日本大百科全書(ニッポニカ) 「馬市(うまいち)」の意味・わかりやすい解説
馬市(うまいち)
うまいち
馬を売買する市。馬は古代では多く貢納・交易などにより調達されていたが、中世以降、武家の軍事的需要および経済的発展に伴う農耕馬、運輸用の駄馬としての需要が急増し、牛市と並んで馬市が立つようになった。『祇園執行(ぎおんしぎょう)日記』にみえる1343年(興国4・康永2)の京都五条室町の馬市は、文献上に現れた古い例とされている。戦国時代になると、諸大名は軍事上の必要から、領内の馬市の保護育成に努めた。織田信長が安土(あづち)城下町を経営するにあたって、馬市を安土にのみ認めたことなどはその一例である。江戸時代になると馬の需要はいっそう拡大し、各地の馬市も整備されたが、古くからの馬産地帯であった東北地方諸藩の馬市が名高い。幕府や藩などの買上げも行われたため、領主の規制を強く受けた馬市もある。たとえば南部藩では、城下町盛岡のほか26か所に馬市を設けさせ、市場は代官が管理し、藩の役人が出張して売買に立ち会い、藩用の御用馬は優先的に買い上げた。明治以後にも、馬は農耕、運搬、軍馬として重視されたため、東北地方ではとくに産馬の奨励が行われ、馬の定期市がにぎわったが、戦後、農業機械化の進行とともに衰えた。
[村井益男]