応答する。(3)場所移動型 あらかじめ指定された数ヵ所を子は任意に移動し,その間に鬼は子を捕らえる。〈いえおに〉〈やどおに〉〈やどかえおに〉〈やどとりおに〉などの鬼あそびはこの類型である。(4)影踏み型 逃げまわる子の影を踏む法。〈影踏み〉〈影踏み鬼〉がこれである。(5)目隠し型 鬼は目隠しをして子を追跡し捕らえる法。いわゆる〈目隠し鬼〉で,江戸後期は〈めなしどち〉〈めんないちどり〉などとも呼んでいた。(6)子捕ろ型 〈子捕ろ子捕ろ〉の項参照。(7)区画型 ある形の区画を描き,それに応じたルールを定めて行う。例えば,〈エス(S)〉〈はぐるま〉〈はなびら〉〈ひまわり〉〈ひょうたん〉など多彩である。(8)どろじゅん(けいどろ)型 鬼が巡査(警察官),子が泥棒に扮しての追跡と逃避の遊びで,一般の鬼ごっこと基本的には同じである。(9)陣取り型 〈陣取り〉の項参照。(10)かくれんぼ型 単に逃げまわるだけでなく,適当な場所を見つけ,身を隠しながら鬼の追跡をのがれる。

 他にも木鬼,金鬼,高鬼など変型も数多くきわめて多彩である。鬼ごっこ系の遊びは,特別の遊具を使うわけでもなく,一見したところ地味で素朴な遊びと解されないでもない。それにもかかわらず,往昔から,洋の東西を問わずいずこの国でも行われてきた。子どもたちの遊び心を十分満足させてくれる代表的な童遊びである。
執筆者:

ヨーロッパにも日本の鬼ごっこにあたるたくさんの遊びがあり,古くから行われている。そしてこの遊びには,イギリスの〈ハンカチ落し〉にみられるように,しばしば歌がともなう。〈ハンカチ落し〉の歌は〈恋人に手紙をかいたら,途中でおっことした。すると君らのひとりがそれをひろって,ポケットにいれた〉で,遊び方は手をつないでつくった円陣を少女がかけまわり,自分のえらんだ少年のうしろにハンカチを落とす。この少年は円陣の内外を追って,少女をつかまえなければならない。〈ハンカチ落し〉は古代の略奪結婚の反映であるといわれ,おなじタイプのものに,〈娘のジェーン〉〈穴住まいの農夫〉などがある。

 イギリス,アメリカの鬼ごっこの基礎的形式は〈タッチ〉〈ティッグ〉〈タッグ〉〈彼〉と呼ばれるもので,狩猟に由来するといわれるが,古代の信仰とも関係があり,悪魔をあらわす〈彼〉になったものがみなを追うのである。逃げ手が鉄や材木にさわると,鬼はつかまえてはならぬという習慣があるのは,古代の俗信で鉄が悪霊をふせぐとされ,材木はキリスト教徒にとって十字架を意味するからである。また遊戯中に〈平和〉とか〈大麦〉とか言えば,休憩をもとめることができる。〈トム・ティドゥラーの領地〉〈捕虜の根拠地〉〈地獄の夫婦〉は鬼ごっこの発展した変形で,逃げ手に安全地帯のある点は日本の宿鬼に似ており,これらは戦争の模倣遊びであるといわれる。〈オオカミがきた〉は牧畜の模倣遊びであるが,遊び方はこれと似ている。ヨーロッパではこのほか,〈フランス鬼ごっこ〉〈サル打ち〉〈キツネ〉などの鬼ごっこの変形が遊ばれ,東洋においても中国,朝鮮,ボルネオなどでの遊びが知られている。
かくれんぼ
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「鬼ごっこ」の意味・わかりやすい解説

鬼ごっこ
おにごっこ

子供の遊戯のうち、戸外で集団で行う遊びの一つ。日本だけでなく世界的にも古くから知られている。遊びの特徴は、集団のなかにオニとよばれる者を1人選んで、終始このオニと個々の者との対立で遊びが展開していく。宗教的行事に起源があることは、昔からいわれていた。結局はこのオニも神威に屈服する形になるが、その前に個々の人間に対して横暴な行動がある。この点を誇張したり、興味をそそる扱い方をして、次の段階の神威を高揚する場面と対照的にしようとした演技が、多くの神社で演じられる神楽(かぐら)のもともとの形であった。鬼ごっこの遊びは、このなかの前段、すなわち人間に対して鬼が暴れ回る部分を模倣したのが、この遊びの原形であった。つまり一群のなかに1人の鬼を選び、追い、捕らえ、次の鬼と交代するという一つ一つの演技に条件をつけて、場所を限定したり、追われた際の安全地帯を設定したり、捕まった者が次の鬼になるという条件のまま鬼として新しい鬼を増やしていく方法など、長い間に遊びの仲間の間で変化をつけ、興味を加えるくふうがなされてきた。それにしたがって個々の名称も、盲(めくら)鬼、ため鬼、かくれ鬼(かくれんぼう)、まる鬼など、多くの名が生まれているが、今日でもまだ新しい遊び方が考案されていよう。盲鬼などはもっとも古い形と思われ、仮面をつけた鬼が人の子を追い回すというものである。かくれんぼうも、恐れて隠れる人の子を探すのがもとの形であったろう。これを子供たちが遊びのなかに取り入れたのであるが、こういうことはすべて子供自身が考え出したもので、成人が関与したとは思われない。また鬼ごっこを始めるにあたっては、鬼を選定することが大きな課題となる。いまは「じゃんけん」でたちまち決まってしまうが、以前は唱え言を使って決める場合が多く、これを「鬼きめ」という。その唱え言は各地に記憶されているから、方法は古くからあったものらしい。文政(ぶんせい)13年(1830)に成った喜多村信節(のぶよ)の『嬉遊笑覧(きゆうしょうらん)』のなかにも「ちっちゃ子もちゃ桂(かつら)の葉」という唱え言がみえている。参加者一人一人に1字ずつあてて数えてゆき、最後にあたったものが鬼になるという方法で、東京付近の人がよく知っている、「ずいずいずっころばし ごまみそずい……」という長い唱え言もこの鬼きめに使われたものであった。このほか遊戯中のルールなども、細かく定められているし、遊び場が原っぱや路地から団地の中の小公園などになり、遊戯場所が変化している今日、子供たちはこれを巧みに対応し利用して、遊び方法もくふうして次の代に引き継いでいくことであろう。

[丸山久子]

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百科事典マイペディア 「鬼ごっこ」の意味・わかりやすい解説

鬼ごっこ【おにごっこ】

古くから行われてきた子どもの遊戯。鬼遊びともいう。一人の〈鬼〉と残りの〈子〉に分かれて,鬼が逃げる子をつかまえる形が多い。人間生活をおびやかす存在としての〈鬼〉を追い払う追儺(ついな)などの祭事が,子どもの遊戯として伝承されたものと考えられる。→だるまさんがころんだ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鬼ごっこ」の意味・わかりやすい解説

鬼ごっこ
おにごっこ

鬼遊び,オニゴトともいい,子供の集団遊技の一つ。鬼追い,鬼平祭 (鬼が出現し大いに暴れたあと圧伏される) などの神事芸能の模倣から一般化したものである。1人の子供が目隠しをして鬼になり,その他は逃げ手として鬼に捕えられないように逃げまわる。「鬼さんこちら,手の鳴るほうへ」とか「鬼のいない間に洗濯しましょ」などと,鬼をからかう言葉を言ったりする。

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世界大百科事典(旧版)内の鬼ごっこの言及

【かくれんぼ】より

…具体的な遊び方は以下のとおりである。(1)鬼定め(〈鬼ごっこ〉の項目を参照)によって鬼を決め,他者全員が子となる。(2)鬼は所定の場所で,目を覆って〈もういいかい〉と叫び,〈もういいよ〉の返事があったときにさがしはじめる方法と,あらかじめ決められた数を数え終わったときにさがしはじめる方法とがある。…

※「鬼ごっこ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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