餺飥(読み)ホウトウ

デジタル大辞泉 「餺飥」の意味・読み・例文・類語

ほう‐とう〔ハウタウ〕【××飥】

《「はくたく」の音変化》
小麦粉を練り、平たくのばして細く切った食品。これが現在のうどんになったという。
手打ちうどんと、カボチャ・シイタケなどの野菜味噌で煮込んだもの。山梨などの郷土料理

はく‐たく【××飥】

ほうとう(餺飥)

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精選版 日本国語大辞典 「餺飥」の意味・読み・例文・類語

ほう‐とう ハウタウ【餺飥】

〘名〙 (「はくたく」の変化したもの。「ぼうとう」とも) なまの手打うどんを味噌汁で煮込んだもの。具にはカボチャ、ナスなどを用いる。古くは、小麦粉を水で練って延ばし、適当な形に切ったりちぎったりした、現在のうどんのようなものをいう。鮑腸(ほうちょう)
※能因本枕(10C終)三一九「『しばし、ほうちはうたうまゐらせん』などとどむるを」

はく‐たく【餺飥】

〘名〙 小麦粉を水で練って切ったもの。現在のうどんのようなもの。ほうとう。〔十巻本和名抄(934頃)〕 〔事物異名録‐飲食

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改訂新版 世界大百科事典 「餺飥」の意味・わかりやすい解説

餺飥 (ほうとう)

平安時代の唐菓子の一種。《和名抄》は餺飥を〈はくたく〉と読み,小麦粉をこねてのばし,方形に切ったものとしている。これは中国の《斉民要術(せいみんようじゆつ)》(6世紀前半)が,調味した肉汁で小麦粉をこねて作るとしているのを部分的に手直ししたものだった。ところで,餺飥には〈ほうとう〉という音はない。それにもかかわらず《色葉字類抄》が〈餺飥〉に〈ハクタク,ハウタウ〉とふたとおりの読み方を記載しているのは,同じ唐菓子の一種であった〈餢飳〉との混同によるものではないかと考えられる。餢飳は,本来は〈ほうとう〉と読むべきだが,《和名抄》以来もっぱら〈ぶと〉と読まれ〈伏兎〉などと書かれたものである。こうして餺飥は〈ほうとう〉と呼ばれるようになり,それがさまざまな変化をして今に伝えられている。

 現在日本の各地に郷土料理として〈ほうとう〉〈ぼうとう〉〈ぼうと〉〈ほうちょう〉〈はっとう〉〈はっと〉などと呼ばれる食べものが広く分布しているが,これらはおおかた餺飥の子孫である。それらに共通するのは小麦粉,あるいはそば粉を使うことで,小麦粉の場合は幅の広い平うどんにするか,粉を練ってだんご,あるいはつみいれにする。そば粉の場合は,そば切りにはせず,粉を練ってそばがきにする。いずれもみそ汁で煮込み,うどんやすいとんのようににするか,アズキを煮た汁粉に入れたりする。〈はっと〉〈はっと汁〉などと呼んでいる所では,〈はっと〉を〈法度(はつと)/(ほつと)〉と解して,領主がそれを食べることを禁じていたための名としている所もある。九州では平うどんをみそ汁で煮込んだものを〈ほうちょう(蚫腸)〉〈ほうちょう(庖丁)汁〉などと呼び,大友宗麟の時代にアワビの腸の代用にうどんを使ったことに始まるとする話を百井塘雨(ももいとうう)(?-1794)の《笈埃(きゆうあい)随筆》などが書いているが,これらも〈ほうとう〉のなまった語であることはいうまでもない。つまり,平うどん型のものが《和名抄》に書かれた日本の餺飥に最も近く,そば粉を使うものは基本型が忘失されたところで発生したというべきであろう。調味面からすると,アズキを使った汁粉風のものが古態をとどめているといえそうである。

 どういういわれがあったものか,平安時代には高位の人が春日社へもうでる際には,妓女を招いて餺飥を作らせたらしい。藤原頼長の《台記(たいき)別記》によると,1151年(仁平1)8月10日,彼は春日もうでをしているが,そのとき12人の妓女が楽人の奏する《酣酔楽》に合わせて餺飥を打ち,それはアズキ汁を添えて供されたとしているからである。
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日本の郷土料理がわかる辞典 「餺飥」の解説

ほうとう【餺飥】


山梨の郷土料理で、小麦粉を水で練りひもかわ状にした麺を、生のまま、かぼちゃ・里芋・大根などの野菜を入れたみそ仕立ての汁で煮込んだもの。

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世界大百科事典(旧版)内の餺飥の言及

【うどん(饂飩)】より

…切麦はうどんより細く切るのが特徴で,熱くしたものを熱麦(あつむぎ),冷やしたものを冷や麦といい,そうめんと同じく点心のほか饗膳(きようぜん)の後段(ごだん)にも供された。語源の推移から餛飩を饂飩の元祖だとする説が根強いが,手法と形からみて,むしろ餺飥(はくたく)(音便ほうとう)がうどんの祖型である。餺飥は薄い餅の意で,原始的な製法は小麦粉をこね,両手の指でもみながら親指ほどの太さにし,約5cmずつに切り,さらに指もみをしてごく薄くのばし,熱湯に入れて煮る。…

【餺飥】より

…平安時代の唐菓子の一種。《和名抄》は餺飥を〈はくたく〉と読み,小麦粉をこねてのばし,方形に切ったものとしている。これは中国の《斉民要術(せいみんようじゆつ)》(6世紀前半)が,調味した肉汁で小麦粉をこねて作るとしているのを部分的に手直ししたものだった。…

【和菓子】より

…唐菓子には多くの種類があった。《和名抄》などが〈八種唐菓子〉と呼ぶ梅枝(梅子)(ばいし),桃枝(桃子)(とうし),餲餬(かつこ),桂心(けいしん),黏臍(てんせい),饆饠(ひら∥ひちら),子(ずいし),団喜(だんき)(歓喜団(かんぎだん)とも)のほか,餅腅(へいだん),粉熟(ふずく),索餅(さくべい)(麦縄(むぎなわ)),捻頭(ねんとう),結果(加久縄)(かくなわ∥かくのあわ),糫餅(曲)(まがり),餛飩(こんとん),餺飥(はくたく),餢飳(伏兎)(ぶと),粔籹(興米)(おこしごめ),煎餅などがあったという。八種唐菓子のうち,《和名抄》に製法の記載があるのは餲餬と黏臍で,いずれも小麦粉をこね,前者は蝎虫(かつちゆう)(サソリとも,キクイムシともいう),後者は臍(へそ)形にして油で揚げたものとなっている。…

【うどん(饂飩)】より

…切麦はうどんより細く切るのが特徴で,熱くしたものを熱麦(あつむぎ),冷やしたものを冷や麦といい,そうめんと同じく点心のほか饗膳(きようぜん)の後段(ごだん)にも供された。語源の推移から餛飩を饂飩の元祖だとする説が根強いが,手法と形からみて,むしろ餺飥(はくたく)(音便ほうとう)がうどんの祖型である。餺飥は薄い餅の意で,原始的な製法は小麦粉をこね,両手の指でもみながら親指ほどの太さにし,約5cmずつに切り,さらに指もみをしてごく薄くのばし,熱湯に入れて煮る。…

【郷土料理】より

…ある地方に特有で伝統的な料理。しかし,まったく独特の料理というのはまれで,多少の相違はあっても他の地方でも行われているものが多い。現在一般に郷土料理と呼ばれているものは,次のように大別される。(1)特産品を材料とするもので,秋田のハタハタ,三陸のホヤ,富山のホタルイカ,佐賀のムツゴロウなどの料理がある。(2)その地方で多産,あるいは良質の産があり,それを材料とするもの。北海道のサケ,ニシン,茨城のアンコウ,北陸・山陰のカニ,京阪のハモ,岡山のママカリ,広島のカキ,関門のフグといった魚貝類,および長野のソバ,京都のタケノコといったものの料理がある。…

※「餺飥」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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