電力システム改革(読み)でんりょくシステムかいかく

百科事典マイペディア 「電力システム改革」の意味・わかりやすい解説

電力システム改革【でんりょくシステムかいかく】

日本における電力制度のありかたを抜本的に見直す改革東日本大震災福島第一原発事故をうけて,野田佳彦内閣は電力制度のありかたを本格的に再検討することを明らかにした。2011年12月枝野経産大臣が論点を整理,公表した。経産省諮問機関である総合エネルギー調査会の総合部会に電力システム改革専門委員会を設置することを指示,本格的な議論を開始した。委員長は伊藤元重東京大学教授。2013年2月同委員会は報告書を第二次安倍晋三内閣の茂木経産相に提出。茂木経産相は改革について後退させるつもりはないと明言した。しかし,改革案は戦後の電力体制の根本的な再編を求めるものとなっており,既存の電力業界と強いつながりをもつ政権与党自民党から異論が出される可能性が高く,改革案が法改正に活かされるか早くも疑問が出されている。改革案の要点は以下のとおりである。(1)これまで一般電気事業者に認められてきた地域独占の制度を撤廃し,原則としてすべての者がすべての地域ですべての需要に応じ電気の供給を行うことを可能にする。一般電気事業者に課されているいわゆる供給義務は撤廃し,小売り,送配電発電といった事業類型ごとに,新たにライセンスを付与する制度を創設する。(2)総括原価方式の料金規制を廃止することにより,市場原理の中で料金が決定され,料金収入を見越して必要な投資や調達を行うという仕組みに転換する。料金規制は原則として不要となる。(3)供給義務と料金規制の撤廃で,需要家がどの小売事業者からも電力の供給が受けられない事態や,電気料金が不当に高額になるといった事態が生じることはあってはならない。小売事業者の破綻撤退,契約交渉の不調といった場合でも,電気の供給を受けられない事態が生じないようにするため,最終保障サービスの制度を創設する。エリアの送配電事業者を担い手とする。離島でも他の地域と遜色ない料金水準で電力供給がなされる仕組み(ユニバーサルサービス)を設ける必要がある。(4)卸電力市場の活用により,最も効率的で価格競争力のある電源から順番に使用するという発電の最適化を,事業者やエリアの枠を超えて実現できる。売り先が多様化することで発電部門の競争促進が生じる。卸規制は撤廃する。電力先物取引を実現する法整備を行う。(5)全国規模での需給調整機能の強化や,広域的な系統計画の必要性といった我が国電力システムの課題に対応するためには,全国規模で広域的な運用を行う制度を,送電インフラの整備と併せて進めていく必要がある。強い情報収集権限・調整権限に基づいて,広域的な系統計画の策定や需給調整を行う,広域系統運用機関(仮称)を設立する。(6)法的分離は,送配電部門を別会社化するものであり,各事業部門の行為,会計,従業員等を子会社ごとに明確に区分することが可能である。送配電部門の独立性を容易に把握できる。機能分離は,送配電部門のうち,運用・指令の機能だけを別組織(広域系統運用機関の地方支部)に移すものであり,運用・指令と,それ以外の送配電業務の間での分離について,どこで線引きをするのかなど具体的方法がわかりにくい。(7)送配電部門の中立性の確保は,法的分離の方式を前提に作業を進める。送配電部門の独立性の明確さ等の観点を踏まえ,法的分離の方式で実施に向けた準備を進める。送配電部門の中立性・独立性を確保するためには,各事業者の行為を規制するルール(行為規制)が必要となる。情報の目的外利用の禁止,発電・小売業務との兼職の禁止などが必要になると考えられる。(8)需給を極力一致させる仕組みとして,ゲートクローズ(発電事業者らから系統運用者への需給計画の提出締め切り)の直前まで活用可能な1時間前市場を創設する。また改革案は今後の改革の進め方として次の3段階を設定している。第1段階(広域系統運用機関の設立)=速やかに運用機関の詳細設計の検討に着手し,2年後(2015年)をめどに設立する。第2段階(小売り分野への参入の全面自由化)=低圧託送制度などの検討を先行的に行った上で,3年後(2016年)をめどに小売り参入の全面自由化を行う。第3段階(法的分離による送配電部門の一層の中立化,料金規制の撤廃)=現時点では5〜7年後(2018〜2020年)をめどに法的分離を実施することが想定される。

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