髪飾(読み)かみかざり

精選版 日本国語大辞典 「髪飾」の意味・読み・例文・類語

かみ‐かざり【髪飾】

〘名〙 髪を櫛(くし)、簪(かんざし)、笄(こうがい)などで飾ること。また、それらの装飾品。頭(かしら)飾り。
※浄瑠璃・夕霧阿波鳴渡(1712頃)相の山「ヲヲかみかざりは仮の戯れ。〈略〉只今某が切髪阿字の一刀。彌陀の利劔をもって煩悩の絆とく」

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改訂新版 世界大百科事典 「髪飾」の意味・わかりやすい解説

髪飾 (かみかざり)

髪にさしたり巻いたりして髪形や顔をひきたて,あるいは頭髪の乱れを防ぐ等の目的をもつ装身具。既に旧石器時代に貝の髪飾が使われたことが知られている。他の装身具類と同様多面的な用途をもち,保温・防備などの実用的な目的から,信仰心の反映であるもの,装飾本能や美的本能をみたすもの,そして性別,身分,集団への帰属などを象徴するものなどに分けられる。一般に,被り物や頭飾との区別がつきにくいものが多い。被り物系統の帽子頭巾手ぬぐいなども広義の髪飾に含まれるものである。髪飾を大別すると,結束物系統と挿物系統の2種に分けられる。結束物系統としてはターバン鉢巻リボンなどが,挿物系統にはかんざし),こうがい),ヘアピンなどがあげられる。材料も多種多様で,布,皮革,羽毛,花枝,貝類,獣の角や牙,貴金属類などあらゆるもので作られている。

日本古代の代表的髪飾としては,頭を巻く(かずら),さす髻華(うず)や挿頭(かざし)がある。髻華というのはうず高いもの,すなわち髻(もとどり)にさすものを本来意味し,挿頭は髪にさすものを意味した。石器時代に既に鹿の角や骨,あるいは木で作ったピン状の簪や飾櫛が存在した。古墳時代には花枝や木の芽を髪にさすことが流行,呪術的な目的ももっていた。この時代,大陸文化の影響と思われる銀製の釵子(さいし)(束髪ピンの類)もみられた。貴族階級では中国風の髪飾がもてはやされ,それは平安時代にも受けつがれ,頭に平打ちで鳳凰の飾りなどのせるようになった。宮廷の女官は髻を作って左右に釵子をさした。男子では金属製の挿頭花が冠の飾りとなった。官位や儀式によって,この花の種類が異なった。鎌倉時代には釵子と造花をあしらったものがはやり,後代これが花簪となっていった。

 一方,中国では古くから髪に花枝を飾る風があり,漢の時代にはその流れをくむ非常に複雑な髪飾〈歩揺(ほよう)〉があらわれている。歩揺とは花や獣をかたどった金製の装飾板を前額にあてたもので,上に珠の垂飾がついていて,文字どおり歩くたびにそれが揺れたので歩揺の名がある。

 奈良時代および平安時代の上流の女性たちは礼服のとき,髻の根元を金,銀の玉で飾るのがならいであった。室町時代になると,〈おしゃし〉と呼ばれる髪飾が登場する。これは円板に3本の笏形の飾りがついたもので,髻に釵子でさして,前から櫛1枚をあてたものである。近世,女子が下げ髪から髷を結うようになると,髪飾は飛躍的に発達し,多種多様なものがでてきた。江戸時代には,櫛,簪,笄のほか,掛物といわれる手絡(てがら),丈長(たけなが),根掛(ねがけ)などが用いられた。掛物は元結と共に,いわゆる日本髪に使われる髪飾である。元結はこの時代,金銀箔を用いたものや紅白の装飾的なものになった。櫛も蒔絵櫛や花櫛,簪も花簪やびらびら簪など,凝った細工物が次々と生まれた。丈長は平元結の流れをくむもので,江戸末期に流行した。手絡は結んだ髪の上に赤や紫の四角い裂(きれ)をかぶせて包んだのが始まりである。高価な縮緬(ちりめん)のものから紙製のものまである。根掛は籐や金糸銀糸を編んで作ったが,江戸時代末期から明治時代にかけて,高価な鼈甲(べつこう),珊瑚(さんご),真珠などの根掛も登場した。江戸時代は,上流の女性ばかりでなく,一般庶民の婦女子も競って粋で華やかな髪飾を求めた,髪飾の黄金時代であった。明治時代になり,近代化の象徴として束髪がとり入れられ,伝統的な日本髪が徐々に姿を消してゆくとともに,髪飾も衰退していった。代りに登場したのがヘアピンとリボンであった。大正時代には,一時カチューシャと呼ばれるゴム製の輪櫛が若い女性の間でもてはやされた。いわゆる洋髪になってからも,髪を長く編んだり,パーマネント・ウェーブをかけた髪を巻き込んだり,ヘアピンで止めていた時代には,まだかなりの髪飾がみられた。しかしショートカットした髪形が主流となった今日では必要のないものとなり,髪飾も特定の祭日や儀礼時以外にはみられなくなった。

古代の髪飾は,英語でフィレットfilletと俗に呼ばれている紐状,リボン状の飾りであった。鬘(かずら)の系統の飾りで,後代においても主流を占めた。古代エジプトでは,男女とも暑さを和らげ,清潔さを保つため頭をそっていたので,髪飾はかつらの飾りであった。金銀や宝石を使った冠のほか,髪にみたてて編んだ黒の細紐に鮮やかな色のリボンを結んだり,ロータス(睡蓮)の花を髪にさすことが好まれた。ギリシア,ローマ時代には,草を編んだコロナと呼ばれる月桂冠が,男子の髪飾として知られる。婦人はフィレットや,ステファニと呼ばれて三日月形の金属製の飾りを額の上につけた。中世から近世にかけては各種の被り物が発達し,初期を除いては,ルネサンスに至るまで髪がほとんど見えないような,頭巾やベールの類のきわめて装飾的な被り物の全盛となる。したがってこの時期には,目だった髪飾はほとんど見当たらないが,中世初期には長いおさげ髪にリボンや飾具がつけられた。中世末期では,クリスピンと呼ばれる,金線で作られ宝石をあしらったヘアネットがみられた。ヨーロッパにおける髪飾の黄金時代は,フランス革命に至るまでのルイ王朝時代であろう。宮廷を中心として,一様に大きな造形的な髪形を飾るべく,ありとあらゆる創意工夫が髪飾に施された時代であった。かつらも男女共に大いに用いられ,ふんだんに髪粉が使われた。フランス革命時,タイタス・カットと呼ばれる短い,まったくの断髪があらわれたが,長くは続かなかった。貴族のシンボルであった高々と結い上げた髪形に対する短期のレジスタンス現象と考えられる。第1次大戦後,本格的ショートヘアが登場するまで,長い髪は女性の美しさのシンボルであり,それとともに髪飾も生き続けたのである。

被り物との区別がつきにくいものが多い。遊牧民や山岳部の少数民族の女性の髪飾に華麗ですばらしいものが多い。パキスタンのカラシュ族の女性は子安貝を一面に縫いつけた髪飾をもっている。インドシナ半島北部の照葉樹林帯に住むアカ族の女性の髪飾はとりわけ豪華で,既婚者は装飾の多いとがったものを,未婚の娘は平らで飾りの少ないものをつける。未開社会では男の方が全般的により装飾的で,フィリピンの原住民ネグリトの若い男はビーズで飾ったヘアバンドを頭に巻き,ニューギニア高地の男は,祭りの日には極楽鳥やオウムの羽を満艦飾につけた冠状の飾りをつける。狩猟に出かける際にも,ダニ族の男はヒクイドリの羽を頭部に飾る。ポリネシアでは,男女とも花をたくさんつけた草や葉で編んだ冠を好んでつける。
(かつら) →被り物 →装身具
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