日本大百科全書(ニッポニカ) 「雹」の意味・わかりやすい解説
雹
ひょう
積乱雲から降る大粒の氷。直径が5ミリメートルを超えるものをいい、それより小さいと氷あられに分類される。表面は滑らかな氷であるが、こぶができて凹凸になっていることもある。割ってみると、透明な部分と、白く不透明なところが交互に何層かに重なっている。あられあるいは凍った水滴が芯(しん)になってできる。雲の中の水滴がこれに衝突付着したとき、すぐに凍ると粒状の構造になるので気泡が多く、雪あられに似た白く不透明で密度が小さい層ができる。水滴が広がり水の膜になってから凍ると、透明な層になる。中間型で、スポンジ状の氷になることもある。付着する水滴の大きさや、温度、衝突の速度などが層のでき方に影響する。大きく成長するには、ある程度落下してから上昇気流にのって宙返りし、ふたたび上昇する。これを十分間くらい繰り返すと、かなりの大きさになる。ときには、いくつかくっつきあって、おもしろい形をつくる。大きさは、普通、直径で表現するが、大豆とか鶏卵などに例えて表現することもある。埼玉県下では、カボチャ大で重さ数キログラムもある雹が降った記録がある。径が小さかったり気温が高いと、落下中に溶けて大粒の雨になる。これは水雹(みずひょう)ともいわれる。平均の密度は0.9グラム毎立方センチメートル程度のものが多い。
落下速度は大きさによって異なる。小さいのは10メートル毎秒くらい、非常に大きいものは30メートル毎秒を超える。
降雹は、日本では晩春か初夏の午後に多い。よく、寒冷前線の近くで不安定な空気が強い上昇気流を引き起こし、発生した積乱雲の中で雹が形成される。しばしば雷を伴い、5、6分程度でやんだり、雨に変わったりする。幅が数キロメートルの帯のように狭い降雹域は、雹の道とよばれる。小さい雹でも農作物に被害を与えるが、大きいのは人畜を傷つけたり、建物などを壊す。直撃の降雹で人が死んだ例もある。雹を抑制するいろいろな方法がある。雹ができそうな雲に吸湿性凝結核になる種をまくと、雲の下部に多くの雨滴ができて、降水が始まる時間が早くなるので、雹ができにくい。また小さなロケットなどを使って雲の中にヨウ化銀の種をまき、小粒の雹を数多くつくってやると、地面に落下するまでにそれが溶けて、被害を軽減する。ただしいずれも、抑制効果についての評価はまちまちである。
[篠原武次]