類型学(読み)るいけいがく(英語表記)typology

翻訳|typology

精選版 日本国語大辞典 「類型学」の意味・読み・例文・類語

るいけい‐がく【類型学】

〘名〙
① 研究に際して、多くの事例の典型になる形態を取り出して研究をすすめる学問の方法、あるいはその成果。生物、人間、文化、芸術などの研究にみられる。
心理学において、個人または民族の心身の構造を類型に分けて考察する研究。

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デジタル大辞泉 「類型学」の意味・読み・例文・類語

るいけい‐がく【類型学】

個々の存在や現象の間の類似点を抽出してそれらの本質を理解しようとする学問の方法。生物学・心理学・言語学文化人類学芸術学などにみられる。類型論

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最新 心理学事典 「類型学」の解説

るいけいがく
類型学
typology

類型論ともいう。現象をなんらかの基準や原則に基づいて,いくつかのカテゴリーに分けて見る見方。類型学的な見方は,性格研究に限らないが,性格の類型学は一定の法則に基づいて特徴的な性格を,少数の典型に分類しようとする立場。このような研究の源は,古代ギリシアの医学の祖といわれているヒポクラテスHippocratesの四体液説を基に,ガレノスGalēnosが体液を人の性質に対応させて,多血質,胆汁質黒胆汁質粘液質の四気質説を唱えたことにまでさかのぼれる。しかし,実証的な検査をしていたわけではなく,個人差の説明原理として思弁的に体液バランスを当てはめていた。ここでの個人差とは人間の総体としての独自性や統一性を指し,これ以上分析できない典型ないし理想型であり,いわば類型の代表といえる。このような気質が性格の基礎を成すとの考え方は,20世紀前半に性格の理解を容易にしようとして,クレッチマーKretschmer,E.やユングJung,C.G.などにより,ヨーロッパ大陸で新たな発達を遂げた。類型の基準は,体質に基礎をおくだけでなく,精神の構造や力学に求めるもの,精神的・心理的な表象ないし認知に基づくものなどがあるが,これらの類型の基準について,生物分類学を精神科学に適用したドイツの哲学者ディルタイDilthey,W.は,歴史と人間の本質にかかわるような精神生活を規定する本質的特徴を具現しているという要件を備え,多くの個体を包括する概念としてとらえている。

 代表的な類型学には,体質的・生物学的特徴による類型として,ドイツの精神医学者クレッチマーは『体格と性格』(1921)を著わし,三大精神病の体型と病前性格から,細長型-分裂質(非社交的,静か,内気,変わり者),肥満型-躁うつ質/循環型気質(社交的,善良,親切,温かみ),闘士型/筋骨型-てんかん質(熱中しやすい,几帳面,凝り性,秩序)と発育異常型に分けた。さらに『天才の心理学』(1948)を著わし,芸術作品や学者の業績には,性格による特色があるとした。シェルドンSheldon,W.H.は身体の各部を計測して,内胚葉型-内臓緊張型,中胚葉型-身体緊張型,外胚葉型-頭脳緊張型を取り上げたが,これは健常者についての研究である。心理的特徴による類型として,シュプランガーSpranger,E.は,価値をおく生活様式によって,理論型・経済型・審美型・宗教型・権力型・社会型の六つに分類した。ユングはスイスの精神科医・心理療法家で,フロイトFreud,S.から大きな影響を受け,抑圧による無意識としての個人的無意識personal unconsciousに加えて,遠い祖先の時代から受け継いだ人類共通な集合的無意識collective unconsciousを提唱した。そこにはわれわれの祖先の経験や知恵が含まれ,無意識の領域には多くの葛藤の解決法が存在しているとしている。その活用の仕方に相異なる二つのタイプがあって,一方は客体としての外的世界に興味を向け,他方はむしろ自己自身(主体)に興味をもつとして,外向型extrovert typeと内向型introvert typeに分かれるとした。正常な場合,前者は迎合的,一見打ち解けた,気さくな態度を特徴とし,後者は躊躇,反省,引っ込み思案を特徴とするという。さらに,これら心的エネルギーの方向性とは別に,思考,感情,感覚,直感から成る四つの心の機能というものを考えて組み合わせて,八つの基本的性格タイプに分類している。さらに主要機能を補完する機能があり,優越機能が外向であれば,劣等機能は内向となるなど,力学的な補償関係で理解している。このユングのタイプ論に基づいてMBTI(Myers-Briggs type indicator)性格検査が開発されている。類型学は,個人の全体像を簡便につかむことのできる点で優れるが,典型的なパターンに注目してしまうために中間型や移行型を見過ごすことや,実際にはない特徴までも包含してしまうなどのリスクが指摘されている。 →気質 →人格 →分析心理学
〔杉山 憲司〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「類型学」の意味・わかりやすい解説

類型学
るいけいがく
typology

類型論ともいう。限定された期間における個人の行動の恒常性が、ある一群の人々に共通してみられるという事実を基礎に、一定の原理に従い組織的に類型を決定し、多様な性格をそれによって分類、理解していこうとする研究の立場。20世紀前半のヨーロッパ、とくにドイツの人間学・性格学の考え方が背景になっており、個人を、統計的方法による量的把握ではなく、全体像として質的に把握しようとする。考え方や基準の違いによりさまざまな研究があるが、シュプランガーやユングの心理学的類型論、イェンシュErick Rudolf Jaensch(1883―1940)の人間学的類型論、クレッチマーやシェルドンWilliam Herbert Sheldon(1899―1977)の体質類型論などが代表的である。

 類型学は個人の全体像を容易に把握できる点で優れているが、典型を重視するあまり中間型・移行型を無視し、他の特徴を見逃したり、実際にはない特徴まで包括してしまう危険性、および静的・質的把握にとらわれ、性格の変化する動的側面や程度の差をとらえられない欠点もある。新しい展開として、類型と因子分析によるパーソナリティー因子との接近に期待される。

[木村 裕]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「類型学」の意味・わかりやすい解説

類型学
るいけいがく
Typologie

性格や気質や関心の方向にみられる多様な個人差をなんらかの理論的基礎に基づいてタイプ分けする体系。古くはギリシア時代から試みられているが,近代の心理学,精神医学では E.クレッチマーによる内因性精神障害者の体格ならびに行動様式に基づいた分裂性気質,躁鬱 (そううつ) 性気質,てんかん性気質という類型化,C.G.ユングによる心的エネルギーの向う方向に基づいた外向型,内向型の類型化,E.シュプランガーによる主要関心をもつ生活領域に基づいた類型化が比較的有名である。その他,S.フロイトや W.H.シェルドンのものなどがある。

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