(読み)めん

精選版 日本国語大辞典 「面」の意味・読み・例文・類語

めん【面】

[1] 〘名〙
① 顔。人の顔。
※正法眼蔵(1231‐53)看経「このとき知客は、雲堂の門限のうちに、拝席のみなみに、面を北にして叉手してたてり」
※玉塵抄(1563)七「しろいまゆずみでよそをうに不及ぬぞ。めんの白きのかをがすぐれたぞ」
② 顔につけるかぶりもの。
(イ) 特定人物の顔をかたどったもの。伎楽や能楽などで用いられ、多く木製。
古事談(1212‐15頃)六「定朝左近府陵王の面打進るべきの由、仰下さるに依て」
(ロ) 仮装に用いる紙などで作った仮面。
※めぐりあひ(1888‐89)〈二葉亭四迷訳〉二「如何して解ったか、婦人が仮面(メン)の細長い孔から気の無ささうに自分をながめた」
(ハ) 剣道や野球などの武術・スポーツで顔をおおう防具をいう。また、剣道では頭部に打撃を加えることもいう。
※随筆・翁草(1791)二「猿は、竹具足に相応の面を懸け、小さきしなへを持ち立会けるが」
③ 物の外側の、ほぼ平らな、一定の広さを持つ部分をさしていう。
(イ) 表面。物のおもてまたは外側。〔工学字彙(1886)〕
(ロ) 数学で、広がりはあるが厚みはない図形のこと。平面と曲面。〔数学ニ用ヰル辞ノ英和対訳字書(1889)〕
(ハ) 建築上の用語で、角材の稜角を削って作る部分をさしていう。柱や天井の桟、格縁(ごうぶち)などに用い、「切り面」「几帳面」「唐戸(からど)面」などの区別がある。→面を取る
※匠明(1608‐10)殿屋集「面は十めんにとるへし」
④ (形動) 顔を合わせること。面接、面会すること。
※大慈恩寺三蔵法師伝永久四年点(1116)五「彼の二の王者、従(もとより)面末(な)し」
日葡辞書(1603‐04)「Menni(メンニ)、または、メンヲ モッテ マウサウズ〈訳〉直接、すなわちあなたと会った際に言いましょう」
⑤ 紙に書かれた文章。また、その内容。
※政基公旅引付‐永正元年(1504)七月六日「予去三月引付之面悉令読聞畢」
⑥ (「この面」「他の面」などの形で) 事柄や事態の、ある部分・方向をさしていう。方面。
※人間失格(1948)〈太宰治〉第二の手記「マルキシストは、生産面の研究と同時に、消費面の視察も必要だなどと下手な洒落を言って」
⑦ 朝鮮の郡県の下にある自治的共同体の組織。
※権といふ男(1933)〈張赫宙〉「若し権の努力がなかったなら、この面(メン)には学校がたたなかったらうと思ひ」
[2] 〘接尾〙 平面状の物を数えるのに用いる。
① 鏡を数えるのに用いる。
※釈日本紀(1274‐1301)七「天皇之始天峰来之時、共副護斎鏡三面、子鈴一合也」
② 琵琶などの楽器を数えるのに用いる。
※平家(13C前)七「玄象・獅子丸・青山、三面の琵琶を相伝して渡りけるが」
③ 硯(すずり)を数えるのに用いる。
※玉葉‐承安二年(1172)六月一二日「蒔絵硯筆二面」
④ 能面・仮面などを数えるのに用いる。
※ロドリゲス日本大文典(1604‐08)「ジョウノ ヲモテ ichimen(イチメン)
⑤ 碁盤などを数えるのに用いる。
※ロドリゲス日本大文典(1604‐08)「ゴ、シャウギ、スグロクノ バン、ichimen(イチメン)
⑥ 盆を数えるのに用いる。
※咄本・鹿の子餠(1772)喜勢留「客二人あり。たばこ盆一面(メン)出す。きせる壱本あり」
⑦ 複数の紙を継ぎ合わせたものなどを数えるのに用いる。
※玉葉‐承安二年(1172)六月一二日「檀帋五枚続一面、三枚続一面、各有礼帋
⑧ 書画などを収めた額を数えるのに用いる。
※二人女房(1891‐92)〈尾崎紅葉〉中「額は大小二面(メン)を相対(あひむかひ)に懸けて」
⑨ カルタの一組が描かれたものを数えるのに用いる。
浮世草子世間胸算用(1692)三「布袋屋(ほていや)のかるた一めん買て」
テニスバレーボールコートを数えるのに用いる。

おも【面】

〘名〙
① 人の顔。かおつき。おもて。
※万葉(8C後)八・一五三五「わが背子をいつそ今かと待つなへに於毛(オモ)やは見えむ秋の風吹く」
② 表面。うわべ。
※万葉(8C後)一六・三八三六「奈良山の児手柏(このてかしは)の両面(ふたおも)にかにもかくにも佞人(こびひと)の友」
※源氏(1001‐14頃)藤裏葉「渡殿のうへ見えまがふ庭のおもに」
おもかげ。様子。情景。
※万葉(8C後)一四・三四七三「佐野山に打つや斧音(をのと)の遠かども寝もとか子ろが於母(オモ)に見えつる」
④ (人に合わせる顔の意から) 面目。名誉。→面無し

おも‐て【面】

〘名〙 (「おもて(表)」と同語源)
① 顔。顔面。顔だち。おも。
※書紀(720)皇極三年六月・歌謡「小林(をばやし)に 我を引き入れて 姧(せ)し人の 於謀提(オモテ)も知らず 家も知らずも」
② 顔むけができること。面目。体面。
※書紀(720)垂仁五年一〇月(熱田本訓)「吾皇后なりと雖も、〈略〉何(なに)の面目(ヲモテ)(あ)てか天下を莅(のぞ)まむ」
③ 顔をかたどったもの。面形(おもてがた)。めん。また、とくに能面をいう。
※為尹千首(1415)冬「今ははや神楽おもてのならぶかな庭火しろくともよほさせつつ」

づら【面】

〘語素〙
① 名詞または動詞連用形に付いて、そのような顔つきをしている意を表わす。ののしっていう語。「馬鹿(ばか)づら」「悪人づら」「四十づら」など。
浄瑠璃新版歌祭文(お染久松)(1780)野崎村「アノ病ひづらが這入らぬ様ふに」
② 人名に付いて、その人をののしっていう語。
※浄瑠璃・嫗山姥(1712頃)二「あの右大将づらめにさまたげられ」
③ 地形を表わす名詞に付いて、それの側面、そばの意、また、表面の意を表わす。「川づら」「海づら」「山づら」など。
[補注]②については、「面」でなく「列(つら)」または「連(つれ)」の変化とする説もある。

めん‐・する【面】

〘自サ変〙 めん・す 〘自サ変〙
① 向く。対する。また、ある物事に出合う。直面する。
※文明本節用集(室町中)「為人子之礼出必告反必面(メンス)〔曲礼〕」
※東京の三十年(1917)〈田山花袋〉眉山の死「かうした悲劇に面しなければならない」
② 向き合って接する。直接つづく。
新聞雑誌‐一〇号付録・明治四年(1871)八月「海に面する所は大抵皆土地を開き村落をなす」

も【面】

〘名〙 (「おも(面)」の変化した語) おもて。表面。また、あたり。方向。
※万葉(8C後)一四・三三六一「足柄の彼(おて)(モ)(こ)の母(モ)に刺す罠(わな)のかなるましづみ子ろ吾(あ)れ紐解く」

もて【面】

〘名〙 「おもて(面)」の変化した語。
※万葉(8C後)二〇・四三六七「吾が母弖(モテ)の忘れも時(しだ)筑波嶺をふり放(さ)け見つつ妹はしぬはね」

めん‐・す【面】

〘自サ変〙 ⇒めんする(面)

おむ【面】

〘名〙 =おも(面)

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デジタル大辞泉 「面」の意味・読み・例文・類語

めん【面】[漢字項目]

[音]メン(呉) [訓]おも おもて つら
学習漢字]3年
〈メン〉
人の顔。「面前面相面面臆面おくめん顔面渋面人面赤面洗面白面覆面満面
顔を覆う道具。マスク。「仮面能面防毒面
顔を向ける。向き合う。「面会面詰面識面責面接面談直面覿面てきめん当面南面
向いている方・側。向き。「正面前面他面半面反面方面一面的
物の、平らに広がった部分。「面積画面球面月面紙面地面斜面水面断面帳面底面表面平面壁面路面
表面に記されたもの。「額面書面譜面文面
〈おも〉「面影面長
〈おもて〉「細面矢面
〈つら(づら)〉「面魂馬面上面うわつら字面外面野面仏頂面
[名のり]も
[難読]面繋おもがい面映おもはゆい川面かわも素面しらふ対面トイメン面皰にきび直面ひたおもて氷面ひも水面みなも面子メンツ

めん【面】

[名]
顔。「のいいのを鼻にかける」
顔につけるかぶりもの。多くは人物・動物などの顔をかたどったもので、神楽舞楽狂言や、子供のおもちゃなどに使われる。仮面。面形おもてがた。おもて。
顔面または頭部を保護するためにつける防具。剣道の面頰めんぽお、野球の捕手がつけるマスクなど。
剣道の技の一。頭部を打つこと。
物の外側の、平らな広がり。表面。
数学で、が運動したときにできる、広がりはあるが厚さのない図形。平面曲面がある。「に垂直な直線」
建築で、角材の稜角りょうかくを削り落としてできる部分。切り面几帳面きちょうめんなど。
方面。「資金ので援助する」
[接尾]助数詞
鏡・琵琶びわすずり・能面・仮面・碁盤など、平たいものを数えるのに用いる。「琴1」「3のテニスコート」
コンピューターゲームなどで、クリアするべき場面・コースを数えるのに用いる。「100をこえるパズルゲーム」「最終のボス」
[補説]書名別項。→
[類語](1顔面つらフェースおもて/(3面ぽお小手/(5平面表面球面曲面断面側面底面半面片面両面/(8ところ箇所部分ふし部位一部一部分局部局所細部断片一端いったん一斑いっぱん一節いっせつくだりパートセクション

おも【面】

顔。顔つき。容貌ようぼう
「いとうるはしき君が―」〈上田敏訳・海潮音・春の貢〉
表面。「川の―」
おもかげ。
「佐野山に打つや斧音をのとの遠かども寝もとか児ろが―に見えつる」〈・三四七三〉
[類語]表面おもて上面うわつら上側うわかわ上面じょうめん界面表層

つら【面/頰】

顔。顔つき。現代では、やや乱暴な言い方で、多くはいい意味では用いない。「どの―下げて来た」「ちょっと―を貸せ」
物の表面。「うわっ―」
ほとり。あたり。
「曹司のしとみの―に立ちより給へりけるも」〈大和・八三〉
ほお。
「―いと赤うふくらかなる」〈能因本枕・六二〉
(「づら」の形で)名詞の下に付いて、…のような顔をしている、…のようなようすである意を表す。相手をさげすむ気持ちを込めて用いる。「ばか―」「紳士―」
[類語]顔面めんフェースおもて

おも‐て【面】

《「おも(面)」に、方向・方面を表す「て」の付いたもの。正面のほう、の意》
顔面。顔。「を赤らめる」「を伏せる」
仮面。めん。主として能・狂言に用いるものにいう。
物の表面。外面。「池の
面目。体面。
「いづこを―にかはまたも見え奉らむ」〈・賢木〉
[類語]顔面めんつらフェース

めん【面】[書名]

富田常雄の小説。昭和23年(1948)発表。翌年、「刺青しせい」とあわせ第21回直木賞受賞。

もて【面】

おもて」の音変化。
「あが―の忘れもしだは筑波嶺を振りさけ見つつ妹はしぬはね」〈・四三六七〉

も【面】

《「おも(面)」の音変化》おもて。表面。「
つくばねのこの―かの―に影はあれど君がみかげにます影はなし」〈古今・東歌〉

づら【面/頰】

つら(面)5」に同じ。「あほう―」「馬―」

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改訂新版 世界大百科事典 「面」の意味・わかりやすい解説

面 (めん)

朝鮮で郡の下,(洞)の上の地方行政区画。日本の村にあたる行政団体。通常,数個~20個の里で構成される。李朝初期に郡を東西南北4面に分けたことが〈面〉という名称の始めとみられるが,行政区画となったのは16世紀と推定される。平安道,黄海道では〈坊〉,咸鏡道では〈社〉と呼ばれた。李朝時代の面は政府の命令伝達,徴税事務などの単位で,行政村としての性格が強い。面の役員には郷任と総称される風憲,約正,都尊位,勧農官などがあり,両班(ヤンバン)が就任して住民を支配した。これらは1894年の甲午改革で廃止され,執綱,書記,下有司などが新設された。面の数は日韓併合(1910)時で全国に4322あったが,1914年には2518に統廃合された。日本の植民地下の17年,判任官の面長がおかれ,面は地方行政の最下級機関となった。大韓民国では現在も面制をしいているが,朝鮮民主主義人民共和国では54年に面を廃止し,その業務を里に移管した。
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面 (めん)

(1)surface 平面,球面,円錐面,回転面などのように,二次元的広がりをもった図形に面ということばが与えられているが,通常の数学では,面そのものは先験的観念として一般的に定義されずに用いられている。歴史的にも同様で,19世紀後半までその完全な定義を追求するということはなかった。ユークリッドは定義として〈面は長さと幅だけをもったものである〉〈面の端は線である〉と述べているが,これも一応の説明にすぎない。現代の厳密な数学では,面はまた(平面も含めて)曲面と呼ばれ,解析的に定義されるのがふつうであるが,二次元多様体を指す場合も多い。

(2)face 多面体を構成している各多角形をその多面体の面という。二面角や多面角の面も同様の意味をもつ。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「面」の意味・わかりやすい解説


めん
plane

絵画用語。絵画を構成する一要素。絵画では二次元的平面の上に三次元的立体や奥行が表現されるので,描かれた面は量感や空間の深さを暗示する。したがって光や色の効果がそれ自体空間や量の表現を果すかぎり,明,暗の面や色面が絵画の重要な要素となる。セザンヌが,自然は球と円錐,円筒から成るといって自然の背後にある面の構成を単純な立体面に分割し,それを受けてピカソ,ブラックらの立体派が自然や人間を基本的幾何学的な形態に還元した。事物の再現を拒否する近代絵画では色彩の相互関係としての色価,あるいは色面の処理によって空間の構成を試みている。一定のまとまりをもった彫刻の表面にも面 (プラン) という言葉が用いられることがある。


めん
myǒn

朝鮮,朝鮮王朝 (李朝) 期における行政区画の名称。府,郡,県の下に属し,その下に里,洞がある。ほぼ日本の町,村に該当する。本来,面は里とともに自治的組織であり,面長が郡守から任命されて納税事務,政令伝達,小訴訟,風俗の匡正などを行なった。しかし次第に土豪による農民収奪の機関と化したので,17世紀末面長にはヤンバン (両班)の有識者をあてるようにし,高宗 28 (1891) 年面に関する規定を定めて自治的機能の制度化をはかった。なお面の存在は日本統治下においても存続した。また面は北朝鮮方面では古く社と称した。


めん

仮面」のページをご覧ください。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「面」の意味・わかりやすい解説


めん

仮面

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【仮面】より


[仮面の出現]
 現代人はさまざまな日常生活の状況に応じて〈仮面=人格〉を使い分けるという比喩的な意味で〈仮面〉ということばがよく用いられる。この〈人格〉の語源ペルソナも,エトルリア地方の死者にかぶせるマスクの呼名に由来するといわれる。…

【能面】より

…能楽に用いられる仮面(面(おもて))をいうが,その先行芸能である猿楽田楽に用いられた仮面をも含むのが普通である。たとえば翁舞に用いられた翁(おきな)面,三番叟(さんばそう),父尉(ちちのじよう),延命冠者(えんめいかじや)は鎌倉時代にその形制を確立して,そのまま能面に継承された。…

【村】より


[むらの景観]
 その成立事情により,このような相違があるため,集落の景観に大きな差があることはいうまでもないが,それにもかかわらず,〈むら〉の自治的な団体意識の現れ方には,共通したものがみられるので,ここでは集村に重点を置きつつ,現在でも認められる村落の姿を概観することとしよう。 まず村外へ通ずる主要道路が交わるような〈むら〉の中央には,多くは石畳を敷いた広場があり,その近傍に洗礼教会や村の会所,広場に面して居酒屋めいたレストラン兼宿屋や雑貨屋などがあって,そこが村びと全体の社交の場となっている。また近世初頭までは,村の鍛冶屋や靴屋があり,村はずれには粉挽きのための水車や風車を伴うのが普通であった。…

【里】より

…現在のところ里制の確実な実施は天武朝(672‐686)にさかのぼるが,さらに古く649‐664年(大化5‐天智3)のものとされる木簡にも〈五十戸〉の記載をもつものがある。一方,令制では高麗(こま)尺5尺を1歩とし,300歩を1里とする度地法が行われ,さらに条里制地割における360歩方画の土地(面積36町)も里と称された。【鎌田 元一】
[朝鮮]
 最下級の地方行政区画。…

【隣保制】より

…李朝政府は1485年に五家作統法を実施したが,これは5戸を1統として統首を置く制度であった。ソウル以外の地方では5統を1里として里正が置かれ(),数里を合わせて面とし,面には勧農官が置かれた。ソウルには面に相当するものとして坊があり,管領が置かれた。…

※「面」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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