電磁気学(読み)でんじきがく(英語表記)electromagnetics

精選版 日本国語大辞典 「電磁気学」の意味・読み・例文・類語

でんじき‐がく【電磁気学】

〘名〙 電気現象、磁気的現象、およびそれらの相互作用を研究する物理学の一部門。〔工学字彙(1886)〕

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デジタル大辞泉 「電磁気学」の意味・読み・例文・類語

でんじき‐がく【電磁気学】

電気的、磁気的現象や、それらの相互作用を研究する物理学の一部門。

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改訂新版 世界大百科事典 「電磁気学」の意味・わかりやすい解説

電磁気学 (でんじきがく)
electromagnetics

物理学の一分野で,電気磁気現象を対象とする。力学とともに古典物理学の中心的位置を占める。1860年代にJ.C.マクスウェルにより完成された。電磁気学の中心問題は,電荷や電流が空間に分布しているとき,それらの間にいかなる力が働くかということであるが,それを記述するのに,近接作用の観点から,電場および磁場概念を用いるところに電磁気学の大きな特徴がある。ニュートン万有引力の法則では,離れた場所にある二つの物体の間で力が直接働くという遠隔作用の観点がとられる。それに対し,力は直接接触している物の間にだけ働くという,いわば素朴な見方が近接作用の観点である。ニュートン力学は物理学のすべての分野の規範であったから,19世紀前半までの電磁気学でも遠隔作用の観点がとられていた。近接作用を電磁気学にもちこんだのはM.ファラデーであり,それにみごとな数学的定式化を与えたのがマクスウェルである。近接作用の観点から電磁気学の中心問題を述べれば,(1)電荷や電流は周囲の空間にいかなる電場,磁場をつくるか,(2)電場,磁場は電荷や電流にいかなる力を及ぼすかということである。

まず上の(2)の答えは,ローレンツ力により与えられる。ある場所の電場をE,磁束密度をBとすると,そこに静止している電荷qの粒子には力qEが働く。粒子が速度vで動いているときには,上の電気的な力のほかにvおよびBのどちらとも直交する磁気的な力qBが働く。ここでv×BはベクトルvとBベクトル積を意味する。上の二つの力をまとめてFqE+v×B)と表し,これをローレンツ力と呼ぶ。実は電場Eと磁束密度Bの定義自身が上記の力の表式によって与えられるのであるが,電荷に働く力がつねに二つのベクトル場(EB)によって上のように表されることは,実験から得られた経験法則である。電流は電荷の運動の集りであるから,電流が磁場から受ける力は上のローレンツ力から導かれる。

前述の(1)に答えるのがマクスウェルの方程式である。これは電場,磁場の時間的および空間的変化を,電荷と電流の分布から定める式で,それまでに知られていた電磁気学の法則をマクスウェルが集大成し,一般化したものである。すなわち,静電場に対するクーロンの法則,静磁場に対するビオ=サバールの法則(あるいはアンペールの法則),磁場が時間変化するときの電磁誘導の法則,電場が時間変化するときの変位電流の法則が,マクスウェルの方程式の中に含まれている。マクスウェル方程式は時間および空間座標についての偏微分方程式であり,その解として,電場,磁場が波,すなわち電磁波として伝搬する可能性を示したことが最大の成果である。この予言は1888年H.R.ヘルツにより実証された。電磁波では,電場,磁場とともにエネルギーと運動量が空間を伝搬する。これにより,電場,磁場は単に現象を記述するための便宜的な概念ではなく,物理的な実在であることが明らかになった。
マクスウェルの方程式

以上では,真空中に電荷や電流が分布しているときにつくられる電場,磁場を問題にした。いわば真空中の電磁気学である。それに対し,気体,液体,固体などの物質中の電場,磁場を求めることも,応用上重要である。物質は,電気的性質に着目するとき誘電体(絶縁体)と導体に大別され,磁気的性質に着目するとき反磁性体常磁性体,強磁性体に大別される。ファラデーとマクスウェルはこれらの物質中の電磁場を現象論的に扱ったが,本来物質はイオンや電子などの電荷,電流の集りであるから,物質中の電場,磁場が満たす法則は,真空中のマクスウェルの方程式から導き出せるはずである。それを実際に示したのがローレンツの電子論(1908)である。マクスウェルの方程式は,ニュートンの方程式と並ぶ古典物理学全体の基礎法則である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「電磁気学」の意味・わかりやすい解説

電磁気学
でんじきがく
electromagnetism

電気現象、磁気現象に関する諸法則の体系を電磁気学という。光学はこの体系に含まれる。

 電磁気学の歴史は古く、その現象の発見は古代にさかのぼることができる。電気現象は、摩擦したこはくが糸屑(いとくず)などを吸い付けることとして、一方、磁気現象は、磁石が鉄片を吸い付けたり、南北をさしたりすることとして、認識されていた。18世紀末、帯電体間の力、磁極間の力に関するクーロンの法則が発見された。しかし、当時は、電気現象と磁気現象とはまったく別の現象だと考えられていたし、光学も独自の道を歩んでいた。また万有引力に対する当時主流だった考え方の影響で、電磁的な相互作用も遠隔作用であると考えられていた。1799年ボルタによって電池が発明されて電流が容易に得られるようになり、1820年にはエルステッドが電流の磁気作用を発見した。続いて1831年ファラデーが磁気から電流が得られること、すなわち電磁誘導を発見し、ここに至って電気学と磁気学とが統一への道を歩み出した。またファラデーは、電気的および磁気的相互作用の概念として、当時主流だった遠隔作用にかわって近接作用を考え出した。マクスウェルの方程式は、ファラデーの近接作用の考えを数学的に表現したものということができる。そして1864年マクスウェルによって電磁場の基礎方程式が提出され、この統一がなされた。この方程式の波動解が光の性質をすべて説明することもまもなくわかり、光学も含めて、電磁気学の体系が誕生した。しかしマクスウェルの方程式だけでは電磁気学の諸法則のすべてを導くことはできない。物質中の電磁気現象には、量子効果と統計性が深くかかわってくるし、真空中の電磁場の諸法則のなかでさえ、その導出において、かならずしも自明とはいえない仮定が用いられている場合がある。また、一つの電荷が自分自身のつくる電磁場と相互作用する効果は説明されていない。

 その後、運動物体中の電磁場に関する研究から特殊相対論が生まれた。また物質と電磁場との相互作用の研究から量子論が生まれた。さらに応用分野として、電気光学、電子工学、エレクトロニクスなどが生まれた。今日、電磁気学は、力学とともに、自然科学すべての基礎をなしている。電磁気学の発展と応用は人類の文明史上にもっとも画期的な進歩をもたらした。

 なお、時間変化する電磁場を取り扱う場合には、電磁気学はとくに電気力学ともよばれる。

[安岡弘志]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「電磁気学」の意味・わかりやすい解説

電磁気学
でんじきがく
electromagnetics

電気および磁気に関する現象を扱う物理学の部門。電荷と磁荷とが相対的に静止しているときには互いにまったく影響を及ぼし合わないので電気現象と磁気現象とはまったく無関係と考えられていた。しかし 1820年 H.C.エルステッドは電流がそばに置かれた磁針に力を及ぼす作用,つまり電流の磁気作用を発見し,それ以来,電気と磁気とは互いに関連して研究されるようになった。初期には電荷または磁荷の間に働く力に関するクーロンの法則に基づいた遠隔作用が考えられたが,M.ファラデーは場の考えに基づいた近接作用を提唱し,磁場が変化すると電場が誘起される電磁誘導の現象を発見した。 46年 J.C.マクスウェルは場の考えをマクスウェルの方程式として定式化し,電磁気学を完成,これにより光学も電磁気学の一部門となった。運動物体に対する電気力学の研究から特殊相対性理論が誕生した。

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百科事典マイペディア 「電磁気学」の意味・わかりやすい解説

電磁気学【でんじきがく】

電気・磁気現象全般を研究する物理学の基礎部門。初め電気学と磁気学は別の学問だったが,電流の磁気作用(エルステッド,1820年)と電磁誘導(ファラデー,1831年)の発見から両者が統合され,ファラデーの場の考えをマクスウェルが数式化して電磁気学の体系を確立した。→電気力学
→関連項目電気電磁流体力学

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