日本大百科全書(ニッポニカ) 「食塩」の意味・わかりやすい解説
食塩
しょくえん
食用に用いられる塩であり、工業用(一般工業およびソーダ工業)に用いられる工業塩と区別するためにこうよばれる。塩は化学的には塩化ナトリウムNaClとよばれるもので、人体に必要な無機質の一つである。体内に入るとナトリウムイオンと塩素イオンの状態で存在し、ナトリウムイオンは浸透圧の調整、栄養素の吸収、酸・塩基の平衡、神経の刺激伝達などの働きをし、塩素イオンは胃酸のもとになって消化を助けるなど、生命維持に不可欠なさまざまな働きをする。塩事業法では「塩」の定義は、塩化ナトリウムの含有量が100分の40以上の固形物で、チリ硝石その他財務省令で定める鉱物を除くものとなっている。
塩は人々の生活に不可欠な重要性を有しているという理由により、塩の製造や販売は歴史上さまざまの国において国家の専売の対象とされてきた。日本でも第二次世界大戦後は1949年(昭和24)に制定され実施された塩専売法により塩の製造、輸入、販売の権能は国家に専属するとされ、日本専売公社が専売を実施した。1985年にたばこ事業法が制定され、たばこ専売制度が廃止されるとともに日本専売公社が民営化され日本たばこ産業株式会社(JT)として生まれ変わると、日本たばこ産業株式会社が塩専売業を引き継いだ。さらに、1997年(平成9)4月1日から塩事業法が実施されたが、この法律により塩専売制度が廃止された。しかし、塩が国民生活に不可欠の重要性を有する物資であるという理由で、塩事業法は塩の安定的な供給の確保や塩産業の健全な発展を図るためのさまざまの措置を規定している。
[林 正寿]
食塩の種類
法律上、食塩は家庭用塩と業務用塩に分けられている。家庭用塩には、原塩(輸入天日塩)を溶解し再製加工した食卓塩(食卓での調味用)、クッキングソルト、精製塩(品質のすぐれたサラサラの塩で料理の味つけ用)、洗浄した粉砕塩(輸入天日塩を粉砕したもの)に添加物を加えたつけもの塩(漬物用)、またイオン交換膜法による鹹水(かんすい)を煮つめた食塩(料理の味つけ用)、新家庭塩(にがり成分を多く含んだしっとりタイプで料理の味つけ、漬物、焼魚用)などがある。一方業務塩にはイオン交換膜法による鹹水を煮つめてつくる並塩(なみえん)(みそ、漬物、水産、めん類用)、食塩(パン、菓子、調味、水産加工用)、輸入した天日塩からつくられる原塩(漬物、しょうゆ、水産加工用)、原塩を粉砕し再製加工した特殊精製塩(バター、チーズなどの食品加工用)、精製塩(パン、菓子、ハム、ソーセージ、スープの素その他用)などがある。
[林 正寿]
調味以外の用途
塩は調味以外にも、腐敗防止、浸透・脱水作用、タンパク質の凝固・溶解作用などを利用してさまざまな場面で使われている。10%以上の塩水は食品中の水分を取り去り雑菌の繁殖を抑える作用があるため、魚や肉の塩漬けをはじめとした多くの食品の加工・保存のために用いられる。5%以上の塩水はタンパク質の熱凝固促進作用があるため、卵を加熱調理するときに用いれば身がよくしまる。1~2%の塩水はタンパク質溶解作用をもち、小麦粉をこねるときに食塩を加えると粘りが増し、魚などの練り製品では弾力を増す。0.5%程度の塩水は大気中の酸素による食品の酸化と変色を防ぎ、食品中のビタミンCの酸化も防ぐ。浸透圧を利用して野菜や魚に塩をふって水分をしみ出させることもできる。スイカやお汁粉に塩をふりかけるのは、味覚を刺激する二つの味があるときに、片方の刺激が他方を強めたり(対比効果)、弱めたり(抑制効果)する現象を利用したものである。また、塩は食欲増進にも役だつ。
[林 正寿]
『平島裕正著『ものと人間の文化史7 塩』(1978・法政大学出版局)』▽『福井県立若狭歴史民俗資料館編・刊『塩 生産の歴史三千年 特別展』(1988)』▽『広山尭道著『塩の日本史 第2版』(1997・雄山閣出版)』