馬子歌(読み)まごうた

改訂新版 世界大百科事典 「馬子歌」の意味・わかりやすい解説

馬子歌(唄) (まごうた)

民謡の一種。馬方(うまかた)歌,馬方節ともいう。馬方には,馬を売買する職業の博労ばくろう)や,馬の背に旅人や荷物をのせて運ぶ駄賃づけの馬子などがあり,それぞれ道中に歌う歌を馬子歌とか馬方節と称した。歌の名称は地域によってさまざまである。博労は多いときは一人で20~30頭の馬を曳き,往還のじゃまになるので,夜間の道中が多かった。このため夜曳歌(よびきうた)ともいう。分布は広く,地域によって互いに影響しあい,曲節の類似,歌詞の共通するものが多い。《津軽馬子歌》《南部馬方節》《秋田馬子歌》など,東北地方にはとくに多く,ほかに《上州馬子歌》(群馬県),《小諸馬子歌》(長野県),《鈴鹿馬子歌》(三重県)などが有名である。現在は尺八伴奏がつき,節まわしの美しい歌として愛好者が多い。北海道の《江差追分》(追分節)は,中山道(なかせんどう)浅間山麓の馬子歌が追分節とも呼ばれて追分宿の三味線歌となり,越後から日本海を経て江差の地に定着したといわれる。なお,馬子歌の曲節は古浄瑠璃にとり入れられており,下座音楽にも〈箱根八里〉〈伊勢は津でもつ〉などの馬子歌がある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「馬子歌」の意味・わかりやすい解説

馬子歌
まごうた

馬子が道中で歌う歌。「馬方節」ともいう。馬方には,馬の売買をする博労 (ばくろう) と街道の宿場や峠で人や荷物を運ぶ駄賃付けの馬子があるが,この馬方が馬の綱を引きながら歌い広めた歌で,街道中の難所であった東海道の箱根や鈴鹿,中仙道碓氷の馬子歌がよく知られる。碓氷峠の馬子歌は,追分節として諸国に伝えられ,追分の名称をもつ民謡を各地に生んだ。また農家の草刈りで馬に草を運ばせながら歌う「草刈馬子歌」があり,これも馬子歌の一種とされる。

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世界大百科事典(旧版)内の馬子歌の言及

【歌舞伎】より

…歌舞伎は,舞楽,能,狂言,人形浄瑠璃などとともに日本の代表的な古典演劇であり,人形浄瑠璃と同じく江戸時代に庶民の芸能として誕生し,育てられて,現代もなお興行素材としての価値を持っている。明治以後,江戸時代に作られた作品は古典となり,演技・演出が〈型(かた)〉として固定したものも多いが,一方に新しい様式を生み出し,その様式にもとづいた作品群を作りつづけてきた。また,古典化した作品の上演にも新演出を試みるなどの方法によって,全体としては流動しながら現代に伝承され,創造がくり返されている。…

※「馬子歌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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