電子不足化合物(読み)でんしふそくかごうぶつ(英語表記)electron deficient compound

改訂新版 世界大百科事典 「電子不足化合物」の意味・わかりやすい解説

電子不足化合物 (でんしふそくかごうぶつ)
electron deficient compound

共有性化合物では,一つの結合すなわち結合している原子間に,一つ(あるいはそれ以上)の電子対を割り当てることができるのが普通である。これに対し,そのようにするのには電子が不足している化合物があるが,これらを一般に電子不足化合物といっている。たとえばジボランB2H6およびヘキサメチル二アルミニウムAl2(CH36のような化合物では次のような骨格をもっており,隣り合った原子の組合せはいずれも八つあるのに,結合に使われる電子対の数は六つしかない。

B2H6では六つのHから一つずつ,一つのBから原子価電子3個ずつで計12個,すなわち6電子対,Al2(CH36では同様にCH3のCから一つずつ,Alから三つずつで6電子対である。B2H6では両端の四つのB-Hに電子対を割り当てると,残りの中央のB…H…Bにそれぞれ2個の電子を割り当てねばならなくなる。このような場合を三中心二電子結合といっている。Al2(CH36の場合でも同様である。電子不足化合物はこのような多中心結合を含む化合物である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「電子不足化合物」の意味・わかりやすい解説

電子不足化合物
でんしふそくかごうぶつ
electron-deficient compound

共有結合にあずかる価電子殻が完全には電子で満たされていない状態で生成する化合物。典型元素(主要族元素)における共有結合では一般にnsnp軌道に合計8個の価電子が収容される電子配置が安定となるが、13族元素の水素化物、ハロゲン化物では価電子が2個不足する状態となる。ホウ素のハロゲン化物BF3、BCl3、BBr3がその例で、これらはルイス酸となり、たとえばBF3の場合、ルイス塩基となるF-を受容して、価電子が8個となるBF4-になりやすい。

 下図のジボランB2H6や塩化アルミニウム二量体Al2Cl6では、各共有結合原子間に完全には電子対が生成せず、ホウ素およびアルミニウムに割り当てられる1個の価電子が2個の水素および塩素原子(合計3個)に共有される三中心結合が生成している。


[岩本振武]

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