饗宴
きょうえん
Symposion
ギリシアの哲学者プラトンの中期対話篇(へん)の一つ。ギリシア文芸史上、珠玉の作品に数えられる。悲劇詩人アガトンの勝利の祝宴で参会者が順次に恋の神エロスを讃美(さんび)するという趣向で書かれている。巫女(みこ)ディオティマから学んだ「恋の秘儀」としてソクラテスの語る最終演説にこの作品のクライマックスはあり、そこに恋の力(ちから)エロスになぞらえて知恵の愛(フィロソフィア)である哲学の心髄が語り明かされている。これによれば、エロスは美しい神ではなく、神々と人の間を取り結ぶ精霊である。エロスの働きは美を愛好し、美しいものの内において(肉体、または魂における)子を生み、不死にあずかることである。そこで、恋の極致である哲学は、肉体の美から始めて、魂の美を経て、最後に不滅な美そのものの純粋な観照に至る学習の階梯(かいてい)であり、これにより、人は真実の徳を生み、不死にあずかるものとなる。
[加藤信朗]
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デジタル大辞泉
「饗宴」の意味・読み・例文・類語
きょうえん【饗宴】[書名]
《原題、〈ギリシャ〉Symposion》プラトンの中期対話編の一。詩人アガトン邸での祝宴で、参会者が順に恋の神エロスを賛美する演説をし、最後にソクラテスがエロスになぞらえて知恵の愛である哲学を説く。
《原題、〈イタリア〉Convivio》イタリアの詩人、ダンテがイタリア俗語で書いた哲学的論文。1304年から1307年頃に執筆したと考えられている。全14章の構想だったが、執筆は中断され未完に終わる。
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きょう‐えん キャウ‥【饗宴・享宴・供キョウ宴】
[1] 〘名〙
酒食の席をもうけて客をもてなすこと。また、その
宴席。さかもり。
饗筵。
※内裏式(833)会「皇帝受二群臣賀一訖。遷二御豊楽殿一饗二宴侍臣一」 〔春秋左伝‐成公一二年〕
[2] (饗宴) (原題Symposion) 哲学書。プラトン著。アガトンの悲劇競演第一位入賞を祝った饗宴における
アリストパネスやソクラテスらのエロス賛美の演説を記した対話編。
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饗宴
きょうえん
Symposion
前 383年あるいは 385年の作と推定されるプラトン壮年期の対話篇。若い悲劇詩人アガトンの祝勝宴における列席者のエロス賛美の演説という構成をとる。このなかでソクラテスは6番目に,巫女ディオティマから聞いた話としてエロスの本性について述べ,エロスこそが,認識活動の原動力であり,対象としての美のイデアを目指すものであるとしている。
饗宴
きょうえん
Convivio
イタリアの詩人ダンテの哲学的論文。 1304~07年頃執筆。全体を 14章に分け,自作の愛の詩に注解を加える意図であったが,序論と3編のカンツォーネを扱った4章までで中断した。『神曲』にさきがけイタリア俗語で書いた点に大きな意味がある。
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世界大百科事典内の饗宴の言及
【宴会】より
…南米ペルーの南東部に住むインディオの村では,毎年,9月に〈御誕生の聖母祭〉が行われるが,教会での厳粛な儀式と並行して仮面踊が催され,祭りの期間中,インディオたちは有り金をはたいて酒と喧嘩に明け暮れ,狂乱と浪費の時を過ごす。台湾の中部山地に住むブヌン族は,ふだん,イモや雑穀を食べてアワの貯蔵につとめているが,アワの祭りを迎えると,彼らはアワ酒をつくり,家豚や野獣の肉を用意して饗宴を競い合う。彼らにとってアワと獣肉は,自家消費のためというよりは,他人に自分たちの生活を誇示するためのシンボルになっている。…
【もてなし】より
…歓待することによって客として共同体にとりこむのである。こうして異人歓待のためにさかんな饗宴がはられ,またしばしば贈物の交換もなされる。こうして客となった異人は,主人の権威を侵害しないかぎり,共同体の内部で主人の保護をうけることができる。…
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