雑劇(読み)ざつげき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「雑劇」の意味・わかりやすい解説

雑劇
ざつげき

中国演劇名称。中国演劇史のなかで、雑劇と名のつくものはいくつかある。もっとも早い記録としては晩唐の文献にこの名が出てくるが、その詳細はわからない。その後、時代を追って宋(そう)雑劇、元(げん)雑劇があり、南方では南宋に入ってから温州(おんしゅう)雑劇が生まれ、下って明(みん)代中葉以降につくられたものに南北曲をあわせ用いた南雑劇がある。このうち、中国に初めて戯曲文学の開花をもたらしたのが一般には元曲(げんきょく)と称される元代の北曲雑劇で、雑劇といえば多くはこの元曲をさしていわれる。宋雑劇は諧謔(かいぎゃく)を主調とする短劇や歌舞、曲芸の類を総称するもので、南宋の文献に280種の演目が記録されている官本雑劇というのは、その宮廷での上演に供されたものをいうらしい。温州雑劇は永嘉(えいか)雑劇ともいい、温州(浙江(せっこう)省)で始まって宋朝南渡後に盛んになり、やがて都の臨安(りんあん)で流行して宋・元の南戯に発展したものである。

[傳田 章]

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百科事典マイペディア 「雑劇」の意味・わかりやすい解説

雑劇【ざつげき】

中国の古典劇。(1)〈参軍戯〉が進歩した宋代末期11―13世紀の軽演劇をさす。脚本が残存せず詳細は不明だが,未発達のものであったらしい。(2)一般には,13―14世紀の元代に作られた演劇(〈元曲〉)をいう。〈北曲〉とも。北方系の歌劇の〈院本〉を継承,〈諸宮調〉や北方歌曲の旋律を加え,優秀な脚本と俳優により演劇として完成琵琶を主楽器とする歌劇で4幕(折とよぶ)からなり,歌い手は主役1人。歌詞も台詞(せりふ)も口語,自由活発な表現力と清新な写実性を有する。作者は関漢卿馬致遠・鄭徳輝・白樸の四大家や《西廂記》などの作品が知られる。13世紀末から北京を中心に盛んに上演された。約300の脚本が現存。→戯文
→関連項目京劇元(王朝)パントマイム

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精選版 日本国語大辞典 「雑劇」の意味・読み・例文・類語

ざつ‐げき【雑劇】

〘名〙
① 中国の演劇形態の称。その内容は時代によって異なる。宋代では滑稽風刺劇を、元代では故事・伝説・人情・裁判・道釈などを内容とする歌劇を、明・清代では単に短編劇をいった。一般には、元雑劇(元曲)をさすことが多い。
※宝覚真空禅師録(1346)乾・山城州西山西禅寺語録「上戯棚雑劇、無一拳一踢一唱一拍」 〔宋史‐楽志〕
② 日本の演劇の中で、通俗的な演劇または演芸の類。
※滑稽本・風来六部集(1780)放屁論後編「口過する浪人者や、日待・月待に召るる雑劇(ザツゲキ)の芸者同様に心得たるぞ苦々し」

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デジタル大辞泉 「雑劇」の意味・読み・例文・類語

ざつ‐げき【雑劇】

中国、代に始まる演劇の形態の名。時代により、その内容が異なる。宋代では滑稽風刺劇、代では歌劇である元曲代では新形式の短編劇をいう。
日本で、狂言舞楽などに対し、通俗的な演劇・演芸。

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旺文社世界史事典 三訂版 「雑劇」の解説

雑劇
ざつげき

中国の古典演劇
北宋におこった雑劇は,金では院本と呼ばれ,元代に至り馬致遠 (ばちえん) らによって完成。元雑劇は元曲とも呼ばれる。この形式の演劇は,その後,明・清代まで続いた。

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世界大百科事典 第2版 「雑劇」の意味・わかりやすい解説

ざつげき【雑劇 Zá jù】

中国古典劇の形態名。ただし,この名称は〈雑〉字が示すように,中国の演劇が未成熟の段階にあったころから,演劇に類する諸種の芸能をさして用い,したがって,時代と地域によって実体を異にする。唐末の文献にみえるそれは未詳だが,11~13世紀ごろ宋朝の治下では,のちに〈院本〉と改称される風刺寸劇や,〈南戯(南曲)〉の源流とされる温州(浙江省永嘉)の地方劇などをこの名で呼んだ。しかし,13,14世紀ごろ元朝治下において本格的歌劇が画期的な戯曲文学を開花させて,文学史上に〈元曲〉とたたえられると,この形態がほとんど〈雑劇〉の名を独占するにいたる。

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普及版 字通 「雑劇」の読み・字形・画数・意味

【雑劇】ざつげき

戯曲。〔輟耕録、二十七、雑劇曲名〕官(はいくわん)(小説)廢して傳奇作(おこ)り、傳奇作りて戲曲繼ぐ。金季國初の樂府(がふ)は、宋詞、傳奇はほ宋の戲曲の變なり。世傳へて、之れを雜劇と謂ふ。

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世界大百科事典内の雑劇の言及

【音楽】より

…なお朝鮮半島にも宴饗楽が輸入され,〈タンアク〉(唐楽)の名で今日も行われている。雅楽 宋代になると民間の散楽や説唱などを母体として雑劇が生まれた。中国独特の戯曲音楽の成立で,これが俗楽の中心的な存在となり,後の元代の雑劇(元曲),明代の崑曲,そして清代の京劇へと展開した。…

【中国演劇】より

…主役の〈参軍〉と脇役の〈蒼鶻(そうこつ)〉の二つの役柄による,歌唱を伴う風刺まじりの滑稽問答といったたぐいのもので,古代の倡優による芸能の系統を引き,もっぱら宮廷内に行われて即興性の強いものだったらしい。この参軍戯の流れがのちに民間におよんでさらに成長した姿をみせたのが10世紀,宋代になって現れた〈雑劇〉であった。役柄も4人から6人ぐらいにふえ,北宋の首都の汴京(べんけい)(開封)あるいは南宋の首都臨安(杭州)では,人形劇や影絵芝居,また歌物語,講釈,落語,曲芸等々,さまざまな芸能とともに〈勾欄(こうらん)〉とよばれる演芸場で盛んに演じられた。…

※「雑劇」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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