陸戦(読み)りくせん(英語表記)land battle

精選版 日本国語大辞典 「陸戦」の意味・読み・例文・類語

りく‐せん【陸戦】

〘名〙 陸上での戦闘。
西洋紀聞(1725頃)下「陸戦はトルカに敵するものあらず」 〔漢書‐厳助伝〕

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デジタル大辞泉 「陸戦」の意味・読み・例文・類語

りく‐せん【陸戦】

陸上での戦闘。陸上戦。

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改訂新版 世界大百科事典 「陸戦」の意味・わかりやすい解説

陸戦 (りくせん)
land battle

陸上戦闘を略称したもので,海戦,空戦等と対比して使用される。戦争が総合・立体的となり,陸上の戦闘でも航空優勢が大きい役割を果たし,また,補給路の防衛に海軍力が欠かせない場合があるなど,戦争の様相が複雑になってきたので,陸・海・空戦は,過去の戦争ほどはっきりした区別はなくなってきた。それでも,戦争の最も一般的な形態は,依然として陸戦が中心となっている。

 陸戦の一般的な型は,地勢,政治情勢,兵器の開発・進歩等によって変化しているが,〈方陣〉による密集隊形での戦闘は,火器の進歩・発達によって,アメリカの独立戦争(1775-83)ころから散開隊形をとり,第2次大戦では,広く分散した〈面〉または〈立体〉の形で戦われるようになった。まず交戦両国は,戦場の近くに軍を集中し,機動(行軍)によって戦場に向かい,戦闘(攻撃または防御等),追撃・退却するという一連の経過をたどるのが通常の経過であった。しかし,飛行機ミサイルの出現,火砲の射程の増大,部隊の機動力の迅速化等は,戦争を,必ずしもこの経過をとらず,駐とん状態から一挙に戦闘に突入するようなことがあり,戦闘も,全縦深同時攻撃,敵の後方部隊を〈深く攻撃deep attack〉する等,まったく新しい様相を呈するにいたっている。

海・空戦と比較して,陸戦には次のような特色がある。

(1)まず第1は,陸戦が政治と密接に関連することである。戦争とは一般に〈他の手段をもってする政治の継続〉(K.P.G. クラウゼウィツ)であるが,なかでも陸戦は,社会の体制や,住民と切り離せない状態で戦われるから,政治との関係がより密接となってくる。

(2)次は陸戦の〈継続性〉と〈靱強性〉である。陸戦一般の経過は集中・機動・戦闘・追撃(退却)を一つのサイクルとするが,これをもって作戦を終了するのではなく,目的を達成(たとえば敵国の首都を占領する)するまで,このサイクルを繰り返す。一つのサイクルの期間は数日から数週間に及び,第1次大戦のような陣地戦では数ヵ月から数年にわたって継続した。この期間,彼我双方は,それぞれほぼ同じ部隊が,活発・不活発の差はあっても,絶えず戦闘行動を継続しているのが陸戦の特色である。これは海・空戦のように,短期間の戦闘ののち戦場から離脱し,次の新たな作戦への移行を準備し得るのとは著しく性格を異にしている。

 また,容易にはその戦闘力を完全に奪い取ることができないのも陸戦の特色で,これを〈靱強性がある〉という。海・空戦では,艦艇を破壊し,または航空機を撃墜することによって,その戦闘力をなくすることができるが,陸戦では個々の兵員が戦闘力となっているために,これをことごとく殲滅(せんめつ)することは容易ではない。第2次大戦における硫黄島作戦では,アメリカ軍の74日間にわたる爆撃と,上陸前3日間の事前砲爆撃で2万tを超える弾量を投下したが,日本軍の戦死者は95名(守備部隊の総兵力は約2万1000名)にすぎず,アメリカ軍が上陸後同島を完全に占領するまでに約40日を必要とした。また沖縄作戦では,アメリカ軍の沖縄本島上陸後日本軍の組織的な抵抗が終結するまでに約3ヵ月を要し,残存部隊の抵抗はその後終戦まで続いた。土地を占領し,または確保するためには陸戦によらなくてはならないとされているのも,この陸戦の〈継続性〉〈靱強性〉による。

(3)地形・気象との関係。陸上を戦闘地域とする陸戦では,地形や気象との関係がきわめて深く,これを巧みに利用することによって戦力を著しく増大し,反対に利用を誤れば不利を招く。気象については海・空戦でもほぼ同じような影響を受けるが,陸戦の場合は,より局地的な微妙さがある。たとえば,谷地の特異な風向きは煙の使用を制約し,黎明(れいめい)に発生したもや(靄)は,早朝の攻撃を容易にするなどである。

 地形は陸戦と密接不離のものである。地形を利用し,その助けによって戦力の劣勢を補う〈防御〉という概念があるのは陸戦だけの特色であるが,攻撃作戦においても地形の特性を把握しないで行動することはできない。

(4)数の優越が,勝敗の決定的な要因とはならないことがあるのも陸戦の特色である。海・空戦では数の優越は2乗で戦力に影響するといわれる。たとえば,同じ程度の性能の戦闘機が交戦すれば,数が2倍あれば戦力は22すなわち4倍となる。陸戦においてもこの理論はまったく無関係ではないが,地形・気象の利用,指揮の巧拙,精神的な感作等種々の要素が複雑にからんで,数の優越が,それほど鋭敏に戦力に関係しないことがある。たとえば第1次大戦のタンネンベルクの戦では数の劣勢なドイツ軍がロシア軍を一方的に殲滅している。

(5)策源地との距離。陸戦では,策源地(作戦行動のための兵站(へいたん)基地)から前線までは,一つの組織体であり,断絶させることができない。このため,その距離が長大になると(これを,兵站線が延びるという),前線の戦力が弱化する。その数字をそのまま現代に適用できないが,第2次大戦までは,道路を自動車輸送する地域では,兵站線の長さが数百kmで前線の戦力が半減し,鉄道を利用し得るときは,この距離を3~4倍に延ばすことができるといわれた。

陸戦において,作戦を有利に導くため,各国は,その国民性や軍の歴史,戦闘経験などに基づいて,陸戦の基本原則を定めている。そのおもなものは,国によって多少異なるところがあるが,一般的には次のようなものがあげられる。(1)目標の原則 戦争の目的を達成するために,最も適切な目標を定め,その目標の追求に全力を結集する。(2)主動の原則 絶えず主動的に作戦をすすめ,戦勢を支配する。(3)集中の原則 有形・無形の各種戦闘力を総合して,敵に勝る戦力を緊要な時期と場所に集中発揮する。このためC3I(指揮・統制・通信および情報)の重要性が強調される。(4)経済の原則 全戦闘力を有効に活用し,遊兵(戦闘にまったく関係のない状態に置かれる部隊)をつくらない。(5)統一の原則 各種の部隊を一つの目標に向けて協同戦闘させる。(6)機動の原則 所望の時機と場所に,敵に勝る機動力を発揮して,戦力を集中する。(7)奇襲の原則 敵の意表に出て,対応のいとまを与えない。(8)簡明の原則 作戦計画を簡明にして,錯誤と混乱を起こさない。(9)保全の原則 適切な情報と警戒,対情報手段によって,秘密を保ち,行動の自由を確保する。

 以上のほか,陸戦では,小部隊や,時として個人が,一時的に主力と離れて行動することがあるので,精神的な要素,とくに責任観念・積極性等が重視され,また,各級指揮官の適切な独断も欠かせないとされている。

戦闘には,全面的な核戦争を含み,核が使用される戦闘と,核が使用されない在来型の戦闘(通常戦または非核戦と呼ぶ)がある。以下は,通常戦について一般的な形態を述べる。

(1)攻撃 攻撃戦闘には,遭遇(そうぐう)戦と陣地攻撃とがある。遭遇戦は,彼我双方がともに機動(行軍)態勢から直接戦闘に突入するもので,不意に遭遇したとき,または双方がともに攻勢に出たとき等に生起する。遭遇戦の要訣(ようけつ)は先制にある。敵に先んじて情報を集め,戦闘準備を整え,戦場を支配するような緊要な地形があればこれを占領する等,その戦闘指導は拙速が尊ばれる。これに対して,陣地攻撃は,相手側の準備した陣地を攻撃する戦闘であるから,準備を周到にし,強大な火力を敵の要点(弱点)に集中して,総合力でこれを撃破する。遭遇戦,陣地攻撃を通じて,攻撃機動の方式には迂回,包囲および突破がある。

 迂回は敵の準備した地域を避けてその後方に進出し,敵の準備しない地域においてこれを撃滅しようとする方式で,味方の迂回行動が,敵をしてその準備した地域を放棄することを余儀なくさせるものでなくてはならない。包囲は,敵を正面に拘束し,主力をもって敵の側背を攻撃して,これを戦場に捕捉(ほそく)・撃滅する方式である。包囲には一翼包囲,両翼包囲,全周包囲等の区別があるが,包囲翼が多くなるほど,多くの兵力を必要とする。近代戦では,空軍力を加えて立体包囲することが可能となった。突破は,主力をもって敵部隊を正面から突破・分断し,分断した敵を各個に撃破する方式で,圧倒的に優勢な戦力を,要点(弱点)に集中して突破する。攻撃機動で,どの方式を採用するかは,任務,地形,気象,彼我の態勢等によって決めるが,努めて敵の準備した地域を避けることが望ましい。

(2)防御 防御は,地形を利用して陣地を構築し,準備を整えて敵の進撃を待ち受け,これを撃滅する戦法で,通常数kmの縦深をもつ陣地帯を構築する。陣地帯の前には,河川のような自然の障害物を利用するか,または地雷源,鉄条網などを構成して陣地帯を強化する。陣地帯を突破した敵に対しては,後方に控置した予備隊の逆襲によってこれを撃退する。部隊の大きさに比して,広正面の防御を担当する必要のあるときは,陣地帯のかわりに,要点を拠点式に防御し,拠点の間隔は,機動力のある予備隊の逆襲によって閉塞(へいそく)する方法をとる。

〈山地〉は一般に戦闘のために展開する地域が狭く,部隊の行動が困難で,とくに大部隊の運用には適しない。このため,山地の戦闘では地域ごとに軽装備の部隊をあてて,独立して戦闘させる。防者は山地を障害として利用することによって兵力の節約を図り,敵の攻撃を遅滞させることができる。また,火力・機動力の劣る部隊は,敵を山地に誘いこんで,その戦力を発揮するのが有利である。山地に拠って防御する敵を攻撃するときは,努めて迂回または包囲によりその目的を達成する。やむをえず攻撃するときは,独立性のある部隊を道路ごとに,または稜線沿いに配置して,分進攻撃する。〈隘路(あいろ)〉は,これを先んじて確保すれば敵の行動を制約できて有利である。もし敵が先に占領していれば,迂回して隘路に近づかないほうがよい。

 〈河川〉は防者を助ける。河川は大きな障害であり,防御するときには河川の後方に陣地を設け,陣前での攻者の行動を妨げ,または側背を河川に委託して警戒を容易にし奇襲を防止するなどの方法で利用される。河川防御には,直接配備と後退配備とがある。直接配備は,攻者の渡河時の弱点をねらって,火力によってこれを撃破することを図るために河岸に近く陣地を設ける方法である。後退配備は敵の半渡状態(半数ほどの敵が渡河した状態)で,渡河した部隊を各個に撃破する方法で,河岸からある程度後退して陣地を設ける。河川防御している敵を攻撃する方法は,まず渡河によって兵力を敵岸にすすめる。渡河には,夜暗等を利用して防者に気づかれないよう隠密に渡河する〈隠密渡河〉と,砲兵火力等によって防御側を圧倒し,反撃できないような状態にして渡河をする〈強行渡河〉があるが,遠く迂回しても,なるべく敵の準備していない正面で隠密に渡河するのが望ましい。渡河に成功すれば,まず対岸に橋頭堡(きようとうほ)を設け,これを逐次拡大して敵陣地を瓦解させる。渡河は,当初は小型の舟艇により行い,なるべく早く架橋して車両等の渡河を容易にする。

 〈森林〉および〈住民地〉は類似の特性をもっている。一般に行動が困難で,道路(林道)以外は移動し難く,通信連絡に制約があって指揮を困難にしている。このため,攻防ともに直接森林(住民地)に使用する兵力はなるべく少なくして,外部での戦闘と連係して目的を達成するように努める。直接攻防に任ずる部隊は,あらかじめ十分独立能力をもたせて,他との連絡がきれても戦闘を継続し得るように配慮する。森林(住民地)は障害として利用し得るので,防者は一般の防御よりは少ない兵力で目的を達することができる。防御陣地は,森林(住民地)の前縁に設け,森林(住民地)内は道路を閉塞し,地雷を設置し,侵入する敵に対しては小部隊でゲリラ的な戦闘を行う。攻者は地形区画(道路網などによって,森林や住民地を分ける)によって森林(住民地)を区分し,各区分ごとに一つ一つ攻略していく。場合によっては,あらかじめ砲爆撃によって防者の森林(住民地)の利用を妨げる。

 〈広漠地〉の戦闘では,視界に限りがあり地点の把握や方向の維持が困難なので,航空機と協同して行動することが有利である。部隊には機動力をもたせて,敵の翼側を攻撃し,または包囲・迂回することに努める。広漠地での防御は,翼側に委託物(河川や森林のような障害で,敵の接近を難しくし,その奇襲を避ける地形・地物をいう)がないので,一連の陣地帯を構成するよりは,拠点式に防御してその間隙を火力と,機動力をもった予備隊の逆襲によって閉塞するほうがよい場合が多い。広漠地の作戦では補給についてとくに綿密な計画を立て,支障をきたさない配慮がたいせつである。

遊撃戦,対化学戦,心理戦等を特殊戦と呼ぶことがある。これらの戦闘方式が一般の戦闘と著しく異なり,このため,適用する作戦原則も特殊な面があるからである。遊撃戦はゲリラ戦または不正規戦ともいわれ,大別して二つの型がある。その一つは政治目的をねらう反政府・革命のための遊撃戦であり,他の一つは一般作戦に連係して敵の後方や,被占領地において行う不正規の戦闘行動である。遊撃戦では,隠密行動,奇襲,欺騙(きへん)等がたいせつで,また地域住民の支援を得なくては成功し難い。毒ガス等の化学兵器を使用すること(化学戦)は,国際条約によって禁止されているが,ベトナム戦争,イラン・イラク戦争等では局地的に使用された。対化学戦では,使用された化学兵器の特性を速やかに把握して防護策を講ずることが緊要である。心理戦は将来の戦争では重視されるものと思われる。

第2次大戦間およびその後の長足な科学技術の進歩は,陸戦の様相にも大きい影響を与え,将来の戦闘形態に革新的な変化をみせようとしている。その最大のものは,陸戦が面の戦いから立体的な戦いへと移り変わってくることである。陸戦に航空支援が欠かせないだけでなく,航空優勢が,戦勝への決定的な要素となってきたし,空挺・空輸(ヘリコプター空輸を含む)部隊の活用は,戦域を拡大して立体化させている。次は機動力の増大である。各国は,これまでの歩兵師団を改編して機械化(自動車化)し,戦車師団を増設して戦場における機動性を強化している。また,これとは反対に,空輸を容易にするために軽師団(戦車のような重装備をもたない師団)の構想も生まれ,アメリカ,フランス等ではすでに緊急展開部隊(有事の際,空輸等によって急きょ派遣する部隊)が編成されている。機動性の増大は,陸戦を,集中・機動・戦闘の順序を経ることなく,有事になると駐留状態から直接戦闘行動に投入されることも生起するようになった。火力の増大も陸戦に影響を与えている。とくにミサイルの進歩は,敵の背後の目標に対しても正確に打撃を与えることができるようになったので,深い攻撃,後続部隊攻撃follow-on forces attack,全縦深同時攻撃等の戦法を可能にするようになった。

 これらの変化に伴って,C3Iが将来の陸戦に欠かせない重要なものとなってきた。

陸戦については,国際法(戦時国際法)によってある程度の規制があり,これを〈陸戦法規〉と総称している。その代表的なものは,1907年のハーグ条約(〈陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約〉およびその付属文書),傷病者の状態改善,捕虜の待遇,文民の保護などを目的とする1949年の〈戦争犠牲者の保護に関するジュネーブ諸条約〉等である。
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