鞍馬天狗(大仏次郎)(読み)くらまてんぐ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「鞍馬天狗(大仏次郎)」の意味・わかりやすい解説

鞍馬天狗(大仏次郎)
くらまてんぐ

大仏次郎(おさらぎじろう)の創造した代表的ヒーローで、その活躍を描いた連作書名。1924年(大正13)に『鬼面の老女』を発表以来、1965年(昭和40)の『地獄太平記』まで、長短あわせて46本の連作がある。『角兵衛獅子(かくべえじし)』『山嶽(さんがく)党奇談』などの少年小説のほか『天狗廻状(かいじょう)』『新東京絵図』などが話題をよんだ。主人公鞍馬天狗は、初めは尊王攘夷(じょうい)派として活躍するが、立場を超えた時代の批判者に成長、剣の自由人としてふるまう。これは大仏の市民的良識とリベラルな思考の表れであり、壮快な剣のロマンとして広く愛読され、宗十郎頭巾(ずきん)で顔を包み馬を駆って行く天狗像は、嵐寛寿郎(あらしかんじゅうろう)主演の映画などを通して、昭和期の大衆のアイドルとなった。

尾崎秀樹

映画

日本映画。1927年(昭和2)、嵐寛寿郎(当時は嵐長三郎(ながさぶろう))の映画デビュー作で、正式題名は『鞍馬天狗異聞 角兵衛獅子』。曽根純三(そねじゅんぞう)(1898―?)監督、マキノ映画作品。勤王志士・鞍馬天狗が、角兵衛獅子の少年・杉作(松尾文人(まつおふみんど)(1916―?)監督)らと新撰組(しんせんぐみ)に挑む。大仏次郎の鞍馬天狗は、実川延松(じつかわえんしょう)(1894―?)が演じた『女人地獄』(1924年、帝国キネマ、長尾史録(ながおしろく)監督)や、尾上松之助(おのえまつのすけ)が監督・主演した『鞍馬天狗 第一篇』(1925年、日活)でも映画化されていたが、嵐寛寿郎の痩躯(そうく)を生かした俊敏な立ち回りと覆面の大活劇が観客を魅了し、一世一代当り役となった。以後、鞍馬天狗といえば嵐寛寿郎のイメージが定着し、嵐寛寿郎プロ、日活、大映、松竹、新東宝、東映、宝塚と40作以上生み出されるほど、老若男女に愛されたが、原作者・大仏次郎との映画化権の確執などから、1956年(昭和31)の『疾風!鞍馬天狗』(宝塚、並木鏡太郎(なみききょうたろう)(1902―2001)監督)が最後となった。その後は、東映の東千代之介(あずまちよのすけ)(1926―2000)版(1956~1959)、大映の市川雷蔵(いちかわらいぞう)(1931―1969)版(1965)がつくられた。

[冨田美香]

『『鞍馬天狗』全10冊(1981・朝日新聞社)』『西山光燐編『寛壽郎映画』(1991・西山光燐)』『竹中労著『鞍馬天狗のおじさんは――聞書アラカン一代』(1992・筑摩書房)』『御園京平編『劍星嵐寛壽郎』私家版(1994・御園京平)』『渡辺才二・嵐寛寿郎研究会編著『剣戟王嵐寛寿郎』(1997・三一書房)』『石割平編『鞍馬天狗』(2007・ワイズ出版)』『大佛次郎記念館編『鞍馬天狗読本』(2008・文芸春秋)』

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