馬面(読み)うまづら

精選版 日本国語大辞典 「馬面」の意味・読み・例文・類語

うま‐づら【馬面】

〘名〙
発心集(1216頃か)四「さまざまの形したる鬼神、諸のたけきけだもの数も知らず集る。馬面なるもあり、牛に似たるもあり」
咄本・鯛の味噌津(1779)佐次兵衛「女房の顔は馬づらだんのう」
浜荻庄内)(1767)「皮はぎを馬づら又かうぐり」

ば‐めん【馬面】

〘名〙
① 馬の顔。また、人の顔で馬のように長いもの。うまづら。
※発心集(1216頃か)四「諸のたけきけだもの数も不知集る馬面(バメン)なるもあり、牛に似たるもあり」 〔北史‐斛律光伝〕
馬具の一つ。馬の面に当てる具。唐鞍(からぐら)の銀面、近世馬鎧(うまよろい)の龍面(りょうめん)の類の総称馬面鎧。〔文明本節用集(室町中)〕

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デジタル大辞泉 「馬面」の意味・読み・例文・類語

うま‐づら【馬面】

馬のように長い顔。顔の長い者をあざけっていう語。うまがお。
馬面はぎ」の略。

ば‐めん【馬面】

馬の顔。また、馬のように長い顔。馬づら。
馬具の一。馬の額から鼻のあたりをおおうもの。装飾用と武装用とがある。

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改訂新版 世界大百科事典 「馬面」の意味・わかりやすい解説

馬面 (ばめん)

馬の顔面や額の保護を兼ねた装飾で,大別して額だけを飾る短いものと,額から鼻までの長手のものとがあり,まれな例としてパジリク出土の頭部全体を飾るものがある。中国では時代によって,当盧(とうろ),錫(よう),鏤錫(ろうよう)などの名称も用いられた。木,革,蚌(ぼう),象牙,銅,青銅,金銅,銀,金など各種の材質が使われ,石を象嵌した青銅製品もある。東アジアから北方ユーラシア,西アジア,地中海世界に広く分布し,さまざまな形が知られている。中国を中心に展開した多様な形の変化と,西アジアから伝播した形が認められるので,二つの中心のあったことがわかるが,相互の影響関係は明らかでない。中国古代では,殷代に蚌そのもの,それを模倣したとみられる獣面表出の帆立貝形,宝珠形が用いられ,西周には双耳を大きく表現した長手の,正面から見た馬の頭をかたどった形が流行し,戦国時代から漢代にかけては,圭字形およびまわりには切込み,中央に十字形透しを入れた形のいずれも長手の馬面が行われ,漢代にはミニチュアの明器もつくられた。前9世紀の西アジアでは,三角形や台形の金属あるいは象牙製の馬面が一般的で,2個を蝶番でつないで長くした形も行われ,これがキプロス島やギリシア世界に広がり,中ほどに節のある長手の馬面になった。これらには打出しか浮彫で女性裸像が飾られている。日本の古墳時代の馬面は馬形埴輪から知られるかぎり,舌形で西アジアの三角形や台形の馬面と同じ着装法だが,平安時代の唐鞍(からぐら)では銀面と呼ばれる,長手で加飾の多いものである。

 戦闘の際,馬頭の保護に重点をおき馬面をいっそう大きくつくったのが,のちに馬面鎧(よろい)とよばれた馬冑(ばちゆう)である。最古の馬冑は,ドイツ南東部のシュトラウビンクで出土したローマ時代のものである。長方形の中央板に蝶番で左右の板をつなぎ,眼部は透しを入れた半球形につくり,全面を打出し文と刻線および金銀鍍金で飾ってある。きゃしゃなので儀仗用と考えられているが,戦闘用馬冑が存在したことは明白である。西アジアの国境でローマと攻防戦を繰り返していたパルティアと,次いで興ったササン朝ペルシアでは,騎馬武具が大いに発達した。東アジアにおける4~6世紀の騎俑,画像塼,壁画に甲冑で身を固めた騎馬の行列や戦闘の場面がみられるのは,西アジアから伝えられたものである。5世紀に属する鉄製馬冑の実例が,韓国慶尚南道釜山福泉洞10号墳と和歌山県大谷古墳から出土している。2例とも朝鮮民主主義人民共和国の安岳3号墳,薬水里古墳,双楹(そうえい)塚古墳,中国吉林省通溝三室塚古墳などに描かれている馬冑と同じく頰当てをもつ型式である。ヨーロッパでは,ローマ帝国の崩壊による中断ののち,13世紀から16世紀にかけて騎馬の鉄製甲冑がつくられ,騎士の闘いに重要な役割を果たした。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「馬面」の意味・わかりやすい解説

馬面
ばめん

馬の額や鼻をおおう馬具の一種。防御と装飾を兼ねている。スキタイなどの騎馬民族が使用していたものが,中国に広まったものと思われる。革,青銅製。日本では古墳出土のものはごくわずかで (和歌山県大谷古墳) ,埴輪の馬にもその着装の様子を示すと思われるものが若干あるにすぎない。平安時代の唐鞍 (からくら) に着ける馬面は銀面と呼ばれ,鍍金銀製で額に挿頭花 (かざしのはな) を飾ることがある。 (→馬具 )  

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