饅頭(読み)まんじゅう

精選版 日本国語大辞典 「饅頭」の意味・読み・例文・類語

まん‐じゅう ‥ヂュウ【饅頭】

(「ぢゅう」は「頭」の唐宋音)
[1] 〘名〙
小麦粉、米粉、蕎麦粉などに、ふくらし粉や甘酒の搾り汁と水を加えて発酵させた皮にあんを包み、下側を平らに、上部を丸く形づけて蒸したもの。中国のマントーが起源といわれるが、中国のマントーは中にあんを包まないのが一般的。日本には鎌倉初期に渡来し、暦応年間(一三三八‐四二)に中国から帰化した林浄因が、奈良でつくり、売り出したという。
※正法眼蔵(1231‐53)示庫院文「もし在家より饅頭・乳餠・蒸餠等、きたらんは」
② ①の形にした料理につけられる語。まんじゅう蒸し、まんじゅう焼きなど。
④ 「たこのまくら(蛸枕)」の異名。
⑤ (「ふなまんじゅう(船饅頭)」の略) 船中で売春をした私娼。
※雑俳・馬たらひ(1700)「あつい事・下直まんぢうの頬の皮」
⑥ 女性の陰部をいう。
※仮名草子・都風俗鑑(1681)二「こへ油づきたるおゐどの、蟻のとわたりまでが、饅頭(マンヂウ)にぬれ紙をかけたるやうに、ここちよく見ゆるなり」
⑦ アイロン台の一種。枕状のもの。肩や袖のふくらみのある部分の仕上げに用いる。
※あらくれ(1915)〈徳田秋声〉六九「仕事道具の饅頭を枕に寝そべって」
懐中時計をいう、盗人仲間の隠語。〔隠語輯覧(1915)〕
※浅草(1931)〈サトウハチロー〉僕の浅草「『じゃア、何でくらしてゐるんだい』『足がつき安くていやだけれど、マンヂュー専門だよ』」
[2] 狂言。大蔵流。都で饅頭売りに饅頭をすすめられた田舎者は、うまいかどうか食ってみせたら買おうという。饅頭売りはふるまってもらえると思い全部食べ、代金を田舎者に請求する。田舎者は自分が食べたのではないから知らぬと言い、さらには刀に手をかけて饅頭売りをおどし立ち去る。「狂言記」で「饅頭食い」。

マン‐トー【饅頭】

〘名〙 (中国語から) 小麦粉をこねて蒸した中国の蒸しパン
※赤い国の旅人(1955)〈火野葦平〉四月二一日「フライパンで饅頭(マントウ)のようなものをあぶったりしていた」

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デジタル大辞泉 「饅頭」の意味・読み・例文・類語

まん‐じゅう〔‐ヂユウ〕【×頭】

《「じゅう(頭)」は唐音》小麦粉などの粉をこねた皮であんを包み、蒸すか焼くかしてつくった菓子。そばまんじゅう酒まんじゅうなど種類が多い。中国で諸葛孔明しょかつこうめいが創始したと伝えられ、日本では、14世紀にから渡来した林浄因がつくった奈良饅頭に始まるとされる。
[類語]栗饅頭蕎麦饅頭酒饅頭

マントー【饅頭】

《〈中国語〉》中国の蒸しパン。包子パオズに対し、中に何も入れないものをいう。

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改訂新版 世界大百科事典 「饅頭」の意味・わかりやすい解説

饅頭 (まんじゅう)

蒸菓子の一種。中国で古くからつくられていた蒸餅(じようへい)の一種で,小麦粉をこねて皮とし,肉や野菜のあんを包んで蒸すものであった。中国でマントウというが,日本では〈頭〉を唐・宋音で読んで〈まんじゅう〉と呼んできた。諸葛孔明(しよかつこうめい)が羊や豚の肉を小麦粉の皮に包んで人頭に模し,人身犠牲にかえて蛮神を祭ったことに始まるという伝説が流布されており,蛮人の首にかたどったので〈蛮頭〉といい,それがなまって〈饅頭〉になったとされる。これは宋の高承の《事物紀原》などによるものだが,3世紀後半の晋代すでに〈曼頭〉の名で春の祭りに用いる風俗があったことからして,3世紀前半の孔明より古く行われていたことは明らかだと,北静盧(きたせいろ)(1848没)や青木正児(1964没)はいっている。曼頭の〈曼〉は,きめが細かくつややかなことで,蒸し上がった皮の感じから曼頭の名が起こったと考えられ,のちに食品のゆえをもって饅頭と書かれるようになった。

 日本のまんじゅうは中国から帰化した林浄因(りんじよういん)に始まる。浄因は宋の高名な文人林和靖の子孫で,1349年に中国留学から帰朝した禅僧竜山徳見(りゆうざんとくけん)に伴われて来日,塩瀬姓を名のって奈良に住み,まんじゅうを製して業とした。その子孫には《饅頭屋本節用集》の刊行者とされる饅頭屋宗二(そうじ)(1498-1581)がいる。浄因の来日後20年ほどの時期にできた《新札往来》《遊学往来》などには,〈饅頭〉〈砂糖饅頭〉の2種の名が見え,《七十一番職人歌合》に登場するまんじゅう売りは〈砂糖饅頭〉と〈菜(さい)饅頭〉を売っている。砂糖饅頭は,輸入量が少なく高価だった砂糖を使ったための特別な名であり,菜饅頭は野菜を煮てあんにしたものと思われるが,単に〈饅頭〉と呼んだものが菜饅頭であったかどうかははっきりしない。ただし,江戸初期の《醒睡笑(せいすいしよう)》にはただのまんじゅうは〈小豆(あずき)ばかり入れて〉とされており,小豆の塩あんを入れたものだったようである。室町時代,まんじゅうはひじょうに愛好されたようで,狂言に〈てんじんとも申(もうし),又饅頭とも申て〉とあるように点心の称を独占するほどであった。また式三献(しきさんごん)(本膳料理)の二献目には,汁を添えて出されるのが例ともされていた。

 現在のようなまんじゅうの普及が確認できるのは《雍州府志》(1682)からのことで,同書によると当時の京都には浄因の後裔(こうえい)の烏丸の塩瀬,同じく帰化人を祖とする一条の虎屋,そのほかの店が競ってまんじゅうをつくっており,それらはいずれも砂糖を用いた小豆あんを入れるとしている。江戸ではほぼ同じころ,日本橋の塩瀬や本町の桔梗(ききよう)屋のものが知られ,また浅草待乳山の米(よね)まんじゅうが評判であった。米まんじゅうは同所の茶店鶴屋の〈よね〉という娘がつくったものとも,米の粉を使ったための名だともいう。大坂では高麗橋三丁目の虎屋のものが美味の名をうたわれた。たいへんな人気で,贈答用に杉原紙に刷ったまんじゅう切手もおびただしく売れ,天保(1830-44)末年ころ経営が悪化した時期には市内いたるところに〈とら屋切手あり〉のはり札が見られたという。江戸時代にはいろいろなまんじゅうがつくられたが,主流は小麦粉を甘酒で練って発酵させた皮を用いるもの,つまり酒(さか)まんじゅうと呼ぶ類であった。またしんこ(糝粉)にヤマノイモを加えて皮にする薯蕷(しよよ)まんじゅう,その皮にそば粉を加えたそばまんじゅうもあった。関西では薯蕷まんじゅうをなまって上用(じようよう)まんじゅう(単に上用とも)と呼び,関東ではそば粉を使わぬ薯蕷まんじゅうをもそばまんじゅうと呼んだ。ほかに,蒸し上げたものの皮をむいて商品とするおぼろまんじゅう,葛粉(くずこ)を練ってあんを包んで蒸す葛まんじゅうなどがあり,唐(とう)まんじゅう,栗まんじゅうなど焼菓子でまんじゅうと呼ばれるものもできた。
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普及版 字通 「饅頭」の読み・字形・画数・意味

【饅頭】まんとう

まんじゅう。〔事物紀原、酒飲食部、饅頭〕蠻俗、必ず人をし、其の首を以て之れを祭り、則ち之れを(う)くるときは、兵を出だすことを爲す。武侯(諸亮)從はず、因りて羊豕のを雜用して、以て之れをむに、(めん)を以てし、人頭に象(かたど)り、以て祠る。も亦たけたり。

字通「饅」の項目を見る

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和・洋・中・エスニック 世界の料理がわかる辞典 「饅頭」の解説

まんじゅう【饅頭】

小麦粉・そば粉・米粉など穀物の粉を練った皮であんを包んで蒸したり焼いたりした菓子。普通は和菓子をいう。多くは蒸しまんじゅうで、酒まんじゅう・そばまんじゅう・薯蕷(しょよ)まんじゅうなどがある。焼きまんじゅうには栗まんじゅうなどがある。◇中国から禅宗とともに日本に伝わった点心の一つ。鎌倉時代の臨済宗の僧・円爾(えんに)が宋(中国)から製法を持ち帰ったとも(1241年帰国)、南北朝時代に帰化した林浄因(りんじょういん)がもたらしたともいわれるが、日本曹洞宗の開祖・道元の法語集『正法眼蔵』「看経(かんきん)」巻には、1241(仁治2)年にはすでに寺院でまんじゅうが作られていたという記述があり、それ以前に製法が伝わっていたと考えられる。ただし、あずきあんなど砂糖を用いた甘いあんになるのは後年。「じゅう」は唐音。

マントウ【饅頭 (中国)】

中国料理の点心の一種。小麦粉を水で練った生地を老麺(ラオミエン)と呼ばれる発酵種を用いて発酵させ、丸めて蒸したもの。中身は入れない。

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百科事典マイペディア 「饅頭」の意味・わかりやすい解説

饅頭【まんじゅう】

蒸菓子の一種。中国のマントウ(饅頭)から転訛。小麦粉などでつくった皮で餡(あん)を包み丸形にまとめ蒸してつくる。14世紀中ごろ中国から帰化した林浄因(りんじょういん)が姓を塩瀬と改め,奈良でまんじゅう屋を開いたのに始まるといわれ,茶道の菓子として発展した。外皮の材料により米まんじゅう,そばまんじゅう,くずまんじゅうなどがある。酒まんじゅうは甘酒の素を小麦粉に加えて発酵させたもの,焼まんじゅうは天火で焼いたもので栗まんじゅうや唐まんじゅうなどがある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「饅頭」の意味・わかりやすい解説

饅頭
まんじゅう

蒸し菓子の一種で,あんを小麦粉の生地で包み蒸したもの。生地は砂糖を湯で溶かし,冷却後,小麦粉や膨剤などを加え粘りを出さないよう軽くこねてつくる。皮に色をつけるためカラメルを加えることもある。元来は中国でつくられたものが,暦応4 (1341) 年に帰化人林浄因によってもたらされたといわれ,当初はあんが入っていなかった。その後さまざまな工夫が凝らされ,酒饅頭,薬饅頭など各地で名産品がつくられている。

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世界大百科事典(旧版)内の饅頭の言及

【点心】より

…《異制庭訓往来》をはじめ各種の古往来は南北朝から室町時代へかけての撰述とされるが,そこには点心として各種の〈羹(かん)〉〈麵(めん)類〉〈粥〉〈饅頭(まんじゆう)〉などが列挙されている。また,狂言《饅頭》ではまんじゅう売をして田舎大名に〈まんぢう共申,てんぢんとも申し,上つ方の御衆も参るものでござる〉といわせており,これらのことは点心という語の大衆化の度合を示すと同時に,点心の代表的食物として〈饅頭〉が挙げられているのは興味深い。また,《看聞御記》《康富記》などの貴族の日記にも点心の語が現れ,寺院社会ばかりでなく在俗社会にも点心の語は日常化していった状態がうかがわれる。…

※「饅頭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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