靫負(読み)ゆげい

精選版 日本国語大辞典 「靫負」の意味・読み・例文・類語

ゆげい ゆげひ【靫負】

〘名〙 (「ゆきおひ(靫負)」の変化した語。古くは「ゆけい」)
令制前、大王親衛隊
書紀(720)敏達一二年一〇月(前田本訓)「火葦北の国造、刑部靱部(ユケヒ)阿利斯登の子」
衛門府(えもんふ)別称。また、そこの官人
※宇津保(970‐999頃)あて宮「ゆげいの乳母、御つかひに来たり」

ゆき‐おい ‥おひ【靫負】

〘名〙 (後世「ゆぎおい」) 大化前代朝廷の親衛隊。靫を負った武人。ゆげい。
※書紀(720)継体元年二月(寛文版訓)「州毎に三種(やから)白髪部を安置し、〈三種と言ふは、一つには白髪部舎人二つには白髪部供膳(かしはて)三つには白髪部靱負(ユキオヒ)なり〉」

ゆきえ ゆきへ【靫負】

〘名〙 =ゆげい(靫負)〔書言字考節用集(1717)〕

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デジタル大辞泉 「靫負」の意味・読み・例文・類語

ゆげい〔ゆげひ〕【×負】

《「ゆきおい」の音変化。古くは「ゆけい」》
大化前代を負って宮廷諸門の警護にあたった者。
衛門府えもんふ異称。また、その職員。ゆぎえ。ゆぎおい。

ゆぎえ〔ゆぎへ〕【×負】

ゆげい

ゆぎ‐おい〔‐おひ〕【×靫負】

ゆげい

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改訂新版 世界大百科事典 「靫負」の意味・わかりやすい解説

靫負 (ゆげい)

日本古代,朝廷の守衛にあたった武力組織の一つ。(ゆき)は矢を入れて背負う道具で,古墳の壁画や埴輪にも見られ,古代では悪霊を払う呪力をもつものとして尊ばれた。靫負は靫を背負う者の意で,弓矢を武器として朝廷に奉仕した。《日本書紀》には白髪部(しらがべ)靫負,刑部(おさかべ)靫部などの称が見えるので,白髪部刑部など朝廷に所属する名代(なしろ)の部の集団から資養をうけたとみられ,それらの部の名称から5~6世紀に成立したものと推定される。大伴・佐伯両氏の伝承によると,5世紀後半の雄略天皇のとき,大伴室屋が靫負を統率して宮門の警衛にあたったといわれ,大伴氏との関係が密接であった。靫負に関係する伝承や地名が西日本に多いので,主として西日本の豪族層から採用されたと考えられる。7世紀に入ると武力組織としては衰退したらしく,令制にはその実体は継承されず,〈ゆげいのつかさ〉の称だけが五衛府の一つである衛門府にうけつがれた。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「靫負」の意味・わかりやすい解説

靫負
ゆげい

古代宮廷の警備に従事した武人の称。舎人(とねり)が太刀を佩(は)くのに対して、弓矢を負う者の呼称か。その資養に靫負部(ゆげいべ)が置かれた。靫負(伴(とも))と靫負部(部民(べみん))の区別は難しく、国造(こくぞう)クラスの者も靫部(ゆげいべ)(靫負部)と記される(『日本書紀』敏達(びだつ)12年是歳条)。大伴室屋(おおとものむろや)が靫負3000人を率いたとあり(『令集解(りょうのしゅうげ)』所引弘仁2年(811)官符(かんぷ))、大伴氏の配下にあった。令制下では衛門府(えもんふ)の呼称「靫負司(ゆげいのつかさ)」にその名称と役割が継承される。

[森 公章]

『笹山晴生著『日本古代衛府制度の研究』(1985・東京大学出版会)』

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「靫負」の解説

靫負
ゆげい

大化前代における大和朝廷の親衛軍。靫(ゆき)は矢をいれて背負う道具で,「ゆげい」は「ゆぎおい」の義であり,弓矢を身につけるところからきた名称。おもに西国の豪族の子弟が奉仕し,名代(なしろ)の部によって資養され,武装して宮門の守衛などにあたった。大伴氏に統率されていたらしい。令制の衛府では,衛門府が靫負の伝統をひくとして「ゆげいのつかさ」とよばれた。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「靫負」の意味・わかりやすい解説

靫負
ゆげい

令制の左右衛門の和名。宮城の警衛にあたり,宮城門を守る衛門府を靫負司 (ゆげいのつかさ) という。大伴室屋が靫負 3000人を領して,宮門を警護したという故事にちなむ。

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