家庭医学館 「高血圧(症)」の解説
こうけつあつしょう【高血圧(症) Hypertension】
高血圧の誘因
高血圧の症状
高血圧の治療
高血圧(こうけつあつ)とは
◎血圧の診断基準
◎血圧測定と注意事項
◎高血圧の種類
◎高血圧はなぜ、治療が必要か
◎血圧の診断基準
●診断基準のいろいろ
動脈に異常に高い圧がかかる状態が高血圧(症)です。
高血圧かどうかは、実際に測定した血圧の値と診断基準の値を照合し、判断します。国際的なものとして、アメリカの血圧に関する合同委員会(JNC)のガイドラインや、WHO(世界保健機関)と国際高血圧学会(ISH)の診断基準がありますが、日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2004」でも基準とする値は同じです。(図「日本高血圧学会の定義」)
●基準値とは
診断基準の値は、すべて安静を守っているときの数値です。
血圧は変動しやすく、ちょっとからだを動かしただけでも上昇し、瞬間、瞬間で変わっているといっても過言ではありません。
このため、もっとも低い状態にある安静を保っているときの値で比較することがたいせつなのです。
したがって、血圧を、医師に測ってもらうにしろ、自分で測るにしろ、安静にした状態で測ることが必要です。
◎血圧測定と注意事項
●血圧計のいろいろ
血圧を測定する血圧計には、血圧の高さを針で指し示すアナログ式水銀血圧計と、数字で表現するデジタル式電子血圧計とがあります。
また、血圧計には、上腕(二の腕)で測定するものと、指先や手首で測定するものとがありますが、医師は、必ず上腕で測定します。上腕で測った値のほうが、より正確だからです。
●医師の血圧測定としくみ
上腕で測る血圧計には、空気でふくらませるマンシェット(パフ)という袋があります。
このマンシェットを上腕に巻くと同時に、腕に聴診器を当てます。
マンシェットに空気を入れ、腕を圧迫していくと、血液の流れる音や拍動(はくどう)が聴診器から感じられなくなります。動脈がマンシェットに圧迫され、血液の流れがストップしたのです。
つぎにマンシェットから空気を抜いていくと、聴診器を通じて血液の流れる音や拍動が感じられるようになります。圧迫が緩み、動脈内を血液が流れ始めたのです。
このときに血圧計が示している数値が、心臓が血液を送り出したときの収縮期血圧(血圧とはの「収縮期血圧と拡張期血圧」)です。
さらにマンシェットの空気を抜いていくと、血液が流れる音や拍動が感じられなくなります。マンシェットの圧迫が完全に取り除かれ、血液の流れる音や拍動が聴診器を介して伝わらなくなったのです。
このときに血圧計が示している数値が、心臓が血液を送り出した後、広がって血液をためている拡張期血圧(血圧とはの「収縮期血圧と拡張期血圧」)です。
この数値と診断基準の数値を比較し、高血圧かどうか診断します。
●血圧を測るときの注意
診断基準の数値は、安静にしているときの数値です。
したがって、自分の血圧を測るときは、同じように安静にした状態で測ることがたいせつです。
息を弾ませたような状態で測ると、安静にしているときよりも血圧が上昇し、診断基準と比較しても意味がなくなります。
血圧を測る前は、最低、3分間は安静にした状態を保つようにします。
測定前に数回、深呼吸するとより効果があります。
医師やナースに血圧を測ってもらう場合、「測られる」ということ自体がプレッシャーとなって、血圧が上昇し、高血圧の値を示すことがあります。これを白衣性高血圧(はくいせいこうけつあつ)(コラム「白衣性高血圧」)といいます。
マンシェットは心臓と同じ高さに巻き、腕も心臓と同じ高さに保ちます。
◎高血圧(こうけつあつ)の種類
血圧を上昇させる病気が存在すると、当然、高血圧がおこってきます。このような高血圧を続発性(ぞくはつせい)高血圧または二次性高血圧といいます(「続発性高血圧(二次性高血圧)」)。
一方、血圧を上昇させる病気が存在しないのに、高血圧がおこってくることもあります。このような高血圧を本態性(ほんたいせい)高血圧または一次性高血圧といいます。
頻度は、本態性高血圧のほうが圧倒的に多く、血圧測定で高血圧と診断されたケースの90%以上が本態性高血圧です。このため、医師が単に「高血圧です」といった場合は、本態性高血圧のことを指します。
以後、この項で使用する「高血圧」という用語は、本態性高血圧のことを指しています。
◎高血圧(こうけつあつ)はなぜ、治療が必要か
動脈の内側は、内皮細胞(ないひさいぼう)という細胞でおおわれています。
この内皮細胞は、抗凝固物質(こうぎょうこぶっしつ)を分泌して血液がかたまらないようにする、一酸化窒素(NO)を分泌して動脈にれん縮(けいれんして縮む)がおこらないようにするなどのはたらきをして、血液がいつもスムーズに流れるようにしています。
血液には、血球(赤血球(せっけっきゅう)、白血球(はっけっきゅう)、血小板(けっしょうばん))や栄養素などが溶けていて、粘りけがあって、つきたてのお餅(もち)のような感じです。
この粘りけのある血液は、時速25kmぐらいの脈波によって流れています。これは、太い動脈の速さで、末端の細い動脈ほど、もっと速くなります。
高血圧では、粘りけのある血液の流れがもっと速く、いいかえれば、動脈内が土石流(どせきりゅう)に襲われているのと同じ結果になります。
土石流に襲われるのですから、内皮細胞は傷つきます。
初めのうちは、内皮細胞が修復物質を分泌するので、傷はすぐに治るのですが、これがくり返されるうちに、傷跡が残るようになります。そこからコレステロールなどの血液中の脂質がしみ込んで、粥状硬化(じゅくじょうこうか)(「動脈硬化症」)という動脈硬化が発生したり、修復反応として血管壁の筋細胞(平滑筋細胞)が増えて、内膜でコラーゲンなどの線維たんぱくをつくり、動脈がかたくなります。
動脈硬化がおこると、内皮細胞のはたらきが低下し、細動脈がれん縮したり、狭窄がおこって血液が流れにくくなります。
すると、カテコラミン(カテコールアミン)の分泌が増え、より多くの血液を流そうとしますが、その結果、細動脈が収縮して血圧が上がり、動脈硬化が進行するという悪循環におちいります。
このようにして動脈硬化が進行すると、脳血管障害(のうけっかんしょうがい)(脳梗塞(のうこうそく)、脳出血(のうしゅっけつ)など)や虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)(心筋梗塞(しんきんこうそく)など)という日本人の死亡原因の2位、3位を占める病気を誘発します。
高血圧の状態にあっても、痛くもかゆくもないことが多いのですが、治療をしなければならない理由がここにあります。
高血圧(こうけつあつ)の誘因
◎誘因のいろいろ
高血圧は、つぎのような誘因が加わっておこってきます。
①体質
②加齢(かれい)
③塩分(食塩)のとりすぎ
④寒さ
⑤肥満
⑥ストレス
⑦性格
これらの誘因を数多くもっている人ほど、高血圧になりやすいのですが、1つが加わっただけで高血圧になる人もいます。
◆体質
◆加齢(老化)
◆塩分(食塩)のとりすぎ
◆寒さ
◆肥満
◆ストレス
◆性格
◆体質
●高血圧になりやすい体質がある
高血圧になりやすい体質があって、この体質は、親から子へと遺伝する可能性の高いことがわかっています。
両親が高血圧だった場合は60%、一方の親だけが高血圧であっても30%の確率で、子どもが高血圧になるといわれています。
これに対し、血圧が正常だった両親から生まれた子が高血圧になる危険性は、5%にすぎません。
しかも、親が40歳代で高血圧になったのであれば、その体質を受け継いだ子も、40歳代で発症することが多いといわれています。
一方、高血圧の誘因がいくら加わっても、血圧が正常な人が大勢います。
それだけ、高血圧は遺伝関係が濃厚な証拠といえるでしょう。
ただし、一見、体質の遺伝と思える高血圧が、両親とともに高血圧になりやすい生活をしていたためということもあります。
たとえば、両親と生活を別にしたら血圧が正常化した場合、塩分のとりすぎなどの、体質以外の誘因で高血圧になっていることが多いのです。
◆加齢(老化)
年齢が高くなるにつれ、高血圧の人が増えてきます。
統計によると、50歳代は2人に1人、60歳代は3人に2人、70歳代になると4人に3人がそれぞれ高血圧という結果になっています。
年齢が高くなるほど高血圧の人が多くなるのは、細動脈がかたくなってきて、血液が流れにくくなるからです(末梢血管(まっしょうけっかん)の抵抗増大)。
末梢血管の抵抗が増大すると、心臓は拍動を強め、より強い勢いをつけて血液を送り出します。血液に勢いをつけ、からだのすみずみにまで十分な血液を届けようとするのです。
その結果、動脈に高い圧がかかるようになり、高血圧が発症してきます。
このように年をとってからおこってきた高血圧を老年性高血圧といい、心臓が血液を送り出したときの血圧、つまり最高血圧が高く、最低血圧はほとんど高くならないのが特徴です。
◆塩分(食塩)のとりすぎ
●食塩過剰摂取地域に高血圧が多い
どこで高血圧の発生が多いかを調べてみると、東北・北陸・北関東などの地域での発生が多く、関西、とくに大阪・京都・兵庫といった地域は少なくなっています。
これらの地域の食塩摂取量を比較してみると、東北・北陸・北関東地方は、食塩の摂取が多く、関西地方は少なくなっています。食塩の摂取量が多い地域ほど高血圧になる人が多いのです。
これは、日本だけではなく、世界的な傾向です。
たとえば、ブラジルのアマゾン川流域に住む先住民やアラスカ地方に住むイヌイットの人たちは、調理にほとんど食塩を使わず、高血圧になる人がごくわずかです。
これに対し、ドイツ、スウェーデン、ノルウェーなどの国の人は、食塩の使用量が多く、高血圧になる人が多くなっています。
食塩過剰摂取の弊害の啓蒙(けいもう)がゆきわたるにつれ、東北・北陸・北関東の食塩使用量は減り、それにつれ、高血圧になる人も減ってきています。
これらのことをみても、食塩過剰摂取は、高血圧発症の重要な誘因であることは明瞭(めいりょう)でしょう。
ところで、高血圧になっている人に味覚試験を行なってみると、食塩に対する舌の感受性が鈍い人がいます。たばこを吸う人や糖尿病を合併している人によくみられます。
こういう人が高血圧の治療を受け、血圧が正常になると、食塩に対する味覚感受性が鋭くなります。
つまり、食塩に対する感受性の鈍い人は、塩味を感じにくいために食塩を過剰に摂取していたといえるのです。
●摂取量は、1日10g未満に
厚生省(現厚生労働省)は、食塩の摂取量を男性は1日10g未満、女性は8g未満を目標量として定めています。
人間は、1日6gの食塩摂取量でも健康に害のないことが確かめられています。
●食塩が血圧を上げるしくみ
食塩は、ナトリウムとクロール(塩素(えんそ))でできていますが、血圧を上昇させるのはナトリウムのほうです。
ナトリウムが血圧を上昇させるしくみは複雑で、全容はまだわかっていませんが、おもに交感神経の反応が高まり、血圧が上昇することがわかっています。
また、ナトリウムの量が増えると、脳の視床下部(ししょうかぶ)の神経核や第三脳室の周囲組織などの神経系の反応も高まり、血圧を上昇させます。
一方、食塩を過剰に摂取すると、のどが渇き、飲む水分の量が増えます。その結果、血液中の水の量が増えます。
そのため、全身をめぐる血液の量が増え、動脈にかかる圧が上がります。
そのほか、食塩を過剰に摂取すると、ナトリウムポンプ(細胞内にたまった余分なナトリウムを汲(く)み出す装置で、細胞膜に存在)のはたらきの低下、血圧を上げるレニン・アンギオテンシンやバソプレシンの増加、血圧を低下させるプロスタグランジンの減少といった現象がおこり、血圧を上昇させるともいわれています。
◆寒さ
寒気に皮膚が触れると、体温が奪われるのを防ぐために、皮膚表面近くの血管が収縮します。交感神経が血圧を上昇させるカテコラミン(「血圧とは」)の分泌を増加させ、その結果、全身の細動脈が収縮し、血圧が上昇するのです。したがって、冬は血圧が上昇しやすいのです。しかも、高血圧の人ほど、寒くなると血圧が高くなります。
血圧の正常な人は、冬に血圧が上がっても20mmHg程度ですが、高血圧の人は、40~50mmHgも高くなることもめずらしくありません。
血圧の高い人が脳卒中(のうそっちゅう)で寒い季節に倒れたりするのは、この大きな血圧の変動が関係しています。
高血圧の人は、寒さに対する防護を十分にする必要があるのです。
◆肥満
「肥満は万病の元」といわれ、糖尿病その他さまざまな病気のリスクファクターにあげられていますが、高血圧も発症・増悪(ぞうあく)しやすくなります。
とくに内臓に脂肪がたまる内臓蓄積型肥満症候群(体型は、太っていないこともある)は動脈硬化がおこりやすく、この動脈硬化が高血圧を誘発するのです。太ると、心臓は、より広い面積に血液を流さなければならなくなります。このため、心臓は、拍動を強め、高い圧をかけて血液を送り出すようになります。これも高血圧を誘発する原因の1つです。
肥満は生体にとってはストレスとして反応し、カテコラミンを多く分泌し、インスリンの抵抗性も出現します。すでに高血圧になっている人が太ると、ますます血圧が高くなり、血圧を下げる薬(降圧薬(こうあつやく))を使ってもなかなか下がりません。
逆に、太っている高血圧の人がやせると血圧が下がってきます。
肥満と高血圧は関係が深いのです。
◆ストレス
●ストレスとは
ストレスは「精神的・肉体的に負担となるような刺激(ストレッサー)」という意味です。なにがストレスになるかは、人それぞれに異なります。
ビジネスマンであれば、通勤ラッシュ、仕事上のノルマ、職場の人間関係のトラブル、取引先とのトラブル、定年や転職などがストレスになることが多いものです。
昇進、栄転、昇給といった一見、好ましいことでもストレスになる人もいます。
また、家庭内の人間関係のトラブル、子どもの受験・就職・結婚問題のほか、好きな競馬やプロ野球の結果などがストレスになる人もいます。
こうしたストレスが、血圧を高くし、高血圧を発症させてしまうことも少なくありません。
●ストレスが血圧を上げるしくみ
ストレスが加わると、交感神経の反応性が高まり、カテコラミンやアルドステロンなどの血圧を上昇させるホルモンの分泌が増えます。ホルモンの分泌を増やし、ストレスをはね除けようとするのです。したがって、血圧が上昇します。
ストレスから身を守ろうとするからだのはたらきが、高血圧を招いてしまうのです。
◆性格
つぎのような言動をとる人をA型性格(タイプA)といい、高血圧のみならず、心筋梗塞(しんきんこうそく)などの虚血性心疾患がおこりやすいものです。
①怒りっぽい
②いつも、人より一歩先んじていないと気がすまない
③いらいらしたときに、貧乏ゆすりをしたり、指先で机をたたいたりする
④自分が忙しいことを自慢する
⑤仕事が好きで、朝から晩まで仕事、仕事ですごす
⑥時間に追われている状態を自慢する
⑦家庭よりも、仕事を優先させる
⑧周囲の人のやることが遅いといらいらする
⑨食べ方が速い
⑩一度にいくつかの仕事をこなそうとする
⑪挑戦的な言動をとることが多い
簡単にいえば、せっかちで、忙しがり屋で、仕事熱心な人がA型性格といえるでしょう。
こういう人は、自分からストレスを求め、それを克服することを誇りとし、それを生きがいとしているようなところがあります。
これがストレスとなって血圧を上昇させるのです。
A型性格の人にストレスが加わると、交感神経の反応性がとくに高まり、カテコラミンの分泌が増えて、高血圧が発症しやすいのです。
これに対し、のんびり屋で、いつも自分のペースをくずさない性格をB型性格(タイプB)といいます。
高血圧や虚血性心疾患のおこる危険はA型性格の人よりもずっと少ないものです。
高血圧(こうけつあつ)の症状
◎特有な症状はない
血圧が徐々に上昇しているときには、症状を感じないのがふつうです。
したがって、症状の有無から高血圧かどうかを判断することはむりです。
血圧が急に上昇すると、
①頭重(ずじゅう)・頭痛
②肩こり
③耳鳴(みみな)り
④めまい
⑤動悸(どうき)
⑥顔のほてり
⑦吐(は)き気(け)
⑧手足のしびれ
などの症状を感じることがあります。
高血圧の人は、血圧が動揺しやすく、上がったり、下がったりします。そういうときに症状を感じることがあるのです。
しかし、これさえあれば高血圧という特有な症状はありません。どれも、いろいろな病気でみられる不特定な症状です。
症状から高血圧かどうかを判断することもできないわけです。
高血圧かどうかは、年1、2回、定期健康診断を受け、確かめるのがいちばんです。
市販の血圧計を利用して、ときどき家庭で自分の血圧を測定してもいいでしょう。
高血圧(こうけつあつ)の治療
◎生活改善が治療の中核
◎治療内容の決め方
◎治療は生涯、続ける
◎日常生活のその他の配慮
◎薬物療法
◎生活改善が治療の中核
高血圧は、さまざまな誘因が加わって発症してきますが、とくに、その人の長年にわたる生活習慣がかかわっていることが少なくありません。
この生活習慣を変えないかぎり、十分に血圧は下がりません。たとえ下がっても一時的なもので、また、上昇してきます。したがって、高血圧を治療するには、まず、この生活習慣を改めなければなりません。
これを生活習慣の変容(LSM)といい、治療の根幹となります。
その中核となるのは、減塩、脂肪の摂取制限と野菜・果物の積極的摂取、肥満の解消、飲酒の制限、運動の実行、禁煙などです。これだけで、血圧が下がってくる人がかなりいます。
◎治療内容の決め方
初診の際に、医師は、血圧、病歴、検査結果などから、他の病気の症状としておこる続発性高血圧かどうかを見分けます。そして、喫煙・糖尿病・肥満・高齢などの危険因子があるか、高血圧によって臓器に障害がおこっていないかどうか、狭心症・心筋梗塞などの心血管病の有無などを評価し、生活習慣の改善を指導します。
さらに、軽症の高血圧で低リスクの人には、生活改善の指導から3か月後に血圧を測り、降圧薬による治療を始めるかを判断します。
中等リスクにあたる人には、1か月後に血圧を測り、血圧の改善がみられなければ降圧薬治療を始めます。
高リスクにあたる場合は、降圧薬治療を始めるとともに、生活習慣の改善を指導します。
◎治療は生涯、続ける
高血圧の治療は、血圧が正常になればやめてもいい、というものではありません。
治療をやめれば、血圧が上昇し、合併症がおこる危険が高くなります。
治療は、生涯、続けなければいけないのです。ただ、治療を続けているうちにたとえば肥満がなくなって、降圧薬は必要なくなることもあります。しかし、生活習慣の変容だけは、生涯、続けることが必要です。
●減塩
高血圧の人は、食塩を1日6gの摂取にとどめます。
これは、調理に使う食塩だけではなく、いろいろな加工食品に使われている食塩をも含めた量です。
食塩は、みそ、しょうゆなどの調味料のほか、梅干し、漬物、つくだ煮、インスタントラーメン、ちくわ、かまぼこなどの日本独特の食品のほか、食パンなどにも含まれています。
どの食品に、どのくらいの量の食塩が含まれているかを知り、とりすぎにならないように注意しましょう。
じょうずに減塩するには、減塩しょうゆ、減塩みそなどの減塩食品を利用したり、うどんの汁を残すのも1つの方法です。
●肥満の解消
体重(kg)を、身長(m)を2乗した数値で割った答えが、24以上であれば太りすぎで、25以上は肥満です。値が24以下になるように減量しましょう。減量のポイントは、食事の見直しです。運動で減量することは、たいていは、不可能です。
3~6か月間で、5キロ程度減量するのが理想ですが、1日の摂取エネルギー量が、1600kcal以上を摂取していたのでは、実現がおぼつきません。医師や栄養士と相談し、正しい減量法をマスターしましょう。
●飲酒制限
酒類を飲みすぎると血圧が上昇します。飲酒をすると血圧が下降しますが、一時的な現象で、翌日には、その反動でかえって血圧は上昇するのです。
禁酒をするのが理想ですが、飲むにしても、日本酒で1合、焼酎(しょうちゅう)で半合、ビールで大びん1本、ワインでワイングラス2~3杯、ウイスキーでダブル1杯程度にし、週2回の禁酒日を設けるようにします。
●運動の実行
運動をすると、筋肉細胞に血液を送る細動脈が広がり、全身の血液がスムーズに流れるようになって、血圧が低くなります。
また、動脈硬化の発症・進行を防ぐ善玉(ぜんだま)コレステロール(HDLコレステロール)の量が増え、動脈硬化を発症させたり進行させる悪玉(あくだま)コレステロール(LDLコレステロール)の量が減少します。
効果があるのは、酸素を体内に取り入れながら行なう有酸素運動(ゆうさんそうんどう)(エアロビクス)です。
20~30分のうっすらと汗ばむ運動が最適ですが、休み休みやるのではだめで、20~30分やり続けることが必要です。運動は何でもいいのですが、誰にでも手軽にできるのは、速歩でしょう。
思い出したようにときどきやるのも効果があがりません。できるだけ毎日続けることがたいせつです。
息を止めて行なう無酸素運動(アネアロビクス)、たとえば、100mの全力疾走などは、高血圧にはかえってよくありません。
●禁煙
たばこを吸うと、煙に含まれる一酸化炭素が、酸素よりも早く赤血球と結びついてしまうために、血液は、酸素不足の状態になります。つまり、喫煙は、体内に慢性の一酸化炭素中毒の状態をつくり出しているわけです。
この酸素不足を解消するために、からだは赤血球の数を増やすことで対応します。
赤血球の数が増えると、粘りけが増し、細胞レベルでの微小循環障害(血圧とはの「血圧と微小循環障害」)が助長され、血圧が上昇します。
喫煙は、HDLコレステロールの量を減らし動脈硬化を発症・進行させ、血圧を上昇させます。
◎日常生活のその他の配慮
●食事
炭水化物(糖質)、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル(電解質)の五大栄養素が不足しないような食事を心がけるほかに、食物繊維(ダイエタリー・ファイバー)も適宜、摂取することがたいせつです。
それには、好き嫌いをせず、いろいろな食品を摂取するように心がければ、まず、心配ないでしょう。
いろいろなものを食べて、栄養がかたよらないようにします。
とくに脂質を控え目にしながら、濃緑色野菜、海藻、果実、肉類などを適宜食べて、カリウムが不足しないようにします。
カリウムには、腎臓(じんぞう)からのナトリウムの排泄を促進し、体内にためないようにする、血圧を下降させる作用のあるカリクレイン(腎臓が分泌)の量を増加させるといったはたらきがあります。したがって、カリウムが不足すると、血圧が高くなります。
●睡眠
睡眠中は、血圧を下げる副交感神経の反応が高まり、血圧が正常な人でも、10~20%血圧が下がります(ディッパータイプ)。
高血圧の人のなかには、血圧の下がり方が10%以下の人や、逆に血圧が上昇する人もいます(ノン・ディッパータイプ)。こういう人は、臓器障害を合併しやすいことがわかっています。
また、高血圧で睡眠中に20%以上も血圧が下がる人(エキストラ・ディッパータイプ)に脳のMRIを行なうと、無症候性の脳梗塞(のうこうそく)が発見されることがあります。
ノン・ディッパータイプやエキストラ・ディッパータイプは、自律神経が不安定なためにおこるので、自律神経を安定させる薬の服用が必要なことがあります。
●トイレ
高血圧の人が、寒いトイレで脳出血(のうしゅっけつ)などの合併症をおこして倒れる事故があとを絶ちません。
これは、寒さといきみが関係します。
寒いと血圧が上昇しますが、排便の際にいきむとさらに血圧が上がり、脳出血がおこりやすくなるのです。
しゃがんで用をたす日本式の便器は、いきみが強くなって、とくによくありません。西洋便器にかえましょう。日本式便器の上に置くだけで西洋式になる便器も市販されています。
寒い季節には、トイレの保温にも気を配りましょう。便座にヒーターを取りつけるだけでも効果があります。
●入浴
入浴中に心筋梗塞(しんきんこうそく)や脳梗塞(のうこうそく)などの合併症で倒れる人もあとを絶ちません。
これは、熱い湯に入ったり、大量の汗をかいたりするためです。熱い湯に入ると、その刺激で血管が収縮し、血圧が上昇し、大量の汗をかくと血液中の水分が少なくなって血液がかたまり、細い血管につまるからです。
高血圧の人は、39~40℃程度のぬるめの湯に入るようにしましょう。
そうすれば、合併症で倒れる気づかいはありませんし、血管が開き、血圧が下がる効果も期待できます。
●セックス
高血圧の人が、自制心を完全に失うようなセックスにおぼれると、合併症による腹上死(ふくじょうし)をおこす危険があります。
夫婦間のように、長年、慣れ親しんできて、思いやりのあるセックスであれば、まず、安全です。ただ、夫婦間であっても、酔っ払ってのセックスは、非常に血圧を上昇させるので危険です。
●保温
寒さは、血圧を上昇させ、高血圧を悪化させます。寒い季節は、十分な保温を心がけましょう。とくに、寒さに対する防護を十分にとらずに、暖かい部屋から寒い戸外にいきなり出ると、血圧が急上昇して危険です。
冷房してある室内での冷えすぎも高血圧にはよくありません。自分で室温をコントロールできないオフィスなどでは、1枚、重ね着をするなどして、保温に注意しましょう。
◎薬物療法
●人によって効果的な降圧薬(こうあつやく)が異なる
降圧薬に対する反応(感受性)は、一人ひとりちがうので、重症度が同じであれば、効く降圧薬も同じというわけにはいきません。ある人にはとても効果のあった降圧薬が、ある人には副作用が強く出て、使えないということもしばしばです。
●生活習慣の変容を必ず実行する
薬だけで血圧を下げようとするのは、まちがいです。減塩、肥満の解消、飲酒の制限、運動の実行、禁煙といった生活の改善は、必ず実行してください。医師は、生活習慣の変容が実行されていることを前提にして降圧薬を処方していますから、これが実行されていないと、降圧薬の効果が十分に発揮されないこともあります。
●降圧薬を服用するときの注意
降圧薬は、決められた量を、決められた時間に、きちんと服用します。
正しく服用しないと、思わぬトラブルがおこることがあります。
高血圧は、からだのすみずみに十分に血液を届けるためにおこっています。この血圧を薬で下げるということは、からだと薬のせめぎあいをおこさせているわけで、誤った服用のしかたをすると、思わぬトラブルに見舞われることがあります。
たとえば、1回飲み忘れたからといって、2回分を一度に飲んだりすると、血圧が下がりすぎ、かえって、脳血管障害や心筋梗塞などの合併症がおこったりします。
そのほかに、つぎのような注意も守ってください。
①水といっしょに服用する
降圧薬は、コップ1杯以上の水、できればぬるま湯といっしょに服用します。水といっしょに飲まないと薬が胃で溶けにくく、十分に効果がでません。
とくに、お年寄りは、水といっしょに飲まないと、薬をのどにつかえさせる危険もあります。
②決められた診察は必ず受診する
その人に合った降圧薬を決めるには、何回かの診察が必要です。決められた診察は、必ず受けてください。
これは、血液の異常など、目に見えない降圧薬の副作用の有無を調べるためにもたいせつなことです。
③副作用らしい症状に気づいたら、医師に報告
降圧薬を服用する前にはなかった症状が現われたら、治療を担当する医師に早めに報告してください。
それが副作用の症状で、その降圧薬が使えなくなっても、たいていは降圧薬の種類を変えることで解決できます。また、降圧薬が効きすぎて血圧が下がった症状であることもあります。