高階隆兼
生年:生没年不詳
鎌倉後期の宮廷絵所絵師。右近大夫将監。後伏見・花園天皇膝下の宮廷絵師として一時代を画した。延慶2(1309)年から元徳2(1330)年までの記録がたどれ,後伏見院寄進の日吉社神輿の彩色(1315),花園天皇の命による「愛染明王像」(1321),藤原為信筆の「加茂祭礼絵巻」の模写(1330)などがある。確定的な作品として御物「春日権現霊験記」(1309,宮内庁蔵)と「春日影向図」(1312,藤田美術館蔵)がある。前者は平安期の絵師常磐光長以来のやまと絵の伝統を復古させ,明度の高い色調と抑揚感のある軽やかな描線を用いた,格調のある完成度の高い作品である。隆兼自身の,あるいはその様式による現存作品として「玄奘三蔵絵巻」12巻(藤田美術館蔵),石山寺「石山寺縁起絵巻」7巻(内1~3巻が隆兼筆),京都矢田寺「矢田地蔵縁起絵巻」(2巻)などがある。また「絵師草子」(東京国立博物館蔵),「なよたけ物語絵巻」(金刀比羅宮蔵)など同様式の作例もあり,その影響は南北朝半ばごろまで続く。後継者に次代の宮廷絵所絵師を務めた隆継がいる。
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高階隆兼
たかしなたかかね
生没年未詳。鎌倉後期の画家。1309年(延慶2)に奉納された隆兼筆『春日権現霊験記(かすがごんげんれいげんき)』(宮内庁、国宝)の目録によれば、当時、隆兼は宮廷の絵所預(えどころあずかり)であった。したがって13世紀末にはすでに宮廷を中心として盛んに活躍していたと考えられる。1312年(正和1)ころ制作の『春日明神影向御車図(かすがみょうじんようごうみくるまず)』(大阪市・藤田美術館、重要文化財)も現存する。以後、文献によれば、隆兼は神輿(しんよ)の彩色、仏画の制作など幅広く画事を展開していたことが知られる。さらに1330年(元徳2)まで絵所預を務めたが、同時代の遺品には隆兼派あるいはその影響を受けた作品もみられ、当時一世を風靡(ふうび)した画家であったと考えられる。隆兼の画風は、それまでの大和絵(やまとえ)のさまざまな表現・技法を網羅しながら、さらに鮮麗な色彩や写実的な描写を加味した華やかなものであったことが遺品から知られる。
[加藤悦子]
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高階隆兼
たかしなたかかね
鎌倉時代末期の絵師。延慶2 (1309) 年3月奉納になる『春日権現験記絵巻』制作当時は,宮廷の絵所預 (えどころあずかり) として活躍,元徳2 (30) 年までその任にあった。また記録類から,その画事は絵巻のほか仏画の制作や神輿 (みこし) の彩色にまで及ぶことが知られる。現存の作例には上述の絵巻のほか,春日明神の影向を描いた1幅 (藤田美術館) がある。
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たかしな‐たかかね【高階隆兼】
鎌倉後期を代表する大和絵画家。宮廷の絵所(えどころ)の預(あずかり)として活躍。延慶二年(一三〇九)に「春日権現験記絵巻」二〇巻を描き、その緻密な描写は鎌倉時代大和絵の技巧の極致を示す。このほか「法相宗秘事絵巻」は隆兼筆とされている。生没年未詳。
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高階隆兼 たかしな-たかかね
?-? 鎌倉時代の画家。
宮廷の絵所預(えどころあずかり)をつとめる。現存作品に絵巻「春日権現験記」(宮内庁),「春日明神影向(ようごう)御車図」(藤田美術館)があり,「石山寺縁起」(石山寺)も隆兼がえがいたとつたえられる。
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デジタル大辞泉
「高階隆兼」の意味・読み・例文・類語
たかしな‐たかかね【高階隆兼】
鎌倉後期の絵師。絵所預。大和絵技法の完成者とされる。「春日権現験記絵巻」「春日明神影向御車図」が現存。生没年未詳。
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たかしなたかかね【高階隆兼】
鎌倉末期の絵師。生没年不詳。1309年(延慶2)から1330年(元徳2)まで,宮廷の絵所預の任にあった。代表的遺品として,時の権力者西園寺公衡が発願し1309年春日大社に奉納された《春日権現験記》があげられる。絵巻としては珍しい高価な絹地を用い,20巻に及ぶ大作を高い密度をもって終始入念に描いている。伝統的な宮廷絵所の正系を受け継いだ隆兼にふさわしく,それまでのやまと絵の表現技法を集大成した感があり,そこに諸モティーフの洗練しつくした様式化,精緻鮮麗な賦彩,簡潔的確な描線とそれを生かす彫り塗り技法,さらには装飾的表現のうちに深い情趣性を保つ自然描写など独自の表現を加え,明晰で典雅な画風を作り出している。
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世界大百科事典内の高階隆兼の言及
【春日権現験記】より
…御物。付属の目録奥書によって,1309年(延慶2)に西園寺公衡(きんひら)が春日明神の加護による藤原氏一門の繁栄を祈願するため春日大社に奉納したこと,絵は宮廷の絵所預(えどころあずかり)高階隆兼(たかしなたかかね)が描き,詞書を公衡の弟,覚円法印が起草して前関白鷹司基忠とその子息3人が書き写したことが知られる。絵巻としては珍しく絹本を用い,保存もきわめて良く,鎌倉後期の社寺縁起絵巻の代表作といえる。…
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