(読み)カリ

デジタル大辞泉 「雁」の意味・読み・例文・類語

かり【×雁/×鴈】

[名]《鳴き声から》ガンの別名。 秋》「久しくて次なる―の鳴き渡る/汀女
[副]ガンの鳴き声を表す語。
「声に立てつつ―とのみ鳴く」〈後撰・秋下〉
[類語]がん真雁初雁はつかり帰雁落雁かりが音

がん【×雁/×鴈】

カモ目カモ科の鳥のうち、ハクチョウ類を除いた大形のものの総称。雌雄同色で、羽色は一般に地味な褐色。草食性。多くは北半球の北部で繁殖し、日本にはマガンヒシクイなどが冬鳥として渡来、湖・沼・湿地・水田などでみられる。V字形や横1列の編隊を組んで飛ぶ。かり。かたいとどり。 秋》
[補説]書名別項。→
[類語]かり真雁初雁はつかり帰雁落雁かりが音

がん【雁】[漢字項目]

人名用漢字] [音]ガン(漢) [訓]かり
鳥の名。ガン。「雁行帰雁孤雁落雁旅雁
手紙。便り。「雁書雁信
[補説]「鴈」は異体字
難読雁擬がんもど

がん【雁】[書名]

森鴎外の小説。明治44年~大正2年(1911~1913)発表。高利貸しめかけお玉と、大学生岡田との結ばれぬ淡い恋を描く。

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改訂新版 世界大百科事典 「雁」の意味・わかりやすい解説

雁 (がん)

森鷗外長編小説。1911年(明治44)から13年にかけて《スバル》に断続連載,15年に補筆して刊行無縁坂に囲われた高利貸の妾お玉は東大生の岡田と知りあってほのかな慕情をいだき,夢のような未来を空想する。しかし,今日こそは岡田を呼びとめてと思いつめた日,ふとした偶然から彼女の思いは通ぜず,岡田はドイツ留学のため日本を去ってゆく。岡田の友人,〈僕〉の回想形式で書かれ,鷗外自身の青春の思い出が生きる本郷界隈を舞台に,薄幸な美しい女の自我のめざめと挫折の内的ドラマを,均整のとれた文体で心理解析とともに描き,ロマンティックな詩情をただよわせている。岡田も〈僕〉も,鷗外の分身と見ていい。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「雁」の意味・わかりやすい解説


がん

森鴎外(おうがい)の長編小説。1911年(明治44)9月号から13年(大正2)5月号まで『スバル』に連載。15年5月籾山(もみやま)書店より刊行された。明治13年(1880)当時の東京・上野近辺の物語。高利貸し末造のめかけである美女お玉は、たまたま、飼い鳥を蛇の難から救ってもらった医科大学生岡田に恋し、1日、ひそかに彼を待ち受けるが、その日の岡田は友人と連れ立っていて、ついに声をかけることができず、そのまま岡田と縁が切れてしまったという話。岡田が投げた石に偶然に当たって死んだ不忍池(しのばずのいけ)の雁が、不運なお玉の象徴となっている。鴎外の小説のなかでは、もっとも小説らしい結構をもった作品で、哀感の漂う佳作である。

磯貝英夫

『『雁』(岩波文庫・角川文庫・講談社文庫・新潮文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「雁」の意味・わかりやすい解説


がん

森鴎外の長編小説。 1911~13年発表。貧窮の家に無自覚に成長したお玉は,高利貸末造の囲い者になる。湯島の無縁坂に面した小さな妾宅に住み,散歩の道すがら顔を合せる医科大学生岡田に,ほのかな恋心を覚えたが,その思いを打明けるおりもないままに,岡田はドイツ留学に旅立っていく。お玉の無垢で可憐な願いを踏みにじる偶然を通して人生の深淵をのぞかせている。岡田の友人である「僕」の回想という形式をとり,そこに一種の淡い哀愁を漂わせている点にも,この作品を味わい深いものにした技法が感じられる。

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百科事典マイペディア 「雁」の意味・わかりやすい解説

雁【がん】

森鴎外の小説。1911年―1913年《スバル》に連載,1915年刊。貧しく育った高利貸の妾(めかけ)お玉がふとしたことから大学生岡田にはかない慕情をいだくが,岡田をよびとめることはついに果たせず,岡田はドイツに留学していく。的確な心理の解析と明治初年の東京の風物のあざやかな描写によって,鴎外文学の傑作とされる。

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デジタル大辞泉プラス 「雁」の解説

1953年公開の日本映画。監督:豊田四郎、原作:森鴎外、脚色:成澤昌茂、撮影:三浦光雄、美術:伊藤熹朔、木村威夫。出演:高峰秀子、田中栄三、小田切みき、浜路真千子、東野英治郎、浦辺粂子、芥川比呂志ほか。第4回ブルーリボン賞撮影賞、第8回毎日映画コンクール美術賞受賞。

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動植物名よみかた辞典 普及版 「雁」の解説

雁 (ガン・カリ)

動物。ガンカモ科のガン類の総称

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【豊田四郎】より

… 以後,林芙美子原作《泣虫小僧》(1938),阿部知二原作《冬の宿》(1938),伊藤永之介原作《鶯》(1938)など一連の〈文芸映画〉のなかで,暗い時代の日本の庶民像を描き出していった。愛国婦人会を創設した明治の女傑の半生を描いた伝記映画《奥村五百子》(1940),ハンセン病療養所で献身する若い女医の実話をリリカルなヒューマニズムで描いた《小島の春》(1940)などをへて,戦後も丹羽文雄原作《女の四季》(1950),森鷗外原作《雁》(1953),有島武郎原作《或る女》(1954),室生犀星原作《麦笛》(1955),織田作之助原作《夫婦善哉》(1955),谷崎潤一郎原作《猫と庄造と二人のをんな》(1956),川端康成原作《雪国》(1957),志賀直哉原作《暗夜行路》(1959),永井荷風原作《濹東綺譚》(1960)と〈文芸映画〉の系列がある。 女を多く描き,フェミニストともいわれたが,そのフェミニズムは,女の美しさよりも無知や貪欲さを凝視する目のきびしさと執念に特色があるといわれる。…

※「雁」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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