除目(読み)ジモク

デジタル大辞泉 「除目」の意味・読み・例文・類語

じ‐もく〔ヂ‐〕【除目】

平安時代以降、大臣以外の諸官職を任命する朝廷の儀式。地方官を任命する春の県召あがためしの除目京官を任命する秋の司召つかさめしの除目のほか、臨時の除目もあった。除書。

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精選版 日本国語大辞典 「除目」の意味・読み・例文・類語

じ‐もく ヂ‥【除目】

〘名〙 (「除」は官に任命する、「目」は目録に記す意)
① 平安時代以降、京官、外官(げかん)の諸官を任命すること。また、その儀式。また、任官者を列記した帳簿。春秋二回あり、春の除目は県召(あがためし)除目といい、外官(国司などの地方官)を任命し、秋の除目は司召(つかさめし)除目といい、大臣以外の京官を任命するのを主とした。除目は公事の中で最も重要なもので、公卿(くぎょう)が三夜、清涼殿御前に集まり、評定して行なう。また、摂政や上皇の御前において行なうこともあり、春秋除目のほか、臨時除目(小除目)、女官除目一分召除目も行なわれた。除書(じょしょ)。じょもく。〔内裏式(833)〕
※枕(10C終)二五「ぢもくに司得ぬ人の家」
② 大臣を任命すること。任命するには任大臣節会を行ない、宣命を以て任ずるが、これを除目と称することもある。同時に大中納言、参議を任命することもある。
※栄花(1028‐92頃)花山たづぬる中納言「十月二日除目ありて、関白殿、太政大臣にならせ給ひぬ」

じょ‐もく ヂョ‥【除目】

〘名〙 =じもく(除目)〔文明本節用集(室町中)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「除目」の意味・わかりやすい解説

除目
じもく

本来は任官といい、官職任命の政務。官に任ずることを除(じょ)といい、もとの官を去って新しい官につく意。中国で除目(じょもく)(除書(じょしょ))というのは任官の辞令であるが、日本では任官の行事を除目(じもく)と称した。定例のものに外官(げかん)除目、京官(きょうかん)除目があり、前者はおもに地方官を任ずるもので、中世以降は県召(あがためし)除目ともよばれた。儀式書では正月9日(のちには11日)よりとされるが、現実には一定していない。三夜にわたり行われる。後者はおもに中央諸司の官を任ずるもので、県召に対して司召(つかさめし)除目ともいい、初めは春の行事とされたが、のちには秋から冬に行われ、一夜が原則であった。除目は天皇親臨のもとに公卿(くぎょう)以下清涼殿(せいりょうでん)(摂政(せっしょう)が行う場合はその直廬(ちょくろ/じきろ))に参集し行われる。最高責任者は首席の大臣が務めるのが原則で、任官者を大間書(おおまがき)に記入していくので執筆(しっぴつ)という。

 内容を外官除目についてみると、第一夜は四所籍(ししょのしゃく)といって内豎所(ないじゅどころ)などに勤める下級の職員の年労(勤続年数)の多い者や、年給(ねんきゅう)(天皇、院、宮、公卿などに毎年給せられる推挙権)による申請者を諸国の掾(じょう)、目(さかん)に任ずることから始めて、上位の任官に進む。第二夜には外記(げき)、史、式部、民部の丞(じょう)、左右衛門尉(じょう)など重要な官司の実務官を任ずる顕官挙(けんかんのきょ)なども行われ、第三夜では受領(ずりょう)や公卿の任官に及ぶ。なお大臣は、別に大臣召(だいじんめし)という儀式で天皇の宣命(せんみょう)によって任ぜられ、除目では任官されない。除目の作法は先例尊重の非常に繁雑なもので、公家(くげ)政治が実質を失っても朝廷の儀式として近世まで存続する。

 儀式の次第は大江匡房(おおえのまさふさ)の『江家次第(ごうけしだい)』がとくに詳しく、『除目大成抄(じもくたいせいしょう)』『魚魯愚抄(ぎょろぐしょう)』『除目抄(じもくしょう)』なども重要な文献である。時代が下るが後醍醐(ごだいご)天皇の『建武年中行事(けんむねんじゅうぎょうじ)』は仮名書きであるのでわかりやすい。なお除目には臨時除目(小除目(こじもく))、女官(にょかん)除目、一分召(いちぶめし)(諸国の史生(ししょう)などの任官)などがあり、叙位がいっしょに行われる場合もある。また除目のあとに直物(なおしもの)が行われることが多い。

[黒板伸夫]

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改訂新版 世界大百科事典 「除目」の意味・わかりやすい解説

除目 (じもく)

除は旧官を除いて新官に就任するの意,目は新官に就任する人名を書き連ねた目録の意。すなわち内外文武の諸官に任ずべき人を定めること,またその儀式をもいう。律令官職制度では,在京諸官司の官人を内官(ないかん)または京官,地方在勤のものを外官(げかん),また武器を携帯しないものを文官,携帯するものを武官とし,文官の人事は式部省,武官の人事は兵部省でつかさどったが,いずれも欠員が生じたときは,直ちに後任者を補任するたてまえであった。事務の渋滞を避けるためである。したがって本来は一定の日を定め(式日という),まとめて任官を行うことはできないはずであるが,実際は奈良時代より,ある程度これが行われていた。そして後になると県召(あがためし)除目,司召(つかさめし)除目の称が見られるようになる。県召除目は外官の任命を中心とするもので,外官除目ともいい,また春除目ともいう。平安時代中期の式日は,例えば《北山抄》や《小野宮年中行事》などでは正月9日を初日とする3日間であったが,後の《建武年中行事》では正月11日を初日とする。一方司召除目は内官の任命を中心とし,京官除目ともいう。平安時代中期には2月初旬に2日にわたって行われたが,しだいに遅れて院政期ころより秋に行われたので,秋除目の称も起こった。しかし両除目とも式日に行うのはまれであり,また京官除目で外官を,外官除目で内官を任ずることも多く,叙位が同時に行われることもある。これらの定期除目以外に,臨時に行われるものを臨時除目または小除目(こじもく)という。この中には,大嘗会の悠紀・主基の国司を任ずる大嘗会国司除目,立太子後の春宮坊職員を任ずる坊官除目や,賀茂祭供奉の諸官司の闕を補任する祭除目など,特別の呼名のあるものもある。なお後宮十二司の女官の人事は中務省が扱い,その任命を女官除目という。除目は,貴族から下級官人に至るまでの関心の的で,宮中で行われる除目の情報を聞いて一喜一憂するさまは,物語類などによく採り上げられている。
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山川 日本史小辞典 改訂新版 「除目」の解説

除目
じもく

除書(じょしょ)とも。官職への補任者を決める政務。本来は旧官をのぞき新官に任じる目録の意で,具体的には任官簿(召名(めしな))のことであるが,転じて任官選考の議をさすようになった。春の県召(あがためし)除目,秋の司召(つかさめし)除目(京官除目)のほか,臨時除目や女官除目などがあり,それぞれ政務形態を異にしていた。選叙令によれば官人の選考には徳行・才用・労効が基準となったが,9~10世紀に年労・年給・成功(じょうごう)などによる補任が制度化され,中世に続く複雑な除目議の次第と作法が整えられていった。一方この頃から貴族官人層の昇進コースが形成され,官職による得分の格差も大きくなったため,どのような官職につくかが重要な問題となり,県召除目はとくに人々の注目を集めるようになった。

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百科事典マイペディア 「除目」の意味・わかりやすい解説

除目【じもく】

平安時代以後行われた大臣以外の官を任ずる朝廷の儀式。公卿(くぎょう)が約3日間清涼殿の御座前で行った。春に地方官を任命する県召(あがためし),秋に京官を補任する司召(つかさめし)のほか,数人を臨時に任命する小(こ)除目,皇后が正式に決まる時に行われる宮司(みやつかさ)除目,女官除目などがあった。特に司召,県召は一家の盛衰にかかわる重大事で,関心の的であった。
→関連項目県召除目

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普及版 字通 「除目」の読み・字形・画数・意味

【除目】じよ(ぢよ)もく

任命書。唐・姚合〔武功県中、三十首、八〕詩 一日除目を看れば 心を損す

字通「除」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「除目」の意味・わかりやすい解説

除目
じもく

朝廷の儀式で,大臣以外の官を任命する行事。春,地方官を任じる県召 (あがためし) 除目,秋,京官を任じる司召 (つかさめし) 除目が主要なもので,ほかに,春宮 (とうぐう) の官人を任じる坊官除目や女官任命の女官除目などがある。また不時の除目を臨時除目,小除目と呼ぶ。

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旺文社日本史事典 三訂版 「除目」の解説

除目
じもく

朝廷における大臣以外の諸臣任官の儀式
平安時代以後,明治時代まで行われた。定例は春秋2回。春は地方官を任命する県召 (あがためし) 除目(春の除目),秋は京官 (きようかん) を任命する司召 (つかさめし) 除目(秋の除目)。ほかに臨時の小除目がある。「除」は旧官を除去して新官につくの意。「目」は目録に記すこと。

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