風車(ふうしゃ)(読み)ふうしゃ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「風車(ふうしゃ)」の意味・わかりやすい解説

風車(ふうしゃ)
ふうしゃ

風の力を利用して動力を得る機械自然力を動力源にしている機械としては、水車とともに代表的なものである。いつごろから、どこで風車がつくられ、使われるようになったかは、さだかでない。見聞としては、10世紀初頭に大旅行をしたアラビア地理学者が、ペルシアで風車を見た、としている。

 今日では、風車は東方で発明され、それがヨーロッパに導入されたのであろうとされているが、どのようにしてヨーロッパに伝播(でんぱ)したのか、はっきりさせることはできない。ヨーロッパの学者なかには、その起源を東方とする説に疑問を呈している者もいる。その理由は、風車に関する文献が全然見当たらないこと、そして東方に風車がそれほど残っていないことをあげている。

 ヨーロッパでは10世紀末から11世紀初頭にフランス、イギリスオランダなどに風車が出現したが、図版で残されているのは14世紀以降であり、それ以前の風車についてその形などを正確に知ることはできない。16世紀に入って、オランダの技術者たちは風車を急激に発達させたといわれる。それは風車の主要な機構の変化をもたらすものではなく、むしろ部品の精巧化、設計の緻密(ちみつ)化などを進めることで風車の規模を大きくすることを可能にし、生産効率を高めることにつながった。

 風車の効率は、風がつねに車翼に向かって当たることで高まる。したがって車翼を風の方向に向けるために、風車全体、あるいは車翼の取り付けられた上部だけを、風向きにあわせて旋回できるようつくられる必要があった。車翼のついた頂部が、ころの上にのせられるような設計が行われ、風向きによって頂部だけが旋回できるような風車(塔型風車)は16世紀なかばに製作されたと伝えられる。その頂部の旋回は、てこを使うか、伝導機構によって頂部の歯車とかみ合う軸を回転させて行われた。また16世紀には、車翼の腕木を水平面に対してある程度の角度をもたせて取り付けたほうが風を受ける効率が高くなる、という点を議論しており、実際、設置される風車の多くは車翼に若干の角度をもっていた。

 風車がオランダで大きく改良されたのは、この国でそれだけ多く風車が利用されたためである。オランダでは土地がら、昔から水害に悩まされ、土地の干拓のために水をくみ出さなければならなかった。この排水の動力に風車が盛んに使われたほか、製粉機の動力として利用された。そのようななかで、回転している臼(うす)をすばやく停止できるような制動装置が発明されたり、17世紀になってからではあるが、その後の機械学および機械工業の発展を促進させた、回転速度を一定に保てるようにしたはずみ車(フライホイール)が発明され、風車の機構にも取り入れられた。このようにしだいに機構が整備・改良されて、広く一般に普及していった。こうした伝統が、今日、風車をオランダの風物にまでしているともいえるのである。

 車翼は風の強弱にかかわらずスムーズに回転させる必要がある。そのために車翼を骨組だけでつくり、それに帆布を張れるように設計し、帆布の張る量の調節により風力の変化に対応できるようにしている。強風のときには帆布をまったく張らず骨組だけで回転させ、逆に微風のときには骨組を帆布で覆って風を十分に受け止め回転させるのである。車翼には種々の型があるが、オランダでは四枚羽根のものが発達し、アメリカなどではそれ以上に多くの羽根のものが使われた。新しいものではプロペラ型のようなものがある。

 19世紀になって蒸気機関が発明されると、風車はしだいに使われなくなった。自然条件に左右されるという点で原動機として使われなくなるのも当然のことといえるであろう。しかし、灯台などで風力発電に利用され、貴重な原動機として活躍しているし、風の吹く条件のよい地域では灌漑(かんがい)・揚水などに使われている例もある。

 日本では、水田の水の確保のために地下水をくみ上げる揚水ポンプの原動機などに一部の地域で利用されていた。しかし広く使われることはなく、博物館でも資料として風車を保存しているところはきわめてまれとなっている。

[雀部 晶]

 近年では、地球温暖化など環境問題が大きく取り上げられるようになり、風車を用いた風力発電が自然を利用したクリーンエネルギーとして注目されるようになった。大規模な風力発電には、おもにプロペラ型風車が用いられ、日本では、家庭用の小型風力発電を除くと、2008年(平成20)3月末で1409基の風力発電用風車が稼動している。

[編集部]


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