デジタル大辞泉
「首」の意味・読み・例文・類語
お‐びと【▽首】
《「おおひと(大人)」の音変化という》
1 長官。首領。
「汝は我が宮の―たれ」〈記・上〉
2 古代の姓の名の一。伴造など地方の小豪族に与えられた。おうと。
しゅ【首】
[名]主だった者。かしら。
[接尾]助数詞。漢詩や和歌を数えるのに用いる。「律詩三首」「返し歌一首」
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しゅ【首】
[1] 〘名〙
① あたま。くび。〔詩経‐邶風・静女〕
② 主だった者。最上位にあるもの。かしら。
※妙一本仮名書き法華経(鎌倉中)五「一一の菩薩、みな、これ大衆の唱導の首(シュ)として」
③ はじめ。もと。
※史記抄(1477)三「司馬遷が黄帝を五帝之首へ取たほどに」
※
小学読本(1884)〈若林虎三郎〉二「此の巻の教授術は〈略〉略
(ほぼ)第一巻の首に掲げたる所の如しと雖も」
④ 罪を犯した発頭人。首謀。
※三代格‐二〇・宝亀一一年(780)一一月二日「共犯レ罪者。以二造意一為レ首。随従者減二一等一」
[2] 〘接尾〙 漢詩や和歌を数えるのに用いる。
※万葉(8C後)二・一三一・題詞「柿本朝臣人麻呂従二石見国一別レ妻上来時歌二首并短歌」 〔漢書‐蒯通伝〕
お‐びと【首】
〘名〙 (「おほひと(大人)」の変化した語といわれる)
① 首長。長官。おふと。
※書紀(720)成務四年二月(熱田本訓)「是れ国郡に君長(ひとごのかみ)無く、県邑に首渠(オヒト)無ければなり」
②
大化前代の姓
(かばね)の一つ。臣
(おみ)、連
(むらじ)などより低い地位の氏に与えられたもので、初期の伴造
(とものみやつこ)に与えられた。天武天皇一三年(
六八四)の八色姓
(やくさのかばね)で廃止されたが、非公式には通用していた。おふと。
※書紀(720)敏達二年七月(前田本訓)「難波の船の人大嶋首磐日・狭丘首(さをかのオヒト)間狭を以て」
おふと【首】
※書紀(720)景行四〇年七月(熱田本訓)「村(ふれ)に長(ひとごのかみ)無く、邑に首(オフト)勿し」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
首/頸 (くび)
neck
動物の体で頭部の後方で多少とも細くなっている部分が,しばしば頸(頸部)と呼ばれる。脊椎動物の頸cervixは前肢の前方の胴部が伸長したもので,頭骨につらなる脊柱,脳から伸びた脊髄,咽頭に続く食道,頭部への血管,肺呼吸するものでは気管などが通っている。脊柱前部の椎骨が変形した頸椎は魚類にはないが,一般に両生類で1個,爬虫類で8個,鳥類で13~14個,哺乳類で7個(ごくまれに6,8,9個)あり,頭部の自由な運動を可能にしている。哺乳類でも,クジラなど水生のものには明確に頸といえる部分はない。これは水中での抵抗を減らすために,二次的に頸が短縮したものであり,頸椎の数はやはり7個ある。昆虫類には,頭部と胸部の間に明りょうに識別しうる頸部をもっているものが多い。殻片と筋肉の働きで,頭部を動かしたり頸部を伸縮できる。この頸部が独立した体節なのか,他の体節の一部であるのかは明らかでない。条虫類,腹毛類の体前部のくびれや,コウトウチュウ類,動吻類の吻の後方も頸部と呼ばれる。
執筆者:原田 英司
ヒトの頸
体幹の一部で,頭と胸との間にはさまれた細い部分(〈くび〉は一般には〈首〉の字をあてているが,〈首〉の字は本来は頭を意味する)。頸と頭の境は下顎の下縁から後縁に沿って顎関節,乳様突起へと移り,後方で外後頭隆起に達する。また頸と胸との境は胸骨の上縁から鎖骨の上縁に沿って走り,後面では第7頸椎の棘(きよく)突起の先端に至る。頸の前面には中央より少し上方に喉頭隆起という突出があり,喉頭の甲状軟骨によるとび出しである。これが〈のどぼとけ〉で,また〈アダムのリンゴ〉ともいうが,それはリンゴを取ったアダムが神に見つけられ,口にほうりこんだところ,のどにひっかかってふくれ出したのだとの伝説による。喉頭隆起は,子どもや女ではあまりとび出していない。喉頭隆起のすぐ上には舌骨を触れることができるし,下のほうには輪状軟骨とその下に続く気管,それにこれらを外側から取り巻く甲状腺を触れ,かつ目で見ることができる。頸の外側部には胸鎖乳突筋という筋肉による高まりが乳様突起から斜めに下前内側のほうに走っており,その前上のほうには頸動脈三角という三角形のくぼみがある。ここには総頸動脈が皮下の浅いところを走っているので,指先でその拍動をよく触れることができる。〈頸動脈を切って自殺する〉というのは,この場所で総頸動脈を切るのである。頸の背面のところ,後頭部から下のほうを〈項部〉またはうなじという。
頸の内部の構造は複雑で,次のような種々の器官の組合せからできている。(1)骨格は頸のほぼ中央部を縦に走る脊柱で,7個の頸椎からなっている。(2)筋肉は種々の系統のものが混ざって存在する。項部には表層に僧帽筋,深部に固有背筋群に属する諸筋,脊柱の外側部に斜角筋群,前面に椎前筋群があり,これらが脊柱を取り巻いている。このほかに,頸部の前面には皮下に広く薄い広頸筋という皮筋があり,その下層に胸鎖乳突筋と舌骨筋群とがある。舌骨筋群はさらに舌骨上筋群と舌骨下筋群とに分けられる。(3)血管は頸を通過するものと頸に分布するものとに分けられる。前者に属する動脈としては総頸動脈が食道の両側で椎前筋群の前外側を上がって,血液を脳および頭顔面に運び,椎骨動脈は鎖骨下動脈から分かれて頸椎肋横突起の中を通って大後頭孔から頭蓋腔に入り,脳に分布する。これらのほかに頸部に分布する動脈として上下甲状腺動脈をはじめ数対のものがある。静脈はほぼ動脈に伴って走っているが,そのほかに皮静脈として外側浅頸静脈がある。総頸動脈に相当する静脈は内頸静脈といい,総頸動脈の外側に沿って走る。(4)神経はその分布する場所に応じて分類するのが便利である。皮膚には頸神経の後枝が項部に,頸皮神経が頸の外側部から前部に分布し,筋肉を支配する運動神経としては僧帽筋と胸鎖乳突筋にいく副神経と,舌骨筋群の大部分を支配する舌下神経,その他の頸部筋群を支配する頸神経の枝をあげねばならない。このほか頸部の内臓には舌咽神経,迷走神経,交感神経の枝が分布している。局所解剖学的な立場から最も重要なのは,総頸動脈と内頸静脈との間にはさまれて,これらと並行して走る迷走神経,迷走神経のやや後内側を走る交感神経幹,頸椎の両側にある,頸神経叢と腕神経叢,とくに頸神経叢の一つの枝として前斜角筋の前を通って胸郭にはいる横隔神経である。(5)内臓は頸の前部に位置している。そして大きく3系に分けられる。第1は消化器で,これは咽頭(口部,喉頭部)と,それに続く食道である。脊柱のすぐ前を走っている。第2は呼吸器で咽頭(鼻部,口部),喉頭,および気管である。第3系は内分泌器官で,甲状腺と副甲状腺がそれである。
頸を全体として観察すると,骨格と筋肉とが頸の内容の大部を占め,前の正中部にわずかに内臓が通る場所がある。この部分が胸や腹では胸腔または腹腔に相当する場所であるが,胸腔や腹腔に比べるとずっと小さい。頸椎には肋骨がないことも胸部と異なる点であるが,詳しく研究すると,頸椎にも肋骨の残りが小さい突起としてくっついている。
執筆者:藤田 恒太郎+藤田 恒夫
首の文化史
〈くび〉はくびれた部位のことで,〈首〉よりも〈頸〉の字に相当する。〈首〉はもと〈〉で〈巛〉は髪,〈〉は頭をかたどっているから,〈首〉は頭を指す。これを〈くび〉と読む際,頭,頸を含む頭,頸のいずれをいうのかあいまいになることがある。首は頭とほぼ同義で,頭と同様〈首座〉〈首席〉その他,最上位の意を表すが,〈首が良い〉とはいわず,〈首が痛い〉は頭痛のことではないから,脳のことも指す頭と等しいとはいえない。頭は切り落とせず頸を切るのだから,首には頸が含まれるといえよう。椎間板の方向と椎間関節の方向とが近似している上位頸椎の間でなければ,人の首を一刀のもとに両断することはできない。切腹する者が小刀または木刀を取ろうとうつむくときに介錯(かいしやく)人が首を切ったのは,このときに頸椎棘突起の間が広く開いて切りやすくなるためである。
討ちとった敵将や罪人の首を,城壁や路上に見せしめのためにさらすことは,古くから各地にみられた。旧約聖書外典《ユディト書》は,ユディトが彼女の美しい容貌に惑わされた敵将ホロフェルネスを寝室で襲って首をはね,町の城壁にかけてアッシリア軍を敗北に追いやる話が主題である。なお文脈は違うが,同じく聖書では,ヨハネの首を欲したサロメの話もよく知られている。金子光晴によれば,バタビアの一角に謀反人エルベルフェルトの首が槍の穂先に貫かれてさらされ,18世紀のオランダ総督政府に対する謀反を象徴していた(《エルベルフェルトの首》)。首は身体の他の部分から独立していると考えられた。イギリスの子守歌に〈首を切られても小1時間,チャールズ1世は歩いてしゃべった〉とある。罪人の首はさらされたが,英雄の首は埋められて民衆を守護した。《マビノギオン》には,ブリテン島の王ベンディガイド・ブランは敵の上陸を防ぐようフランスのほうに向けてロンドン塔に埋めよと遺言し,それが実行されたとある。オルフェウスの首は海を流れてレスボス島にたどりつき,かみつこうとした大蛇はアポロンによって石と化せられたという(オウィディウス《転身物語》)。切られたみずからの首を持ち運んだというサン・ドニ(ディオニュシウス)の話も有名。
→頭
執筆者:池澤 康郎
首 (おびと)
日本古代の姓(かばね)の一つ。古くは統率者をあらわす称呼であったものが姓となる。主として地方の県主(あがたぬし)・稲置(いなぎ),および部民(べみん)の統率者,または屯倉(みやけ)の管理者に与えられた。県主の例として志紀県主の志紀首,稲置の例として伊賀の稲置代首,部民の統率者の例として赤染部の統率氏族の赤染部首,そして屯倉の管理者の例として新家屯倉の新家首にみられる。称呼としての古い用例には,埼玉県行田市稲荷山古墳から出土した鉄剣銘の〈杖刀人首〉,《日本書紀》清寧2年11月条の〈縮見(しじみの)屯倉首〉がある。首の語義は,オホヒト(大人)の約であろうとされている。
執筆者:佐伯 有清
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
首
おびと
雑姓の一つ。この姓には2系統がある。一つは地名を氏とする県主,稲置など領首的性格をもつもの。一つは職名,部曲名を氏とする伴造的性格をもつもの。『日本書紀』によれば天武 13 (684) 年の八色の姓 (やくさのかばね) にはなく,首姓の一部は新姓忌寸 (いみき) を与えられたが,多くは旧姓のまま据置かれた。その後,奈良時代にも首姓を賜わっているが,天平勝宝9 (757) 歳,聖武天皇の諱 (いみな) 「首」を避けて「毗登 (ひと) 」姓に改め,次いで宝亀1 (770) 年もとに復した。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
首
おびと
古代のカバネ。勢力者を意味する「オヒト(大人)」からきた尊称。忌部(いんべ)首・錦織(にしごり)首・河内馬飼首・薦集(こもつべ)首・書(ふみ)首などの伴造氏族や,伊勢大鹿首・迹見首・生田首などの地方小豪族の首長が称する例が多い。684年(天武13)の八色の姓(やくさのかばね)で廃止されたが,その後もこのカバネを称する氏族は多く,757年(天平宝字元)には聖武天皇の諱を避けて毗登(ひと)と改め,770年(宝亀元)にもとに復した。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
首〔映画:1968年〕
1968年公開の日本映画。監督:森谷司郎、撮影:中井朝一、原作:正木ひろし、脚色:橋本忍、音楽:佐藤勝、美術:阿久根巖。出演:小林桂樹、古山桂治、鈴木良俊、南風洋子、下川辰平、宇留木康二、鈴木治夫ほか。第23回毎日映画コンクール音楽賞、美術賞受賞。
首〔映画:2023年〕
2023年公開の日本映画。監督・原作・脚本:北野武。出演:ビートたけし、西島秀俊、加瀬亮ほか。
出典 小学館デジタル大辞泉プラスについて 情報
首
おびと
大和政権の姓 (かばね) の一つ
地方豪族や伴造氏族に与えられた。684年の八色の姓 (やくさのかばね) で廃止され第8位の稲置になった例が多い。
出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
世界大百科事典(旧版)内の首の言及
【短歌】より
…5句31拍に合わない作を〈破調〉といい,長すぎるものを〈字あまり〉,短いものを〈字足らず〉と呼ぶ。また〈首(しゆ)〉という単位を用いて,1首,2首というふうに数える。《万葉集》以来の数え方である。…
【伴造】より
…大和朝廷を構成する諸氏族の首長をいう。〈ばんぞう〉ともいう。…
【地峡】より
…大陸と大陸,大陸と半島などを結ぶくびれた狭い陸地。南北アメリカ大陸を結ぶパナマ地峡,ユーラシア大陸とアフリカ大陸を結ぶスエズ地峡,マレー半島のクラ地峡などが有名。その他,ギリシアのコリント地峡,ユトランド半島のキール地峡などがある。古来陸上交通の要衝であったが,運河が開かれ,あるいは計画されたりして海上交通の要所ともなっている。1869年に開かれた[スエズ運河]は紅海と地中海を結び,喜望峰回りのロンドン~ボンベイ間の距離を58%に短縮,また1914年開通した[パナマ運河]は太平洋とカリブ海をつなぎ,ホーン岬回りのニューヨーク~ホノルル間の距離を50%に短縮した。…
【頭】より
…動物体の前部にあって1個のまとまりをなす部分をふつう頭という。〈頭部〉も同様の意に用いられる。頭には一般に口があり,摂食器官,感覚器官の発達や神経節の集中化がみられる部域である。動物の積極的な移動は,好適な場所や食物の獲得を主要な動機として方向性をもって行われ,そのための動物体の構造が発達・分化したと考えられる。前後軸の確立と前進方向への運動力の効率的な強化,そして前端部への摂食・感覚および調整の機能の集中などがそれであり,これが頭部形成cephalization(頭化)といわれるものである。…
※「首」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」