陪審
ばいしん
jury
一般民衆を裁判に参加させる制度。イギリス,アメリカ合衆国において発達した。陪審には,起訴するか否かを決定する大陪審と民事,刑事の審判において事実問題について決定する小陪審とがある。アメリカ合衆国憲法は両者について保障している。ドイツなどではしろうと裁判官と職業裁判官の混成で一つの裁判体を構成する参審制がとられている。日本でも 1928年に陪審法が施行されたが,あまり活用されず 1943年に停止された。日本国憲法には陪審制度についての定めはないが,検察審査会の制度は,大陪審にならってつくられたものといわれ,2009年には司法参加制度の裁判員制度が開始された。
英米法における陪審裁判は,フランク王国の糾問方法 inquisitionにその起源があるといわれているが,イギリスでは 13世紀頃から国王裁判所で利用されるようになった。陪審は,刑事陪審と民事陪審に分けられ,刑事陪審には通常 12人以上 23人以下の陪審員からなる大陪審(起訴陪審)と,通常 12人からなる小陪審(審理陪審)とがあった。普通に陪審制度といわれるのは後者である。大陪審は,非公開で,起訴が相当かどうかを決定するものであったが,費用がかかるので,1933年の裁判法と 1948年の刑事裁判法で廃止された。陪審裁判では,陪審が事実の認定を行ない,裁判官が法律問題を扱うが,その際の陪審の評決は,かつては全員一致でなければならなかった。ところが,刑事陪審については 1967年刑事裁判法で 10人の一致でよいとされ,民事陪審についても 1971年の裁判所法で同様な規定が設けられた。陪審制度がイギリス法に与えた影響は,きわめて大きい。すなわち実体法では,しろうとである陪審員が法を理解することができるように,法の常識化がはかられた。また,証拠法では,しろうとである陪審の判断の誤りを防止するために証拠の採否について厳格な証拠法則が発展した(→伝聞証拠)。さらに,訴訟法では 12人の陪審員が外部からの影響を受けないようにするために,公判から評決までの審理を継続的,集中的に短時間で行なう集中審理方式や,しろうとが理解できるように公判を口頭弁論と証人の交互尋問を中心に進める口頭主義の原則が発展した。
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陪審【ばいしん】
国民の良識を裁判に反映させるため,国民の中から選ばれた一団の法律のしろうとで構成される機関。陪審が起訴または審理を行う裁判制度を陪審制という。12世紀から特に英国で発達。刑事事件について起訴を行う起訴陪審または大陪審(英国では1933年廃止)と,民事・刑事事件について審理・評決を行う審理陪審または小陪審(伝統的には12名で構成し,評決は全員一致とされていた)とがある。ヨーロッパ大陸諸国でも一時期行われた。日本でも1923年の陪審法で1928年から刑事の審理陪審制(ただし評決は過半数の意見による)が採用されたが,同法は1943年に停止。最近になって,あらためて日本にも陪審制ないし参審制を導入しようという主張が高まってきており,2000年の司法制度改革審議会で最高裁は一定の範囲で参審制を導入することを提言し,2004年に刑事事件における裁判員制度に関する法案が成立,2009年5月に施行。2009年7月以降に裁判員が参加する裁判が行われる。歴史的に陪審制は特に刑事訴訟の発展に重要な貢献を果たしてきている。→参審制/評決
→関連項目イギリス|法廷侮辱罪
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ばい‐しん【陪審】
〘名〙 裁判の審理に陪席すること。裁判に、一般人が、専門家たちといっしょに参加すること。裁判に立ち会うこと。
※西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉二「法庁に坐せる大吏よりして、陪審(〈注〉タチアヒ)の人に至るまで」
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デジタル大辞泉
「陪審」の意味・読み・例文・類語
ばい‐しん【陪審】
法律の専門家でない人が、裁判の審理に参加し、有罪・無罪の判断を行うこと。また、陪審員のこと。→陪審制度
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ばいしん【陪審】
広い意味で陪審juryとは,司法に関与し一定の役割を担うために一般国民から選出された一団の法律の素人で構成される機関をいう。一般国民を,法律の専門家が中心となって運営する司法制度にどのような形で関与させるかは,国によりさまざまである。このなかで陪審の制度はイギリスやアメリカ合衆国の法制に特徴的なもので,素人が専門職の裁判官とは独立に,一定の職分を果たすところに特色がある。これに対して,ドイツなどヨーロッパ大陸法系の諸国では,一般人が専門職の裁判官とともに裁判官として事件を審理・裁判する〈参審制〉が行われている。
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世界大百科事典内の陪審の言及
【英米法】より
…第4に,具体性を重んずる思考形態は,問題の法的処理において実際に有効な救済を与えうるか否かを重視する態度を生んでいる。また,司法の面でのおもな特徴としては,弁護士その他として法律実務を長年積んだ者の中から裁判官を選任するという法曹一元の制度,並びに,一般人の中から基本的には無作為抽出的な方法で選ばれた陪審員が,(軽微なものを除き)刑事事件と一部の民事事件において審理に加わり,事実認定を担当する陪審制を挙げることができる。 英米法という概念は,このような法文化的概念である。…
【コモン・ロー】より
… 12世紀後半のイギリスでは,アングロ・サクソン時代からの地域共同体の裁判所およびそのつかさどる法や,封建制の発展に伴う農民に対する荘園裁判所あるいは封主封臣関係に基づく封建裁判所およびそのつかさどる法が,一般的な裁判所および法であり,国王の裁判所および王国に共通する法はむしろ例外であった。しかし12世紀後半のヘンリー2世時代に国王裁判所においては,増大した国王権力を背景にして,当時一般的な審理方式であった神判に代わる合理的な陪審による審理等,新訴訟手続や裁判制度の改革が行われた。そのために国王裁判権は,封建裁判権および地域共同体の裁判権を犠牲にして,飛躍的に増大し,その結果,国王裁判所の判決例を基礎に,各種の封建裁判所や地域共同体の裁判所がつかさどる法とは異なり全王国に共通の法が漸次作られてきた。…
【十二人の怒れる男】より
…主役のヘンリー・フォンダが,ローズとともに製作を担当。父親を刺殺した容疑で起訴された少年にたいする評決をめぐって,ニューヨーク市民の中から任意に選ばれた12人の陪審員が論議をかさね,予備投票による1対11の有罪から12対0の無罪へと評決が逆転する過程を克明に描く。アメリカ民主主義の一つのシンボルである陪審制度をめぐる,〈法廷ドラマcourtroom drama〉のように組み立てられたディスカッションドラマである。…
※「陪審」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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