高野聖(泉鏡花の小説)(読み)こうやひじり

日本大百科全書(ニッポニカ) 「高野聖(泉鏡花の小説)」の意味・わかりやすい解説

高野聖(泉鏡花の小説)
こうやひじり

泉鏡花の中編小説。1900年(明治33)2月『新小説』に発表。08年2月、佐久良書房刊。鏡花の生まれた石川県金沢は白山近く、多くの伝説が語り伝えられている。『高野聖』もまた深山幽谷の山姫伝説を基盤に据え、絶妙な語りの形式をみせる。語り手は旅僧宗朝。雪の夜の敦賀(つるが)の宿で、旅僧は泊まり合わせた「私」に、かつて飛騨(ひだ)から信州へ越える山中で巡り会った、不思議なできごとを語って聞かせる。山中の孤(ひと)つ家に白痴の男と住む美女。若き日の宗朝はそこで妖(あや)しくも恐ろしい一夜を過ごすことになる。彼より一足先に山に入った富山の薬売りは蘆毛(あしげ)の馬に変えられたらしい。女はいよいよ美しく、孤つ家を照らすのは皓々(こうこう)たる月明。ロマン主義の香り高い作品である。

笠原伸夫

『『高野聖』(岩波文庫・旺文社文庫・角川文庫・新潮文庫)』『村松定孝著『泉鏡花』(1966・寧楽書房)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

青天の霹靂

《陸游「九月四日鶏未鳴起作」から。晴れ渡った空に突然起こる雷の意》急に起きる変動・大事件。また、突然うけた衝撃。[補説]「晴天の霹靂」と書くのは誤り。[類語]突発的・発作的・反射的・突然・ひょっこり・...

青天の霹靂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android