化学辞典 第2版 「電子回折」の解説
電子回折
デンシカイセツ
electron diffraction
電子線回折ともいう.電子線を物質に入射させると,構成原子の核と電子雲とによるポテンシャルによって散乱を起こし,この散乱波が干渉して回折現象を示す.これを電子(線)回折という.電子線と物質は,X線の場合に比べて散乱,吸収などの相互作用が大きいので,電子回折はとくに気体分子の構造解析(H. MarkおよびR. Wierl,1930年~),薄膜,固体表面などの研究に利用される.最近では結晶構造解析も行われている.普通に利用される電子線(50~200 keV)では,主として原子核によって散乱され,核外電子は核を部分的にしゃへいしていることになる.一方,低エネルギーの電子線(数十~数百 eV)による回折(LEED(リード)といわれる)は,最初C.J. DavissonとL.H. Germer(1927年)が電子の波動性を証明した実験以後ほとんど利用されなかったが,最近,固体表面への気体の吸着現象,表面不純物の同定の研究などに応用されている.単結晶による電子回折において,結晶内で一度非弾性散乱された電子がさらに同じ結晶内で弾性散乱をうけたとき,干渉効果のため菊池像または菊池線といわれる回折像が生じることがある.1928年,菊池正士の発見した現象である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報