零・翻(読み)こぼれる

精選版 日本国語大辞典 「零・翻」の意味・読み・例文・類語

こぼ・れる【零・翻】

〘自ラ下一〙 こぼ・る 〘自ラ下二〙
① 水などの液体が、たまっているところからあふれてしたたり落ちる。あふれ出る。
※伊勢物語(10C前)六二「涙のこぼるるに、目も見えず、物もいはれず」
狂言記・樋の酒(1730)「いや大盃ぢゃ〈略〉おふ、あるは。こぼれる、こほれる」
② 物があまって外へ出る。はみ出る。あふれ出る。
※枕(10C終)三一「物見のかへさに、乗りこぼれて」
③ 花や葉、砂など小さなものが落ち散る。
※後撰(951‐953頃)春上・二八「むめの花をればこぼれぬわが袖ににほひかうつせ家づとにせむ〈素性〉」
※尋常小学読本(1887)〈文部省〉四「たたみの上にこぼれたる米粒を見て」
④ 色があふれ出るように美しく照り映える。
※新撰万葉(893‐913)上「浅緑(あさみどり)野辺の霞はつつめども己保礼(コボレ)て匂ふ花桜かな」
⑤ 表情などがあざやかに外へ現われる。
源氏(1001‐14頃)紅葉賀「そひふし給へるさま、美しうらうたげなり、あい敬こぼるるやうにて」
ことばが、あふれるようになめらかに次々と出る。
滑稽本・田舎草紙(1804)二「イヤこれの茶売どのは、ソレハア口からこぼれるは」
近世上方語寛政の頃、京都祇園の花街のことば。芸妓色客何人も取る。〔滑稽本・戯男伊勢物語(1799)〕

こぼ・す【零・翻】

〘他サ五(四)〙
① ある物の上に液体や粒状のものを流し落とす。また、ひっくり返したりあふれさせたりして容器の中の液体や粒状のものを流れ出させたり落としたりする。
書紀(720)雄略一二年一〇月(前田本訓)「庭に顛仆(たふ)れて、擎げる所の饌(みけつもの)を覆(コボ)しつ」
※伊勢物語(10C前)八五「雪こぼすがごと降りて、ひねもすにやまず」
② 表情や態度にあふれさせ表わす。思わず笑顔などをみせる。
歌謡田植草紙(16C中‐後)晩哥二番「そのなわてにわ愛敬こほすな」
愚痴を言う。苦情を言う。ぼやく。
西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉一一「愚痴の一百(いっそく)五十ばかりもこぼしぬいて」
④ 連歌・俳諧で、定座(じょうざ)(=よむように定められた位置)よりもあとに月の句をよむ。月、花の句は定座によむことを原則としているが、月の句については定座より後に出すことも認められる。
※俳諧・三冊子(1702)白双紙「月の定座をこぼす事」

こぼし【零・翻】

〘名〙 (動詞「こぼす(零)」の連用形の名詞化)
① こぼすこと。
② (「みずこぼし(水翻)」の略) 茶道で用いる茶器の一種。茶席で湯水をこぼし入れる容器。建水。また一般に、湯水をこぼし入れる器。湯こぼし。〔南方録(17C後)〕
※ごりがん(1920)〈上司小剣〉三「注いだ茶をこぼしへあけて」

こぼれ【零・翻】

〘名〙 (動詞「こぼれる(零)」の連用形の名詞化) こぼれること。また、こぼれたもの。
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三「てれ隠しか、嬉しさの溢(コボ)れか当人に聞いてみねば、とんと分からず」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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