食糧法(読み)ショクリョウホウ

デジタル大辞泉 「食糧法」の意味・読み・例文・類語

しょくりょう‐ほう〔シヨクリヤウハフ〕【食糧法】

《「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」の略称》米・麦など日本国内における主要食糧の流通の安定をはかる法律。従来の食糧管理法とは異なり、政府米主体の管理ではなく、民間による流通米を主体とした管理・調整を行う。平成7年(1995)施行。平成16年(2004)の改正では規制が大幅に緩和され、計画流通米計画外流通米区分が廃止された。→民間流通米

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「食糧法」の意味・わかりやすい解説

食糧法
しょくりょうほう

正式には「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」(平成6年法律第113号)という。食糧管理法(食管法)の廃止に伴って1994年(平成6)12月に公布、翌1995年11月に施行された(輸入関係規定は1995年4月1日施行)。食糧管理制度の行き詰まりは早くから問題になっていたが、食管法の改正ではなく、廃止、新法制定となったことが物語るように、食糧法は食管法とは大きく変わっている。

[持田恵三]

食管法から食糧法への変化(計画流通制度)

第一の変化は、生産者の政府への米売渡義務(食管法第3条)を廃止したことである。売渡義務はかつて米供出の根拠であり、食管法改正で生まれた自主流通米によって事実上の例外がつくられたが、いちおう存在し続けてあらゆる食管的統制の基礎であった。

 この売渡義務の廃止によって、非合法だった自由米が公認された(計画外流通米)。一方では旧政府管理米にかわって計画流通米が生まれた。計画流通米の大部分は自主流通米であり、これに政府米とあわせて計画出荷される。この政府米とは、食管法のときとは違い、食糧法では政府が備蓄を義務づけられた政府備蓄米のことである。政府による米の買入は、備蓄用米に限られ、それは一年後の買い換えの際に、古米として市場に放出される。これが流通する政府米となる。このように農家が販売する米は、計画流通米である自主流通米および政府米(備蓄用米)と、計画外流通米(旧自由米)に分かれる。流通する米もまた同様である(ただし政府米は備蓄用米の古米)。

 流通する米は主として自主流通米のため、米価は自主流通米の価格となる。この価格は従来どおり、自主流通米価格形成センターにおける入札により決まる。ただし価格形成には一定の変動幅が設けられており、完全に自由ではない。入札回数は東京、大阪あわせて12回となる。しかしセンターに上場される米は流通量の25%であり、ほかはセンターで形成された価格を基準として相対で取引される。この点は従来とあまり差はない。

 政府米の買入価格は従来の生産費・所得補償方式ではなく、生産費と自主流通米価格の動向を参照して決められる。自主流通米の価格は需給によって変動するため、結局政府米の価格もその時点の需給を反映したものになる。

 第二の変化は流通の自由化である。食管法では米の流通業者は指定制、許可制でその参入は制限されていたが、食糧法では業者は登録制になり、一定の登録要件を満たしていれば認められるため、事実上、誰でも扱えるようになった。ただし、出荷業者は生産調整との関連で要件が厳しく、小売業者が一番自由になったといえる。このため小売業者は従来の9万店が2倍になり、卸商が2割強増加した(1996年6月)。しかし出荷業者では依然として農協が圧倒的なシェアを維持している。

売る自由と生産調整

流通規制緩和のもう一つの面は、流通業者の取引の自由化である。従来は「流通ルートの特定化」として、各段階の業者はタテの流れに沿って取引するように規制されていたが、新法の下では取引は基本的に自由となった。卸商、小売商が農協と直接取引してもよいし、逆に経済連等が直接小売商と取引してもよくなった。また従来あった営業区域の制限も事実上なくなった。このため米の産地直送が面倒な手続なしに自由に行えるようになった。

 このように「売る自由」が大幅に認められたのに対し、「作る自由」は生産調整の問題があるため、かならずしも十分ではない。米の生産能力が依然過剰である以上、生産調整なしには過剰と米価下落は避けられない。生産調整に対し、一定の助成が行われるが、旧来のように買入限度数量削減といった罰則は適用できない。生産調整は基本的に政府の仕事ではなく農協の、つまり農民が自主的に行うもので、それを政府が援助する事業となる。価格を維持するために生産を削除するという意味でカルテルであり、「農協食管」といわれる所以(ゆえん)である。

 食糧法では政府が買い入れる米は、生産調整に協力した生産者からに限られる。しかもその量は備蓄量に制限されており、買入価格が食管法のときのように米価の下支え価格にはならず、最低価格の保証がない。また過剰米はかつてのようにすべてが政府の手に集まるわけではなく、自主流通米の過剰は農協等により調整保管される。

 食糧法と直接の関係はないが、ウルグアイ・ラウンドの結果、米の輸入が義務づけられた(ミニマム・アクセス)。米の貿易はいちおう例外が認められて、国家貿易が維持され、政府が輸入しているが、義務輸入量を国内で販売できなければ、政府の在庫として残っていく。また備蓄用政府米も古米が売れ残れば、その分は政府の持ち越し在庫の増加となる。1997年米穀年度の需給見通しでは、1997年10月末の持ち越し在庫は300万トンで、うち政府米230万トン、自主流通米70万トン(うち調整保管50万トン)となっている。これは予定された備蓄量をはるかに上回り、食糧法の下でも米の過剰が再発していることを示している。1999年4月には米貿易の例外的な猶予期間が終了し、輸出入の許可制が廃止されるとともに関税化が導入された。数量は減ったが、ミニマム・アクセスの輸入は依然残されている。

[持田恵三]

食糧法の改正(計画流通制度の廃止)

計画流通制度のもとでは、当初、計画流通米が流通の主体となると思われていた。しかし、実際には、制約の少ない計画外流通米のシェアが上昇、計画流通米のシェアは低下し、計画流通制度は形骸化していった。

 こうした状況を受けて、2004年4月に食糧法は大幅に改正された。計画流通制度は廃止され、計画流通米と計画外流通米という区別はなくなり、政府による流通規制は輸出入と緊急時に限られることになった。また、自主流通米価格形成センターは、全国米穀取引・価格形成センター(略称コメ価格センター)となった。

[編集部]

『近藤康男編『日本農業年報第42集 政府食管から農協食管へ』(1995・農村統計協会)』『『日本農業年鑑1996』(1995・家の光協会)』『食糧制度研究会編『よくわかる新食糧制度』(1996・地球社)』『食糧庁総務部企画課内食糧制度研究会編著『知っておきたい食糧法』(1996・大蔵省印刷局)』『小池恒男著『激変する米の市場構造と新戦略』(1997・家の光協会)』『日本農業研究所編『食糧法システムと農協』(2000・農林統計協会)』『食糧制度研究会編著『詳解食糧法』改訂(2001・大成出版社)』

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百科事典マイペディア 「食糧法」の意味・わかりやすい解説

食糧法【しょくりょうほう】

正式名称は〈主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律〉。食糧需給価格安定法とも。旧食糧管理法(1942年)では米の生産・流通の実態に対処しきれなくなったこと,ウルグアイ・ラウンド農業合意による米輸入の恒常化,食糧安全保障の中核となる米備蓄の強化,消費者の嗜好の変化などに対応するため,食糧管理法に代わって1995年11月に制定。1996年産米から全面適用。米の需給と価格の安定を目的とする点では食糧管理法と変わらないが,従来の政府による米の全面管理を廃し,生産,流通の各面で市場原理を大幅に導入した点で戦後農政の大きな転換を示すものとなった。 おもな内容は,(1)政府が管理するのは備蓄,価格の安定に関与する計画流通米のみとする,(2)従来ヤミ米と呼ばれてきた自由米や縁故米を計画外流通米として認める,(3)自主流通米の価格は自主流通米価格形成センターにおける入札で決め,市場の実勢を反映させる,(4)集荷,販売業者は許可制から登録制に変更し,新規参入を容易にする,(5)備蓄量を取り決め,計画的な食糧備蓄を推進する,(6)農家の政府への米の売渡し義務の廃止など。この結果,農家は事前に届け出れば自由に米を販売することが可能になり,流通ルートに商社,スーパーマーケットなどの参入が相次いだこととあいまって,価格低下,品目数の増加といった状況が生まれた。
→関連項目食糧管理制度米価問題

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「食糧法」の意味・わかりやすい解説

食糧法
しょくりょうほう

主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」のページをご覧ください。

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