風疹ウイルス

内科学 第10版 「風疹ウイルス」の解説

風疹ウイルス(フラビウイルス)

(6)風疹ウイルス(rubella virus)
概念
 風疹はトガウイルス科ルビウイルス属に属する風疹ウイルスによる全身性ウイルス感染症である.飛沫感染する.
疫学
 風疹はヒトだけに感染する.流行を阻止するための集団免疫率は80~85%である.米国やフィンランドでは風疹は排除されている.わが国では1994年から男女小児に風疹ワクチンを接種するようになり,全国的な流行は認めなくなっている.わが国の主たる風疹発症者は,風疹ワクチンを受けていない30歳代以上の男性で,外国からの輸入株により発症している.
病態生理
 潜伏期間は14~23日,通常16~18日である.飛沫感染により感染したウイルスは,上気道粘膜や局所リンパ節で増殖した後,リンパ流から血流に入り親和性のある臓器に運ばれ,そこで増殖して臨床症状を呈してくる.周囲の人に感染させる期間は,発疹出現数日前から発疹出現後5~7日間である.
臨床症状
 風疹の顕性感染率は60%である.全身の紅斑性斑状丘疹,37.5℃以上の発熱,全身のリンパ節腫脹(特に耳介後部と頸部に著明)が主症状である.リンパ節腫脹は5~8日間で消褪する.発疹は顔から出現し,下方に広がっていく.斑丘疹は3日間程度持続し,消褪する.小児では色素沈着を残さないが,成人では色素沈着を残すことがある(図4-4-12).
検査成績・診断
 臨床診断基準は,周囲の流行状況から風疹を疑い,①全身性の斑丘疹状発疹,②37.5℃以上の発熱,③頸部・耳介後部のリンパ節腫脹を認めたとき,である.ウイルス学的には,①血中IgM抗体の検出(酵素免疫(EIA)法),②血中抗体の有意上昇(赤血球凝集抑制(HI)法),③咽頭拭い液,末梢血単核球,尿からのウイルス分離陽性またはウイルス遺伝子の検出のいずれか1つを満たした場合,風疹と診断する.わが国では風疹抗体を確認する方法としてHI法,EIA法などが用いられている.HI抗体8倍以上が陽性であるが,多くの人の風疹発症を予防する抗体価は16倍以上である.わが国では妊婦の風疹抗体検査が行われており,HI抗体16倍以下では産褥期に風疹ワクチン接種が勧められている.
合併症
 思春期や成人(特に女性)では関節炎を5~30%に認める.手指感染や膝関節に好発する.免疫学的機序により,発疹出現2~7日後に脳炎が5000人に1人で発症する.予後は比較的良好である.血小板減少性紫斑病は発疹出現2~14日後に3000人に1人が発症する.
治療
 対症的に治療する.脳炎にはステロイドパルス療法,血小板減少性紫斑病にはガンマグロブリン大量療法が行われる.
予防
 風疹の予防には風疹ワクチンを接種する.成人女性に接種する場合は,接種後2カ月間の避妊が勧められている.わが国では2006年から麻疹ワクチンと混合した麻疹風疹混合(MR)ワクチンの2回定期接種(1歳,小学校就学前1年間)が行われている.
 風疹患者との接触があった場合の風疹ワクチン緊急接種の効果に関しては実証されていないが,理論上3日以内に接種すれば効果があると考えられている.自然感染の風疹潜伏期やすでに免疫がある人にワクチンを接種しても副反応の増加はない.規模は小さいが,筋注用ガンマグロブリンでは0.55 mL/kg(88 mg/kg)の投与で発症予防効果や軽症化が認められている.風疹暴露を受けた妊娠初期の妊婦の予防に考慮される方法である.
先天性風疹症候群(congenital rubella syndromeCRS
 妊婦が妊娠早期に風疹に罹患すると,ウイルス血症により運ばれた風疹ウイルスが胎盤で増殖した後胎児に感染し,CRSの症状が出現する.白内障・緑内障,色素性網膜症,小眼球症などの眼疾患,先天性心疾患(動脈管開存肺動脈狭窄が多い),感音性難聴が3大症状である.出生時,低出生体重児,骨端発育障害(X線検査),血小板減少による出血斑,肝脾腫なども認められる.出生時異常がなくても,その後難聴,精神遅滞で気づかれるときもある.CRSの発症頻度は,妊娠12週までは69~85%,13~16週では20~45%であり,第二三半期では25%である.妊娠6カ月以降に妊婦が風疹に罹患すると,胎児に風疹ウイルスが感染することはあるがCRSは発症しない(先天性風疹ウイルス感染).
 CRS児は1年にわたり気道分泌物や尿中にウイルスを排泄しているため,周囲への感染源となっている.白内障のレンズの中には年余にわたってウイルスが生存している.
 CRS児では出生時血清IgM抗体が検出され,咽頭,尿,血液などから風疹ウイルスが分離される.[庵原俊昭]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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