電離説(読み)でんりせつ(英語表記)ionization theory

改訂新版 世界大百科事典 「電離説」の意味・わかりやすい解説

電離説 (でんりせつ)
ionization theory

電解質とよばれる物質の溶液は,電気を導く性質をもっているばかりでなく,蒸気圧や浸透圧などの熱力学的な性質の面でも,ショ糖などで代表される非電解質の溶液とは異なる挙動を示す。電解質と非電解質との相違を説明するためにS.A.アレニウスが提出した理論がアレニウスの電離説である。これより先にM.ファラデーは,電解質溶液に電場を加えると,電解質がイオンに分かれて電気を導くと考えた。これに対してアレニウスの理論では,溶液中の電解質はつねにある割合陽イオンと陰イオンとに解離しており,未解離の中性分子とイオンとの間には平衡が成立しているものと仮定する。たとえば,塩化ナトリウムNaCl酢酸CH3COOHの溶液では,それぞれ次のような平衡が考えられる。

 NaCl⇄Na⁺+Cl⁻

 CH3COOH⇄H⁺+CH3COO⁻

これらのイオン解離の現象が〈質量作用の法則〉に従うものとすると,2個のイオンに解離する電解質の解離平衡の条件が次式で与えられる。

 α2c/(1-α)=K

ここで,cは電解質の濃度(解離したものと未解離のものとの和),αはイオンに解離した割合を示す電離度,K電離定数(または解離定数)とよばれる平衡定数で,近似的には濃度には無関係な定数である。酢酸のような弱電解質の場合には以上の関係がよく成立するが,塩化ナトリウムのような強電解質では,上式による電離定数の値が一定にならず,質量作用の法則からのずれが著しい。すなわち,強電解質溶液の性質は,アレニウスの電離平衡の理論では説明することができない(これを強電解質の異常という)。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の電離説の言及

【アレニウス】より

…スウェーデンの物理化学者。電解質溶液の電離説を提唱し,F.W.オストワルト,J.H.ファント・ホフらとともに物理化学の建設に主導的な役割を果たした。これらの業績により,1903年ノーベル化学賞を受けた。…

※「電離説」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android