食道がん

EBM 正しい治療がわかる本 「食道がん」の解説

食道がん

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 食道(しょくどう)の内面を覆(おお)う粘膜上皮(ねんまくじょうひ)や粘液腺(ねんえきせん)上皮から発生するがんです。食道の中部、下部の位置によくみられます。
 早期にはまったく自覚症状がありませんが、進行してくると食べ物を飲み込むときに痛みを感じたり、しみたり、つかえたりといった嚥下障害(えんげしょうがい)をおこします。また胸痛(きょうつう)、背部痛(はいぶつう)、体重減少、食事のときのせき、声のかすれ、吐血(とけつ)などがみられることもあり、このような状態が数カ月にわたって続きます。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 食道がんの原因としては、飲酒、喫煙との関係が指摘されています。とくに25~30年以上にわたって、毎日多量の飲酒(日本酒で3合以上に相当する量)を続けてきた人は要注意です。飲酒や喫煙によって粘膜が刺激され続けると、粘膜が細胞変化をおこしやすくなります。高度の飲酒習慣と喫煙習慣の組み合わせは、非飲酒・非喫煙に比べて約30倍の食道がん発症のリスクになるといわれています。

●病気の特徴
 年齢は60歳代(約40パーセント)、70歳代(約30パーセント)、50歳代(約20パーセント)の順に多く、性別は男性85パーセント、女性15パーセントと男性に多いのが特徴です。
 食道がんの発生部位は、胸部中部食道(約50パーセント)、胸部下部食道(約25パーセント)、胸部上部食道(約15パーセント)、頸部(けいぶ)食道(約5パーセント)の順で多くなります。組織型は、扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんが約90パーセント、腺がんが約4パーセントです。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]禁煙したり、過度の飲酒を避けたりして予防する
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 食道がんの危険因子として、粘膜が細胞変化をおこしているバレット食道という状態があげられます。バレット食道とは、胃食道逆流現象による胃酸分泌物が粘膜を刺激しておこるものです。胃食道逆流現象の治療、予防のためには、禁煙し、過度の飲酒は避けるべきであると考えられます。

■早期発見できた場合
[治療とケア]内視鏡的(ないしきょうてき)治療を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 信頼性の高い臨床研究で、粘膜内にとどまっている早期のがんについては、内視鏡による粘膜切除術(ねんまくせつじょじゅつ)の有効性が確認されています。内視鏡的粘膜切除術(EMR:endoscopic mucosal resection)または内視鏡的粘膜下層剥離術(ねんまくかそうはくりじゅつ)(ESD:endoscopic submucosal dissection)が適応です。大きさが2センチメートルの3分の1以下の食道がんに対して内視鏡的粘膜切除術を行ったところ、その5年生存率は95パーセント以上であったという報告があります。(1)(2)

■進行がんの場合
[治療とケア]リンパ節郭清(せつかくせい)を伴う胸部食道亜全摘術(きょうぶしょくどうあぜんてきじゅつ)を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 食道とその周囲のリンパ節を手術によって切除します。リンパ節郭清を行う目的は、進行がんは離れた頸部やリンパ節に転移している場合が多いこと、再発リスクを下げること、できるだけ多くの患者さんで肉眼的にも顕微鏡的にもがんを完全に取り除くことによって、5年生存率を上げることです。信頼性の高い臨床研究によると、術後院内での平均死亡率は10パーセント前後と報告されています。(3)~(5)

[治療とケア]各病期での治療方法・手術適応例
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 病期によっても方針は異なりますが、ステージⅠでは手術が標準治療で、5年生存率は70~75パーセントです。ステージⅡ、Ⅲは術前補助化学療法シスプラチンフルオロウラシル)のあとに、手術(食道切除、リンパ節郭清、消化管再建)を施行するのが標準治療です。5年生存率は50~55パーセントです。化学放射線療法(シスプラチン+フルオロウラシルと放射線照射50.4~60グレイ)でも根治が期待でき、手術拒否患者さんや手術不耐患者さんが対象となります。(6)

■転移している場合
[治療とケア]化学放射線療法または化学療法を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] ステージⅢ(T4)、Ⅳaでは化学放射線療法(シスプラチン+フルオロウラシルと放射線照射50.4~60グレイ)が行われます。完全奏効割合は10~15パーセントです。
 ステージⅣbは遠隔臓器転移を有する患者さんであり、化学療法が行われます。1次治療としてシスプラチン+フルオロウラシル(奏効割合36パーセント)があります。2次治療としてタキサン系薬剤(奏効割合21パーセント)が多く使用されておりますが、近年ドセタキセル水和物+シスプラチン+フルオロウラシルの3剤併用療法が検討されています。(7)

[治療とケア]放射線療法を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 限局性の食道がんの患者さんでは、放射線療法単独でも生存率の延長が認められるとの信頼性の高い臨床研究があります。しかし、近年は放射線療法単独治療に代わって、化学療法と放射線療法を組み合わせた治療が行われるようになっています。(8)(9)

[治療とケア]化学療法と放射線療法を組み合わせる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 化学療法と放射線療法を組み合わせた治療群と放射線療法単独群を比較した結果、前者のほうが生存中央値(対象者を生存期間の長さで並べた場合、ちょうどまん中に位置する人の生存期間)と5年生存率は良好であったという非常に信頼性の高い臨床研究があります。手術が不可能な食道がんの患者さんに対しては、化学療法と放射線療法を組み合わせた治療が現在の標準的な治療法となっています。(10)


よく使われている薬をEBMでチェック

抗がん薬
[薬名]ランダ/ブリプラチン(シスプラチン)(7)(11)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] DNAと結びついて細胞が分裂するのを妨げ、がん細胞を死滅させます。副作用として腎障害や嘔吐(おうと)がみられるので、水分補給と利尿薬、制吐薬の投与が行われます。

[薬名]5-FU(フルオロウラシル)(7)(11)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] DNAの合成を妨げて、がん細胞を死滅させます。多くのがんに有効で、ほかの抗がん薬と併用して広く用いられています。おもな副作用として骨髄機能抑制、下痢、口内炎、白質脳症などがみられます。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
早期なら内視鏡でがんを切除
 食道粘膜内にとどまる早期がんについては、内視鏡的粘膜切除術を行います。この方法を用いた場合、信頼性の高い臨床研究によると、5年生存率は95パーセント以上であったと報告されています。食道がんは、早期にはほとんど症状がなく、見つけにくいがんです。したがって、発見されたときにはある程度進行していることが多く、一般的に予後が悪いがんといわれています。
 しかし、近年はルゴール染色法やNBI(狭帯域光観察(きょうたいいきこうかんさつ))を用いた内視鏡検査によって比較的早期の発見が可能になり、内視鏡での治療が適応となる例も増えています。
 発病頻度(ひんど)の高い50歳代以降の男性には、定期的な検査を行うことをお勧めします。(9)

進行がんには、手術、化学療法、放射線療法を選択
 進行がんについては、リンパ節郭清を伴う胸部食道亜全摘術、あるいは放射線療法と化学療法を組み合わせた治療が行われます。
 双方とも5年生存率はほぼ同じと考えられていますが、後者では食道の狭窄症状(きょうさくしょうじょう)(食道が狭くなって通りが悪くなる症状)が改善されないという欠点があります。
 化学療法は、ランダ/ブリプラチン(シスプラチン)をベースにした多剤併用療法が主流となっています。

食道の狭窄を防ぐ方法も
 食道がんを外科的に切除できない場合には、がんによる食道の狭窄をいかに防ぐかがもっとも重要な課題となります。
 内視鏡を使って金属ステント(コイル状の拡張器)を入れたり、内腔(ないくう)(内側)に向かって盛り上がっているがん組織をレーザーで焼灼(しょうしゃく)したりして、食道の狭窄を改善する方法が開発されてきています。よく説明を聞き、相談をしたうえで治療法を選択すべきでしょう。

(1)Hamada T, Kondo K, Itagaki Y, et al. Endoscopic mucosal resection for early gastric cancer. Nippon Rinsho. 1996;54:1292-1297.
(2)Endo M, Takeshita K, Inoue H. Endoscopic mucosal resection of esophageal cancer. Gan To Kagaku Ryoho. 1995;22:192-195.
(3)Lerut T, De Leyn P, Coosemans W, et al. Surgical strategies in esophageal carcinoma with emphasis on radical lymphadenectomy. Ann Surg. 1992;216:583-590.
(4)Roder JD, Busch R, Stein HJ, et al. Ratio of invaded to removed lymph nodes as a predictor of survival in squamous cell carcinoma of the oesophagus. Br J Surg. 1994;81:410-413.
(5)Muller JM, Erasmi H, Stelzner M, et al. Surgical therapy of oesophageal carcinoma. Br J Surg. 1990;77:845-857.
(6)日本食道学会編. 食道癌診断・治療ガイドライン 2012年4月版. 金原出版. 2012.
(7)Hara H, Tahara M, Daiko H, et al. Phase II feasibility study of preoperative chemotherapy with docetaxel, cisplatin, and fluorouracil for esophageal squamous cell carcinoma.Cancer Sci. 2013;104:1455-1460.
(8)Levard H, Pouliquen X, Hay JM, et al. 5-Fluorouracil and cisplatin as palliative treatment of advanced oesophageal squamous cell carcinoma. A multicentrerandomised controlled trial. The French Associations for Surgical Research. Eur J Surg. 1998;164:849-857.
(9)Earlam R, Cunha-Melo JR. Oesophogeal squamous cell carcinoms: II. A critical view of radiotherapy. Br J Surg. 1980;67:457-461.
(10)al-Sarraf M, Martz K, Herskovic A, et al. Progress report of combined chemoradiotherapy versus radiotherapy alone in patients with esophageal cancer: an intergroup study. J ClinOncol. 1997;15:277-284.
(11)Enzinger PC, Ilson DH, Kelsen DP. Chemotherapy in esophageal cancer. SeminOncol.1999;26 (5 Suppl 15):12-20.

出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「食道がん」の解説

食道がん(上皮性)
しょくどうがん(じょうひせい)
Esophageal cancer (epithelial)
(食道・胃・腸の病気)

どんな病気か

 消化管の「がん」は、口腔・食道・胃・十二指腸・小腸・大腸など食物が通過する消化管内腔の粘膜面(上皮)から発生します。このうち食道がんは、下咽頭(かいんとう)から胃に至る28㎝くらいの長さの食道粘膜に発生するものをいいます。

原因は何か

 今日では、さまざまながん遺伝子の変調が指摘されていますが、各遺伝子の関連はまだ明らかにされていません。日常生活での誘因としては、過度の飲酒歴、喫煙が指摘されています。いわゆる慢性の長期にわたる刺激因子が重要視されます。

 アルコール摂取との関連では、最近、アルコール代謝酵素欠損が、食道がんの原因として重要であることがわかってきました。わかりやすくいうと、ちょっとお酒を飲んだだけですぐに赤くなってしまう人が、だんだん慣れてきて、たくさんお酒を飲むようになると、食道がんになる危険性は通常の人の何十倍にもなるということです。

症状の現れ方と診断

 食道がんは症状が出にくいので、食べ物が飲みにくいなどの嚥下(えんげ)障害が現れた段階では、進行食道がんであることが多くなります。

 早期の段階で診断するには、粘膜がんの状態で発見することが必要ですが、この段階ではほとんどの症例に自覚症状はみられません。粘膜がんの状態で治療されるような症例は、上部消化管内視鏡検査を含めたスクリーニング検査で発見されています。たとえば、人間ドックや検診で胃の異常を指摘され、内視鏡検査を受けた際にたまたま食道に発赤粘膜やわずかな凹凸病変などを指摘された人たちです。

 ほかの消化管がんでも同じですが、今日では粘膜がんであれば内視鏡で治療できるようになっています。ところが、進行がんになればリンパ節郭清(かくせい)を含めた手術が、患者さんの予後向上のためには必要になります。

 食道がんでは、胸腔内・腹腔内・頸部(けいぶ)切開による3領域のリンパ節郭清を伴う胸部食道切除と、胃または大腸による28㎝くらいの長さの代用食道の作成が必要であり、これが食道がん外科手術の基本操作ですが、患者さんにとっては大きな侵襲(しんしゅう)となります。

 そのため、できるだけ早期の段階で、がんを診断することが最も求められます。また、がんの深達度(しんたつど)(食道壁内のがん浸潤(しんじゅん)の深さ)が予後に影響するので、その診断が重要です。

治療の方法

 食道がんの治療法としては、低侵襲性(患者さんに優しい)の内視鏡による粘膜切除術から、放射線・化学療法さらには外科手術(鏡視下あるいは開胸・開腹)と多くの選択肢があります。しかし、治療法の選択基準はすべて、がんの進行度によります。

 がんの進行度は、がん深達度とリンパ節転移の有無、そしてほかの臓器(肺、肝臓、骨など)への転移の有無で決定されます。とくに、がんの深達度が大きな要素となります。食道の壁の構造(図16)は、伸展した状態で3~4㎜の厚さです。この厚さのうち、どこまでがんが達しているかで治療方針を決めるので、正確ながんの深達度診断が重要です。

 がん深達度の診断には、ルゴール液などの色素を用いた食道内の精密内視鏡検査による、がん表面のわずかな凹凸からの診断、EUS(超音波内視鏡)・CT・MRIによる診断が行われています。それぞれに特徴があり、病巣の深さによって選択されています。

 日本における深達度の浅い症例(粘膜がん)での治療成績をみると、内視鏡的粘膜切除術と外科手術の成績に差はみられません。したがって、現在では粘膜内の浅いがんに限れば、内視鏡治療が第一選択とされています。

 粘膜層を超える深達度が推定される症例では、CT・MRI・EUSでリンパ節転移の有無と分布を把握し、個々の症例に応じた個別の治療方針をたてます。

 初めから外科手術を選択するか、放射線化学療法(CRT)を選択するか、CRT後に効果のある症例には外科手術を行うか、あるいはそのままCRTを継続するかは、食道がん治療の専門学会でも2009年現在、まだ最終的な結論は得られていません。

 実際には、それぞれの治療法の成績、合併症、後遺症について詳しく患者さんに説明し、最終的には患者さんご自身に決定してもらうことが多いです。

 さらに進行し、食道周囲臓器への直接浸潤がみられた症例に対しては、以前は積極的に外科的な合併切除が行われた時代もありましたが、労力の割には患者さんの負担が大きく、予後の改善が得られないという結論が得られており、今日では消極的です。

病気に気づいたらどうする

 2007年に日本食道学会(旧日本食道疾患研究会)から、全国の食道がん治療の標準化を図るために、ガイドラインが発刊されています(金原出版)。これにも記述されていますが、食道がんの治療法や治療成績は各施設で異なり、統一見解を提示することはできません。ただし、日本食道学会で毎年行ってきた全国の食道がん登録成績結果報告があります。

 食道がんの専門医は全国におり、食道がんの診断法・治療方法・治療法ごとの成績を把握しています。治療にあたっては、地域を中心に、食道がんのキーワードインターネット検索をすることをすすめます。

清水 勇一


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「食道がん」の解説

しょくどうがん【食道がん Carcinoma of the Esophagus】

◎年齢は幅広く、男性に多い
[どんな病気か]
 食道は、口腔(こうくう)・下咽頭(かいんとう)と胃との間にある、長さが約25cmの消化管です。頸部(けいぶ)に始まって、胸部(縦隔(じゅうかく)内)、腹部におよび、胸部では大きく胸部上部、胸部中部、胸部下部と三部位に分けて呼んでいます。
 食道がんは、食道内腔(ないくう)のもっとも表層の粘膜上皮(ねんまくじょうひ)から発生するものですが、がん細胞の組織形態によって、扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん(がんとはの「悪性腫瘍のいろいろ」の扁平上皮がん)、腺(せん)がん(がんとはの「悪性腫瘍のいろいろ」の腺がん)、そのほかに分類されます。日本では扁平上皮がんが大部分を占めていますが、欧米では腺がんも多くみられます。
 発がん年齢は30~80歳代と幅広く、もっとも多いのは60歳代です。性別でみた発生率は、男性のほうが女性の4~5倍多く認められます。
 発生部位では、胸部中部にもっとも多く(54%)、ついで胸部下部(22%)、胸部上部(12%)、頸部(けいぶ)(12%)の順になります。
[原因]
 発がん要因としては、現在、遺伝的・体質的なものよりは、環境中の刺激因子のかかわりのほうが大きいと考えられています。たばこやアルコールがその代表的なものです。
 たばこでみると、発がんした患者さんでは、1日の喫煙本数と喫煙年数をかけたブリンクマン指数が平均650以上を示すことが多くなります。またアルコールでは、1日の飲酒量が日本酒換算で3~5合を20~30年間続けている多飲者が多くみられます。
●経過
 食道がんは、時間とともに粘膜上皮から粘膜内、粘膜下層、筋層、外膜(がいまく)へと浸潤(しんじゅん)(入り込むこと)して増殖し、その過程でリンパ節転移(せつてんい)、臓器転移をおこすと考えられています。
 外膜を越えると、縦隔内臓器である気管や大動脈などへも浸潤します。
 治療および予後(治療後の状態)の面から考えると、食道がんは粘膜がん、表在(ひょうざい)がん(粘膜下層がん)、進行がんと分けて考えるのが合理的です。リンパ節転移は、粘膜がんではほとんどありませんが、表在がんでは40%前後のリンパ節転移が認められ、進行がんでは70%を超えます。
[症状]
 粘膜がん、表在がんぐらいまでは自覚症状はあまりみられません。進行がんになると、嚥下障害(えんげしょうがい)(飲み込みにくい)、つかえ感、しみる感じが現われ、胸骨(きょうこつ)の後ろ側が痛むなどの症状が出てきます。このような期間が平均2か月ほど続きます。
 食道がんのリンパ節転移は胸腔内から頸部、腹部の三領域に広がることが特徴的で、この点が治療と予後に密接にかかわります。
 外膜を越えた進行がんになると、発生部位により反回神経(はんかいしんけい)(声帯(せいたい)の運動に関与する神経)まひがおこり、嗄声(させい)(かすれ声)が生じ、食道気管支瘻(しょくどうきかんしろう)、大出血などの重大な合併症が発生することがあります。
[検査と診断]
 代表的な検査は、食道バリウム造影と食道内視鏡の2つです。食道の粘膜をヨード(ルゴール)染色法によって染めて行なう内視鏡検査によって、表在がんや粘膜がんが発見される例が増えています。
 さらに、扁平上皮がんの発がんの背景として、粘膜上皮の変化(異型上皮(いけいじょうひ))が注目されています。ルゴール染色法を行なうとともに、確かな診断のためには、組織を採取して検査する生検法(せいけんほう)が必要となります。
 積極的な内視鏡検査を行なわなければならないのは、ヘビースモーカー・ヘビードリンカーで55歳以上の男性、口・頸部がんの人、がん家系(血縁者にがん患者が何人もいる家系)の人のほか、腐食性食道炎、食道アカラシア、バレット食道などの病気の人など、食道がんになる危険性が高い人々です。このようなハイリスクな人々に対しては、ルゴール染色法を実施するなど、より注意深い観察が必要となります。
 進行がんに対しては、CT検査、超音波検査、MRIなどが行なわれ、周囲臓器への浸潤やリンパ節転移の状況、肝臓や肺への転移の有無が調べられて進行度が確認されます。
 最近は、食道がんと他の臓器のがん、とくに口・頸部がん、胃がんとの重複や多発がんが発見されることが増えています。ことに口・頸部がんの患者さんでは、12~16%に食道がんや胃がんが発見されています。したがって、口・頸部がんまたは胃がんを患った人には、自覚症状の有無にかかわらず、内視鏡検査が有用です。
[治療]
 がんの原発病巣の進行度、転移の状況によって治療法は異なります。粘膜がんでは、広範囲の病巣を除いて、内視鏡的粘膜切除術(ないしきょうてきねんまくせつじょじゅつ)(EMR)が行なわれ、成績は良好です。
 表在がんや進行がんには手術治療が原則ですが、その進行度に応じて、放射線や抗がん剤による治療を一緒に行なう方法(集学的治療(しゅうがくてきちりょう)という)も必要となります。
 進行がんの手術成績は、5年生存率(術後5年間生きている割合)が45%ほどになっています。
 高度に進行した他臓器浸潤がんや、肝臓、肺に転移したがんに対しては、放射線治療、抗がん剤治療法が中心となります。
 最近では、手術自体も安全なものになり、しかも、できるだけもとの機能や臓器を温存することに意が払われるようになり、患者さんのQOL(生活・生命の質)向上のための努力がなされるようになりました。
 他臓器切除を余儀なくされた場合でも、たとえば、喉頭(こうとう)機能(咽頭(いんとう)の温存と反回神経の温存)を温存した手術とか、咽頭が切除され音声を失ったときにでも、手術的に音声を再建することが可能となってきました。また、高齢者や心肺機能が低下している人には、少しでも負担が軽くなるように、縦隔鏡(じゅうかくきょう)や胸腔鏡(きょうくうきょう)による手術が行なわれることもあります。ときには内視鏡的粘膜切除法と放射線照射を組み合わせることもあり、患者さんの状態にきめ細かく対応できるようになっています。
 ただし、食道がんの治療は専門性が高いため、手術については、食道外科の専門医がいる施設を選ぶことをお勧めします。

出典 小学館家庭医学館について 情報

四訂版 病院で受ける検査がわかる本 「食道がん」の解説

食道がん

 好発部位は食道の中部・下部で、60歳以上の男性に多い(男女比は5:1)のですが、全般的には増えていません(とくに女性では近年、死亡率が非常に低下している)。高濃度のアルコール、喫煙、熱い食事などの習慣が誘因になります。

●おもな症状

 無症状の場合もよくあります。おもな症状として、ものをのみ込むときのつかえ感やしみる感じ、のみ込めないなど。その他、胸部痛、胸骨の後方部の痛み、異物感などを訴えることもあります。がんによる食道の狭窄きょうさく(狭くなること)がかなり進行した場合には、食物の通過障害や嘔吐おうとがおこります。また、がんが神経(反回神経)を障害するとかすれ声(嗄声させい)になることもあります。

①上部消化管X線造影/腫瘍マーカー

  ▼

②上部消化管内視鏡/生検(病理診断)

スクリーニングはX線造影で

 上部消化管X線造影(→参照)が、とくにスクリーニング(ふるい分け)の検査として重要で、食道の狭窄、陰影の欠損、食道壁の硬化などがわかります。X線写真に写った2㎝以上のがんでは、外膜へ浸潤しんじゅんしている例が多くなります。

 腫瘍マーカー(→参照)は早期がんでは陽性率が低く、進行がんを含めた全食道がんでもCEAやSCCの陽性率は40%程度です。

内視鏡検査ではルゴール染色法が効果的

 上部消化管内視鏡(→参照)は、食道がんの診断に欠くことのできない検査です。がんの有無、がんの型の分類、広がり、副病変などがわかり、その部分の組織を採取(生検せいけん)し、病理診断することで確定します。

 食道の内視鏡では、食道内にルゴール液を散布したルゴール染色法がよく行われています。ルゴール液を撒くと、食道の正常の細胞(扁平へんぺい上皮)にあるグリコーゲンがルゴール液に反応して食道内は茶褐色に染まるのですが、がんや異型増殖、びらん、慢性炎症をおこしている部分は染色されないため、内視鏡でその変化を確認することができます。この方法で、ごく早期のがんがみつかるケースも増えています。

 その他、がんの転移や進行の状態(浸潤)を把握するために、超音波や超音波内視鏡、CT、MRなどの検査も行われることがあります。

出典 法研「四訂版 病院で受ける検査がわかる本」四訂版 病院で受ける検査がわかる本について 情報

食の医学館 「食道がん」の解説

しょくどうがん【食道がん】

《どんな病気か?》


 のどと胃のあいだにある約25cmほどの臓器が食道(しょくどう)です。食道がんも男性に発生する確率が高く、女性とくらべると5~6倍。食道がんの発生のおもな原因は喫煙と飲酒です。
 進行すると食べものや飲みものがのどを通りにくくなったり、つかえやしみるような感じを覚えますが、初期では、ほとんど自覚症状がありません。
 そのため、発見が遅くなることがありますが、食道の位置関係もあり、気管やリンパ節に転移しやすいため、早期発見、早期治療が肝要です。

《関連する食品》


〈ビタミンAを中心に食品数を多くとる〉
○栄養成分としての働きから
 食道がんの発生を予防するには、食品数を多くし、栄養のバランスをとることが必要です。そのため、不足しがちなビタミンAや食物繊維などを十分に摂取しなければなりません。
 また最近では、ビタミンAやCが食道がんの発生を抑えるという研究報告もあります。ニンジンやホウレンソウ、ブロッコリーなどの緑黄色野菜をたっぷりと摂取するようにしましょう。
○注意すべきこと
 アルコールは高濃度のものほど食道を刺激し、がんの発生率を高めてしまいます。ウイスキーなどはストレートをやめ、水割りなどにして飲むように心がけましょう。
 また、胃がん同様、食道がんも茶がゆなどの熱いものを食べる地方に多くみられます。
 熱い飲食物を日常的にとることもひかえたいものです。

出典 小学館食の医学館について 情報

栄養・生化学辞典 「食道がん」の解説

食道がん

 食道に発生したがん,もしくは食道に転移したがん.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

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