電荷移動重合(読み)デンカイドウジュウゴウ

化学辞典 第2版 「電荷移動重合」の解説

電荷移動重合
デンカイドウジュウゴウ
charge-transfer polymerization

CT重合ともいう.広義には,電荷移動現象が関連している重合反応をいう.狭義には,単量体Mと電子受容体Aとの電荷移動錯体MAが溶媒和して生じる溶媒和イオン対,または溶媒和したフリーカチオンラジカルに単量体が付加して開始される重合反応をいう.1955年,Badische Anilin社の研究者が,N-ビニルカルバゾールを気相の塩素と接触させると暗緑色となり重合が開始し,熱重合によって得られる重合体と同一の構造を有する重合体が得られることを見いだし,この機構によるものとした.電荷移動重合が行われる単量体としては,N-ビニルカルバゾール,N-ビニルインドール,N-ビニルピロール,N-ビニルフェノチアジン,p-アミノスチレン,p-ジメチルアミノスチレンなどで,その数は比較的少ない.電荷移動重合を可能にする単量体の構造要因としては,
(1)イオン化電位が低いこと,
(2)ビニル基と共役している非共有電子対をもつNまたはO原子を有すること,
(3)ビニル基のβ炭素の電子密度がα炭素より高いこと,
などが考えられる.一般に,電荷移動重合では酸素添加効果は顕著ではなく,アニリントリメチルアミン,第四級アンモニウム塩などの添加によって重合が抑制され,また塩基性溶媒では重合しない.重合速度は溶媒の極性が大きいほど大きい.重合の開始機構に関する定説はまだないが,生成過程カチオン重合と類似しているといえよう.一方,1930年にT. Wagner-Jaureggはスチルベン無水マレイン酸から樹脂状物質を得ている.その後,共重合に関する研究が多数試みられ,いくつかの系で単量体の仕込み比にかかわらず,ほぼ1:1の単量体組成比の共重合体が得られる系が見いだされている.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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