顔真卿(読み)がんしんけい(英語表記)Yán Zhēn qīng

精選版 日本国語大辞典 「顔真卿」の意味・読み・例文・類語

がん‐しんけい【顔真卿】

中国、唐代の政治家書家臨沂(りんぎ)の人。字(あざな)は清臣。諡(おくりな)文忠玄宗に仕え、平原太守として安祿山の乱で大功を挙げ、刑部尚書、吏部尚書から太子太師となる。のち、反臣の淮西節度使、李希烈を説得するため派遣され、殺された。能書家として知られ、王羲之(おうぎし)派の典雅な書風に反発して、正鋒(直筆)をもって書き、書の革新を試みた。顔魯公。(七〇九‐七八五

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デジタル大辞泉 「顔真卿」の意味・読み・例文・類語

がん‐しんけい【顔真卿】

[709~785]中国、の政治家・書家。長安西安)の人。あざなは清臣。安史の乱で大功をたてた。のち反乱を起こした李希烈りきれつの説得に派遣され、捕縛され殺された。書は剛直な性格があふれる新風を拓き、「顔体」と称される。顔魯公。

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改訂新版 世界大百科事典 「顔真卿」の意味・わかりやすい解説

顔真卿 (がんしんけい)
Yán Zhēn qīng
生没年:709-785

中国,唐の忠臣,書家。字は清臣。顔平原,顔魯公と呼ばれる。北斉の学者顔之推5世の孫。開元22年(734)進士となり,のち,醴泉尉(れいせんい),長安尉,監察御史,殿中侍御史,東都採訪判官,武部員外郎を歴任して753年に平原(山東省陵県)太守に転出。翌々年に安史の乱が起こり,河北・山東各地は安禄山の勢力下に入ったが,顔真卿は従兄の常山(河北省正定)太守顔杲卿(がんこうけい)と連絡をとり,義軍をあげて唐朝のために気を吐いた。756年(至徳1),平原を放棄,翌年,鳳翔(ほうしよう)(陝西省)の粛宗のもとに行き,憲部尚書に任命され,つき従って長安に帰った。これがもっとも得意な時期であった。その後の20年間に3回地方に出され,3回長安に帰って中央政府に入り,刑部・戸部・吏部各侍郎,尚書右丞,刑部・吏部各尚書を歴任した。地方転出は,宦官李輔国,宰相元載などの権力者ににくまれたからである。778年(大暦13),代宗が没すると礼儀使となり,780年(建中1)には太子少師,782年,太子太師となったが,宰相盧杞(ろき)ににくまれ,783年,淮西(わいせい)でそむいた李希烈を招諭するという至難な使命を授けられ,汝州(河南省)に赴いて捕らえられ,蔡州(河南省)に送られ,785年(貞元1),希烈の部下に殺された。

 顔氏の家系には能書の人が多い。とくに5代の祖顔之推以来,陳郡の殷氏と通婚しているが,殷氏からも能書家が輩出している。顔真卿の母も殷氏の出で,真卿には顔・殷両家の能書の血が流れていたと考えられる。書人としての真卿は,それまで中国の書の主流をなしていた王羲之流の典雅な書法に反発して,書の革新をめざし,終始正鋒(直筆(ちよくひつ))をもって書き,力強さの中に美しさをこめた独特の楷書をあみ出した。主な楷書作品には,《千福寺多宝塔碑》(752),《東方朔画賛碑》(754),《麻姑仙壇記》(771),《顔氏家廟碑》《自書告身》(以上780)があり,草書作品に《祭姪文稿(さいてつぶんこう)》《祭伯文稿》(以上758),《争坐位帖》(764)などが伝わっている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「顔真卿」の意味・わかりやすい解説

顔真卿
がんしんけい
(709―785)

中国、唐代中期の政治家、書家。琅邪臨沂(ろうやりんぎ)(山東省)の人であるが、陝西(せんせい)長安に生まれる。字(あざな)は清臣。父は惟貞(いてい)。北斉の顔之推(がんしすい)5世の従孫にあたり、代々学者、能書家を輩出した名家の出である。幼くして父を亡くしたが、伯父や兄から教えを受け、少壮より書をよくし、博学で辞章に巧みであった。734年(開元22)26歳で進士に合格し、のち刑部尚書(ぎょうぶしょうしょ)、吏部尚書、礼儀使などの高位に上った。玄宗皇帝の755年(天宝14)安禄山(あんろくざん)の反乱時には、平原太守としてただ1人義兵をあげ、唐朝のために気を吐いた。その後、魯(ろ)郡開国公を封ぜられ太子太師(たいしたいし)を授けられたが、生来剛直な性格の旧派の彼は、人と相いれることなく、とかく敬遠されがちで官界を転々とした。やがて李希烈(りきれつ)謀反のとき、死を覚悟して諭(さと)しに出向き逆に捕らえられ、拘留3年ののち蔡(さい)州(河南省)竜興寺(りゅうこうじ)において殺された。

 書は草書の名手張旭(ちょうきょく)から筆法を授かったというが、楷行草各体に多肉多骨の書風を創始した。肉太の線と胴中を張らせた構成、それにどっしりした量感は顔真卿の全人間性を表出したものであり、開元・天宝期の様式を確立した中心人物であるといっても過言ではない。虞世南(ぐせいなん)、欧陽詢(おうようじゅん)、褚遂良(ちょすいりょう)と並び「唐四大家」と称せられるが、初唐のころ盛行した優美な王羲之(おうぎし)風とはまったく異なる、強烈な書風を示している。おもな作品に多宝塔碑、祭姪(さいてつ)文稿、麻姑仙壇記(まこせんだんき)、争坐位稿(そうざいこう)、顔氏家廟碑(がんしかびょうのひ)などがあり、『顔魯公文集』などの著がある。

[角井 博]

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百科事典マイペディア 「顔真卿」の意味・わかりやすい解説

顔真卿【がんしんけい】

中国,唐代の政治家,書家。字は清臣。顔之推(がんしすい)の5世孫。長安の人。文官として仕官したが,安史の乱の平定に尽力。剛直な性格のために,時の権勢家と合わず,政治的地位は不安定であった。李希烈の叛にあい殺された。書は形式的な調和美よりも,むしろ人間精神の深部にうごめく生命の抑揚を端的に表現,近代的な書風のよりどころとなった。代表作,楷書《顔氏家廟碑》,草書《祭姪(さいてつ)文稿》《争坐位帖》など。
→関連項目市河米庵傅山柳公権

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「顔真卿」の意味・わかりやすい解説

顔真卿
がんしんけい
Yan Zhen-qing

[生]景竜3(709)
[没]貞元1(785).8.
中国,中唐の官吏,軍人,書人。瑯や臨沂(山東省)の人。字は清臣。号は応方。諡は文忠。26歳で進士に及第,監察御史,平原太守,憲部尚書などを歴任し長安に帰った。しかしその後地方官として流謫(るたく)ののち,蔡州(河南省)の竜興寺で縊殺された。平原太守だったので「顔平原」,また魯郡開国公だったので「顔魯公」とも呼ばれる。彼の書は正統な書法によらない剛健雄壮な書風で,人間性を重んじる革新的な書道に多大な影響を与え,日本にも及んだ。唐の四大家の一人とされる。主要筆跡には『千福寺多宝塔碑』『八関斎会報徳記』『麻姑仙壇(まこせんだん)記』『顔氏家廟碑』『争坐位帖』『祭姪文稿(さいてつぶんこう)』などがある。また文集に『顔魯公文集』がある。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「顔真卿」の解説

顔真卿(がんしんけい)
Yan Zhenqing

709~785頃

唐の士人,書家。京兆万年(陝西(せんせい)省長安県)の人。安史の乱中,平原(山東)太守として義勇軍を率いたが失敗。藩鎮李希烈(りきれつ)の反乱のとき,使者となり反乱軍に捕えられて殺された。王羲之(おうぎし)の典雅な書風に対し,革新的な力強い書風を始めた。

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世界大百科事典(旧版)内の顔真卿の言及

【塩法】より

…唐の中期,再び塩の専売が本格化する。755年(天宝14)の安史の乱による軍費調達のため,河北で顔真卿が食塩の官売をはじめ,その経験をふまえて758年(乾元1),塩鉄使の第五琦(だいごき)が解塩と井塩,ついで海塩の専売制を断行した。産塩地には榷塩院(かくえんいん)を置き,亭戸,畦(けい)戸などと呼ばれる生産者を隷属させて,全生産を管理し,できた塩に原価の数十倍から100倍に及ぶ専売益金をかけて売りさばいた。…

【顔氏家廟碑】より

…中国,唐の顔真卿の代表的な楷書作品。文も彼の手になる。…

【書】より

…彼らは揮毫する前に大酒を飲んで気分を誘発し,屛風や牆壁(しようへき)など広い空間に向かって,一気呵成,縦横無尽に奔放な草書を書き放った。唐の中ごろに出た顔真卿は,王羲之の書を十分修得したうえで,張旭,懐素らとも親しく交わり,豪毅にして生命感のあふれる書風を打ち出し,宋以後の革新的な書を生み出す大きな原動力となった。その代表作に,楷書の《多宝塔碑》《麻姑仙壇記》《顔氏家廟碑》などがあり,行草の《祭姪文稿》《祭伯文稿》《争坐位帖》はとくに有名で,三稿と呼ばれている。…

※「顔真卿」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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