飛銭(読み)ひせん(英語表記)fēi qián

精選版 日本国語大辞典 「飛銭」の意味・読み・例文・類語

ひ‐せん【飛銭】

〘名〙 中国、唐・宋時代に、商品経済の発展に伴い、銅銭が重くて輸送に困難なため発行された一種為替手形
制度通(1724)一〇「諸国進奏院に銭をわたして、その手形を以て、国々へ往きて銭を受取る、是を飛銭と云」 〔新唐書‐食貨志四〕

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デジタル大辞泉 「飛銭」の意味・読み・例文・類語

ひ‐せん【飛銭】

中国、時代の送金手形。重くて輸送に困難な銅銭の代用として、初めは藩鎮と都との間で行われたが、商品経済の発展を反映して民間にも広まった。

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改訂新版 世界大百科事典 「飛銭」の意味・わかりやすい解説

飛銭 (ひせん)
fēi qián

中国,唐の憲宗時代に生まれ唐代後半期に行われた為替手形。便換ともいう。当時は貨幣経済が発達し長距離の交易が盛んになったが,遠隔地への銅銭の携帯が不便であったこと,両税法施行銭納化した租税税収地方から中央へ輸送することが不便かつ困難であったこと,銅銭不足の深刻化で各地の藩鎮節度使)が領内の銅銭の境外への流出を禁止したことなどが,この制度の成立を促した。各地に為替業務を取り扱う商人や役所(進奏院)が存在し,商人は銅銭を役所や為替商人に委託して公拠,文牒と呼ばれる手形の半券を受け取り,目的地で回送された他の半券と照合のうえ,手持ちの半券と引き換えに銅銭を受け取った。この制度は宋代にはさらに発達して紙幣が生まれることになる。
交子
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「飛銭」の意味・わかりやすい解説

飛銭
ひせん
Fei-qian; Fei-ch`ien

中国,唐・宋代の送金手形制度。便銭,便換 (びんかん) ともいう。唐代後期以降,商業,貨幣経済が普及するにつれ,長距離取引の商品が激増し,その代価である銅銭の輸送も重量過大となって不便なため,その解決法として始った制度。9世紀初め,憲宗の時代から史料に現れる。首都の度支 (たくし) ,戸部,塩鉄など財務官庁あるいは藩鎮の出先機関進奏院から手形 (文牒,拠などと呼ばれる) を振出し,それを持参して地方の州,軍で銭を支払う形で行われた。宋代では華北辺境振出しで京師支払い,あるいは京師振出しで江南地方支払いのものが多かった。この手形制が発展して宋代の紙幣を生み出すにいたった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「飛銭」の意味・わかりやすい解説

飛銭
ひせん

中国の初期の送金手形制度。唐の元和年間(806~820)ごろ、地方から長安に行って商売した商人が、郷里に送金するとき、各節度使の長安出張所というべき進奏院(しんそういん)に行って手形を組み、その券を半分に割って一半を所持して郷里に至り、別送された半券と照合して現金を受け取った。ほかに軍や戸部、塩鉄、度支(たくし)使も発行した。銅銭を運ぶ不便を去り、貨幣を節約した。唐末には地方で信用が守られず制度が乱れた。宋(そう)代では便換(べんかん)、便銭(べんせん)などとよんだ。

[斯波義信]

『加藤繁著『交子の起源に就いて』(『支那経済史考証 下』所収・1953・東洋文庫)』

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旺文社世界史事典 三訂版 「飛銭」の解説

飛銭
ひせん

唐の後半期より行われた送銭手形制度。宋代には便銭 (べんせん) ・便換 (べんかん) といわれた
唐中期以後,商業の発展と銭納を原則とする両税法の施行によって銅銭の遠隔地への大量輸送が必要とされ,節度使による銅銭の領外流出禁止もあって生まれた制度。為替業務を取り扱う長安の進奏院や富商の下で,公拠・文牒と呼ばれる手形を組み,目的地で半券と照合して銅銭を受けとった。宋代にはさらに発展して紙幣が生まれることになる。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「飛銭」の解説

飛銭(ひせん)

唐の送銭手形。宋の便銭(べんせん),便換(べんかん)はその発展形態である。唐中期以降の遠隔地商業取引,銭納税制(両税),藩鎮(はんちん)の禁銭政策を背景に信用制度が発達し,大都会と地方との間の取引に利用された。

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普及版 字通 「飛銭」の読み・字形・画数・意味

【飛銭】ひせん

銭券。

字通「飛」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の飛銭の言及

【為替】より

…この種の信用証券の授受が中国の記録で確認されるのは,バビロニアやインドよりおそく,8世紀,唐の半ばすぎである。江南の茶を北辺に売る茶商が,送金の便のため飛銭の制度を始め,長安の進奏院という地方政府の出張所に現金を預金し,指定地で決済を約束する証票を受けとった。当時の大都市で櫃坊(きぼう)や金銀鋪(銀行の一種)が起こり,大規模商業が勃興したが,鋳銭量が限られ,地方での通貨流通も円滑でなかったので,飛銭に代表される為替制度が生まれた。…

【交子】より

…交子は銭財を交付したことを示す証票という意味の呼称である。中国で手形の利用が盛んになるのは唐代からで,唐の長安には寄附鋪,櫃坊(きぼう)などと呼ばれ,他人の銅銭や金銀絹帛などの貨幣的物貨を預って預り手形を発行する業者がいて,その手形が市中の取引に用いられ,また長安と地方大都市とのあいだの送金為替手形の取組み(便換,便銭,飛銭)も盛んであった。宋代になると寄附鋪は州・県などの都市にも普及し,したがって手形も普及した。…

【紙幣】より

…もちろん,等価流通の強制下においても両者に価値差の生ずるのは当然であるから,やがては政府自身紙幣を発行することをやめ,発行を必要とする場合には,発券銀行(中央銀行)を利用し,まず公債を発行して,これを銀行に引き受けさせ,これを保証準備として銀行券を発行せしめ,所要資金を調達する方法をとるにいたる。 信用券の発生は相当古く,すでに9世紀中国唐の憲宗(在位805‐820)時代に民間に送金を目的とする飛銭または便銭と称する手形の使用があった。10世紀宋代には四川の富豪によって発行された交子(こうし)と称せられる一種の約束手形が携帯に不便な鉄銭に代わって通貨として流通したという。…

【商業】より

…銭票と銀票とがあり,現金同様に扱われたが,とくに銀票は商取引に重用され,額面数千両に及ぶものもあった。また,貨幣を遠方に送る方法として手形を用いることも唐代以来行われ,飛銭と呼ばれたが,宋代には便銭,兌便などといわれた。明・清時代になると会票,のちに匯票(かいひよう)と称し,やがて業務が専門化・大規模化して票号が誕生すると,全国の主要都市に巨額の現金が託送できるようになった。…

【手形】より

…唐宋変革期(9~13世紀)の商業革命において貨幣経済が急激に広がり,鋳造貨幣の銅銭が唐の20余万貫から宋の500万貫へと増鋳されたものの供給が不足し,また重くて大口,遠距離の取引に不便であるため,手形の盛行をみたのである。まず為替手形が先行し唐では飛銭(ひせん)とよんだ。振出人は振出しと同時に支払人にも一通の文書を送り,支払人は受取人の持参する飛銭と照合したうえで手形金額を支払った。…

※「飛銭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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