(読み)あずける

精選版 日本国語大辞典 「預」の意味・読み・例文・類語

あず・ける あづける【預】

〘他カ下一〙 あづ・く 〘他カ下二〙
[一] ある物事を他人に任せる。寄託する。
① 人の身柄や物事を一時的に引き渡してそのめんどうをみさせる。人に頼んで保管、管理してもらう。
東大寺諷誦文平安初期点(830頃)「世(の)中を誘(こしら)へて御子の列(つら)に預(アヅ)け給ひ」
※竹取(9C末‐10C初)「妻(め)の女にあづけて養はす」
② もめごと、争い事などで決着のつけにくい時、その処置を第三者に任せる。とりさばきを一任する。
※栄花(1028‐92頃)見はてぬ夢「いで、ただ己(おのれ)にあづけ給へれ。いと安き事」
③ 中世、近世、主君の不興をかった者や容疑者、犯罪人等を監視させるために、第三者や寺院、町村に託して保護させる。→預け
吾妻鏡‐治承四年(1180)一〇月二三日「河村三郎義秀被収公河村郷景義
※平家(13C前)四「其の外僧綱十三人闕官(けっくゎん)ぜられて、みな検非違使にあづけらる」
④ 中世(室町時代)、近世、利子をつけないで金、米などを貸す。
※浮世草子・世間胸算用(1692)二「此三月過に弐拾貫目預(アヅ)けました」
⑤ 近世、自分の土地を他人に貸して小作させる。
⑥ 年期を限って身を売る。
※人情本・春色梅児誉美(1832‐33)五「どこぞへ私があづけられて、お金をこしらへてあげるヨ」
⑦ 質ぐさを入れて金を借りる。質入れする。
※和英語林集成(初版)(1867)「シチヤヘ モノヲ adzkete(アヅケテ) カネヲ カル」
⑧ (保管を依頼することから) 酒席で、返盃しないで盃を先方にとめておいてもらう。また、すすめられた酒を遠慮する。
※雑俳・柳多留‐一〇(1775)「あづけるの嫌ひな礼者づふに成」
⑨ 他から物をもらうのを遠慮する。
洒落本・孔雀そめき(1789‐1801)草庵晒落「紙に銭をつつみ清六にやる『ナニサこんな事じゃアわるふござります。マアお預け申ます』」
茶の湯で、道具類を仮置(かりおき)する。
[二] ある物事にかかわりをもたせる。参与させる。
① 人や物をさしむけて加わらせる。参加させる。
※伊勢物語(10C前)二九「春宮の女御の御方の花の賀に召しあづけられたりけるに」
② (連用形の形で用いられ) …に関して。
※南海寄帰内法伝平安後期点(1050頃)二「人事に関(アヅ)けて、輙(たやす)く高下を為すに非ず」

あずかり あづかり【預】

〘名〙 (動詞「あずかる(預)」の連用形の名詞化)
① 人の身柄や物事を引き受けて守ること。物事を任されて管理すること。
※宇津保(970‐999頃)吹上上「ここに所々の別当のごたち並みて、あづかりのことども申したり」
② 引き受けてめんどうをみること。また、その人。任されて留守を守る人。管理者。留守番
※蜻蛉(974頃)中「ここのあづかりしける者の、まうけをしたれば」
③ 職名。
(イ) 古代、百済における地方軍事指揮官。都城以外を中、東、西、南、北の五方に分け、それぞれに指揮官を置いた。
※書紀(720)欽明一五年一二月(釈日本紀訓)「臣先に東方の領(アツカリ)物部莫哥武連を遣て」
(ロ) 平安時代の役人の一つ。実務担当の責任者。例えば御厨子所、画所、進物所、武者所などにおかれた。
※古今(905‐914)仮名序「御書の所のあづかり、紀貫之
(ハ) 荘官の一つ。→預所(あずかりしょ)
※三代格‐一九・延喜二年(902)三月一三日「仍須仮号庄家国致妨者科違勅罪、物皆没官。其称使及庄検校専当預等
④ 主君の不興をかった者や、容疑者、犯罪人等を特定の人に託して監視させること。
※浮世草子・男色大鑑(1687)三「大殿あららかなる御声にて、いかなる宿意にてもあれかし、上をないがしろにしたる事いはれなし、〈略〉御預(アヅカリ)との御意くだし給へば」
(イ) 金を借りること。借金。
※浮世草子・本朝二十不孝(1686)一「手形は弐千両の預(アヅカ)りにして」
(ロ) 現代では、精算が済むまで客の金を一時もらっておくことを婉曲にいう。「三千円お預かりいたします」
⑥ 預かったことの証拠となる書付。預かり証。
※歌舞伎・桜姫東文章(1817)大詰「預りは板行にして落し紙と一緒に吊して置くワ」
相撲などで勝負がつかない場合、勝ち負けをきめないままにすること。引き分け。
※随筆・相撲今昔物語(1785)六「此角力、江戸、京、大坂にて毎歳預りとなり」
⑧ 物事を中途でやめること。中止、保留。おあずけ。
※歌舞伎・𢅻雑石尊贐(1823)四立「当分切腹は預かりに致さう」
戦前の株式の短期取引の代行勘定で、渡し株の数が受け株の数より多くなった時、代行会社が買い方になって、渡し株を受けておくこと。

あずけ あづけ【預】

〘名〙 (動詞「あずける(預)」の連用形の名詞化)
① あずけること。寄託。また、そのあずけたもの。
※山科家礼記‐寛正四年(1463)四月二九日「広橋殿本所御出候。〈略〉御あつけの月毛馬めされ候也」
② 罪科のある人を他にあずけること。
※大かうさまくんきのうち(1605頃)「一、はっとりうねめ、ゑちこのかけかつに御あつけ。一、わたぜさへもんのすけ、さたけに御あつけ」
(イ) 江戸時代、未決囚を預けること。吟味期間中、重罪人は入牢させたが、軽罪のものは公事宿(くじやど)、町村役人、親類などに預けた。〔御仕置例類集‐古類集・一・天明八年(1788)太田備後守殿御口達〕
(ロ) 江戸時代の刑罰の一つ。罪人をある特定の者に預けて監禁するもの。預かり主が誰であるかにより、大名預、頭(組頭、支配頭)預、町預、村預、所預、親類預などの区別がみられた。終身預けることを「永く御預け(永預)」という。〔禁令考(19C中か)別巻・赦律・附録〕
(ハ) 江戸時代、遠島または追放の刑を申し渡された幼年者を、刑の執行される成年(一五歳)に達するまでの期間預けること。溜預と親類預がある。〔禁令考‐後集・第四・巻三二・文政五年(1822)四月〕
③ 外出禁止をいう遊里語。
※洒落本・北川蜆殻(1826)下「おばさん、こんやは、この松さんはあづけかえ」
④ 花札で他人に良い役ができそうな時、その役に必要な札を自分が取ってしまい、役のできるのを妨げること。

あそ・う あそふ【預】

〘自ハ四〙 (「相(あ)ひ副(そ)ふ」の変化した語) かかわりをもつ。あずかる。関与する。
※書紀(720)綏靖即位前(寛文版訓)「故(このゆへ)に我が陰(ひそか)なる謀(はかりこと)本より預(アソフ)(〈北野本南北朝訓〉あひいふ)者(もの)無し」

あず・く あづく【預】

〘他カ下二〙 ⇒あずける(預)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「預」の意味・読み・例文・類語

よ【預】[漢字項目]

[音](呉)(漢) [訓]あずける あずかる あらかじめ
学習漢字]6年
あずける。「預金預血預託
あらかじめ。「預言
[名のり]さき・まさ・やす・よし

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「預」の意味・わかりやすい解説

預 (あずけ)

江戸幕府法の未決勾留もしくは刑罰の称。江戸時代には牢屋などの拘禁施設が不十分であり,また身分による区別が複雑であったため,被疑者を同一の施設に収容することは不適当とされ,これを私人ないし団体に責付して監禁させた。武士の場合,御目見(おめみえ)以上で500石以上の者は牢屋に入れず,大名預(だいみようあずけ)とした。大名預はまた刑罰としても用いられ,大名や国事犯たる武士などに適用されたが,これには預と永預(ながあずけ)の別がある。永預は終身の監禁が予定されたものをいう。庶民についても,幕府は牢屋に勾留することをなるべく制限する方針であった。無宿(むしゆく)は原則として入牢させたが,有宿の者で軽い罪に該当するときは,手鎖(てじよう)を掛け,あるいは掛けずに私人か団体に預けた。江戸町方では宿預(やどあずけ),町預,在方では村預が主として行われた。宿預は町人のときは差添人たる町役人,江戸の公事宿(くじやど)に止宿している者はその宿に,村預は親類,五人組,村役人に命じた。町預というのは大きな自身番屋に留置するもので,その町の月行事(がちぎようじ),五人組が責任を負った。親類預は15歳未満の幼年者に適用され,遠島刑を科された幼年者は15歳まで親類に預けた。当道(とうどう)の座に加入していない盲人に遠島や追放などの刑罰を科すべきとき,刑罰に代えて親類預を命じた。盲人以外の身体障害者も追放刑に代えて親類預とし,あるいは知人,村役人に預けた。溜預(ためあずけ)というのはに収容することで,入牢中の病人を移したり,あるいは遠島刑を科すべき幼年者で親類預ができない場合などに見られた。未決勾留中の者が脱走すれば,吟味中の犯罪に科せられるべき刑より一等重く罰した。手鎖を外した者は百日手鎖を科された。預を命ぜられた私人ないし団体は捜索の義務を負い,尋ね出さなければ過料に処された。
執筆者:

預 (あずかり)

平安時代以降,一部の官司,および社寺,荘園に置かれた職名。律令制の崩壊とともに,官職も中世的な形へと変化していくが,その過程で生まれた職名と思われる。9世紀ごろよりみられるが,頻出するようになるのは10世紀以降である。《延喜式》《西宮記》には,太政官厨家預,太政官文殿預,後院預,進物所預,御厨子所預,御書所預,一本御書所預,侍従所預,作物所預,画所預,楽所預,納所預,酒殿預,贄殿預,穀倉院預,供御院預,乳牛院預等が載せられている。しかし,預が置かれたのはこれらにとどまらず,たとえば,(修理職)梅津木屋預,(筑前国)公文預,(美濃国安八郡)公文預等,諸官司をはじめ国衙や郡衙の下部機構にも及び,基幹・末端を問わず〈……院〉〈……所〉と呼ばれるような官司に広く置かれた。これらの預の中には御厨子所(みずしどころ)の紀氏のように,中世に至って家柄が固定してゆくものもある。預はまた,神社や寺院にも置かれた。石清水社や春日社では正預・権預等が置かれ,ずっと後まで社務の遂行に参画している。このほか梅宮社等でも例をみる。寺院においても,たとえば(醍醐僧正房)預,(東寺僧正房)預,(東大寺)泉木屋所預,(東大寺灯油納所)預,(東大寺修理所)預等々,多様な機関に置かれている。荘園においても荘司の一員として荘務にかかわる例を多く見いだしうるが,平安末期以降あまり見られなくなる。預は一般に別当の下に位置付けられ,実務担当の責任者としてその機関の運営に参与する場合が多いが,末端組織の責任者として単独で置かれることもある。また,平安中期以降,年預という職があらわれる。その性格は預に類似したものと思われるが,これは諸院・諸家・寺社のほかに正規の令制官職にも置かれ,実務担当者として重要な役割を果たした。年預は〈年預別当〉〈年預尉〉のように,その機関の正式職員の中から選ばれる場合とそうでない場合とがあった。また預と年預双方が置かれることもあった。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

山川 日本史小辞典 改訂新版 「預」の解説


あずかり

平安時代以降,一部の官司や社寺・荘園・国衙(こくが)などにおかれた下級職名。一般に長官や別当の下におかれた実務責任者であることが多いが,下部機関の責任者である場合もある。官司では太政官厨家(ちゅうけ)・文殿(ふどの)や後院庁・院庁・穀倉院や禁中所々などにおかれ,神社では平野社で早くみられるほか,石清水(いわしみず)社・春日社では正(しょう)預・権(ごん)預がのちのちまで社務を管掌した。寺院でも東大寺灯油納所・修理所などさまざまな機関にあった。


あずけ

中世~近世に行われた刑事的処分のうち,未決囚を私人や団体に預けて拘留,あるいは拘禁刑に服させること。中世では召預(めしあずけ)ともいい,鎌倉幕府は御家人に囚人を預け,預けられた囚人が逃亡した場合には所領没収などの罪科に処した。江戸幕府法でも,未決拘留あるいは刑罰として私人ないし団体に責任を負わせて監禁させ,武士については大名預,庶民については町預(ちょうあずけ)・宿預(やどあずけ)・村預などがあった。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のの言及

【ごみ】より

…第4には,公共地や観光地における散在ごみの問題である。京都市が1980年に導入を試みた空缶回収のためのデポジット(預り金)制度(販売時に容器代を上乗せしておき,空き容器を持ち込んだときに返還する制度)は全国で大きな論議をよんだが,いくつかの問題があって実現は見送られた。その当否はともかく,あるいは他のいかなる方法が今後考えられるにせよ,散在ごみの問題に関しては,市民は自分たちのまちや環境や自然を自分たちできれいにしていくための市民生活のモラルやルールを問い直していかなければならないし,清掃事業や関連企業・事業者も公共地,観光地などの美化清掃に積極的な責任を果たしていかなければならないだろう。…

※「預」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android