防水加工(読み)ぼうすいかこう(英語表記)water proofing

精選版 日本国語大辞典 「防水加工」の意味・読み・例文・類語

ぼうすい‐かこう バウスイ‥【防水加工】

〘名〙 織物皮革・紙などに防水性を与えるため、特別の加工を施すこと。〔原子と椎茸と(1954)〕

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デジタル大辞泉 「防水加工」の意味・読み・例文・類語

ぼうすい‐かこう〔バウスイ‐〕【防水加工】

[名](スル)織物・皮革・紙などに水がしみこむのを防ぐ加工を施すこと。「防水加工された靴」

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改訂新版 世界大百科事典 「防水加工」の意味・わかりやすい解説

防水加工 (ぼうすいかこう)
water proofing

織物に水が浸透しないように加工すること。これは不通気性防水加工通気性防水加工とに分類される。不通気性防水加工は,臨界表面張力の低い,疎水性のゴムや熱可塑性樹脂の溶液やエマルジョンを布の片面あるいは両面に噴霧あるいはコーティングしたり,布を浴にパディングpadding(浴液に布を浸して液を吸収させ,1対のローラーの間を通して液を布に均一に浸透させること)することにより,布に強靱(きようじん)な防水フィルムを形成させる方法である。樹脂のフィルムと布を重ね合わせて熱カレンダーを通し,熱で接着させる方法もある。耐水圧性の大きい防水効果が得られ,安価な方法であるが,空気や水蒸気も布を透過できなくなるので,被服用に用いると,むれやすく着心地が悪い。通常は,テント,シート,帆布など非被服用途に用いられる。綿布のほか,種々の合成繊維の布も加工の対象となる。

 通気性防水加工は,撥水(はつすい)加工ともいい,布を撥水加工剤で処理し,繊維表面を疎水化する方法である。布に対する水の接触角が大きくなり,水滴となって布上を転がり落ちるため,水にぬれにくくなる。布に空隙が残されているので空気や水蒸気は布を透過できる。加工しても布はしなやかで,外観の変化がない。レインコートアノラック,スキーズボンなどの被服用に適している。耐水圧性が低く,強い雨に長時間さらされたときは,布の裏面に水がしみ込む。防水効果は加工する布の組織によって大きく影響され,密な組織のもののほうがより効果が大きい。通気性防水加工は,加工効果が洗濯や摩擦により失われやすい一時防水加工と,効果が永続的な永久防水加工に分類される。

 簡単な防水加工法としては,綿布をセッケン液に浸漬したのち,ミョウバンの水溶液に浸漬すると,水に不溶性のアルミニウムセッケンが析出し,撥水性となる。セッケンの,脂肪酸由来の長鎖アルキル基が撥水効果を与える疎水基として働く。また,酢酸アルミニウムを布にしみ込ませて熱処理すると酢酸が脱離して,繊維表面に酸化アルミニウムが析出して撥水効果を示す。ワックスの溶液またはエマルジョンを噴霧あるいはパディングして乾燥することによっても撥水性が得られるし,アルミニウム塩とワックスを併用する一浴処理も行われる。これらの方法は,安価で簡単な加工法であるが,防水効果は一時的であり,洗濯したときには再加工する必要がある。

 永久防水加工剤には,反応性防水加工剤とケイ素樹脂がある。反応性防水加工剤は,長鎖アルキル基と,セルロース水酸基と反応して結合をつくる官能基とが結合した構造のものであって,反応性の官能基の種類によって,エチレン尿素系,ピリジニウム塩系,ケテンダイマー系などに分類される。セルロース系以外の繊維に適用できるものもある。ケイ素樹脂は,比較的分子量の低いポリ(メチル水素シロキサン)を主体とするものであって,エマルジョンとして用いられる。金属塩触媒を加えた浴で布をパディングし,加熱することにより,樹脂は三次元網状化し,永久的防水効果が得られる。

これらの永久防水加工剤は布の風合いを柔軟にする作用があり,樹脂加工剤と併用することがある。

 近年,防水性と透湿性という一見,相反した性質をもつ透湿防水加工素材がスポーツ用被服に開発された。臨界表面張力の著しく低いポリテトラフルオロエチレン(略称PTFE)樹脂のフィルムを延伸すると,フィブリルがからまりあい,孔径1μm以下の細孔構造をもつミクロポーラスなフィルムができる。このフィルムは,水蒸気を通し,水滴をはじくだけでなく,耐水圧性がきわめて大きく,防風性,保温性が大きい。このミクロポーラスPTFEフィルムを他の布とラミネートすることにより,さらに,防風・保温性に優れた素材が得られる。アメリカのゴアW.L.Goreによって開発されたゴアテックスファブリック(商標)に始まるものであるが,現在では,このほか,撥水(はっすい)剤を添加したポリウレタンを添加して,織物に湿式コーティングした微多孔膜積層タイプのもの,防風性はやや劣るが柔らかい風合いの極細繊維の高密度織物タイプのものが市場にでている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「防水加工」の意味・わかりやすい解説

防水加工
ぼうすいかこう
waterproof finish

繊維品の表面を被覆または疎水化して水の浸透を防ぐ加工をいう。油脂、ワックス、ゴムまたは各種合成樹脂などの液またはエマルジョン(乳濁液)で繊維を処理後加熱するか、樹脂シートを布と接合するなどの方法で表面に防水被膜を形成させる加工仕上げは、不通気性加工とよばれる。これに対し織物の通気性を保持させたまま防水性を付与する方法を、通気性(撥水(はっすい))加工とよび、(1)疎水性物質を繊維表面に沈着させる、(2)化学的に結合させる、(3)きわめて薄い疎水性皮膜を表面で形成させる、などの手段がとられる。(1)に対してはアルミニウムせっけん、ジルコニウム化合物などが用いられるが、効果は一時的である。(2)の目的には長鎖脂肪族ピリジニウム塩、エチレンイミン誘導体長鎖アルキルイソシアナート、ケテンダイマーなどが用いられ、シリコーンまたはフッ素樹脂を用いる(3)の方法と同様、恒久的な防水効果が得られる。

[岡原光男]

織物

以上の方法はいずれも特質と欠点をもっているが、最近ではケイ素樹脂を使うシリコーン防水法がよく使われるようになり、レインコートなどに応用されている。摩擦、洗濯による防水性の低下の少ないベラン・ゼラン防水加工法も使われている。「ベラン」VelanはイギリスICI社の、「ゼラン」Zelanはアメリカのデュポン社の防水剤につけられた商標名である。

[角山幸洋]

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百科事典マイペディア 「防水加工」の意味・わかりやすい解説

防水加工【ぼうすいかこう】

織物に水が浸透しないようにする加工。不通気性加工と通気性加工とがある。前者は疎水性のゴム,熱可塑性樹脂溶液,乳濁液などを布に噴霧,コーティング,パティングで防水フィルムを形成させる。耐水圧性が大きく安価であるが,空気や水蒸気も透過しなくなり,むれやすいのでテント,シート,帆布など非被服用に用いる。後者は撥水(はっすい)加工ともいい,撥水加工剤で布を処理し,繊維表面を疎水化する方法。空気や水蒸気も透過し,加工後もしなやかで外観に変化がないため,レインコート,登山・スキーウェアなど被服用に利用。反応性防水加工剤,ケイ素樹脂を用いて通気性加工の効果を永続させる永久的防水加工方法が普及し,さらに,細孔構造のフィルムを他の布とラミネートさせて,通気性をもちながら耐水圧性も大きい防水保温繊維素材も各種開発されている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「防水加工」の意味・わかりやすい解説

防水加工
ぼうすいかこう
waterproof finishing

被服としての織物,皮革,あるいは建築材料としての紙などに加工を施し疎水性 (撥水効果) を与えること。被服の防水加工には通気加工と不通気加工,また,一時防水と永久防水とがある。不通気加工は布面にゴム,プラスチック,乾性油などを塗布する加工法で,完全防水が可能であるが,被服内部の湿度が高くなり長時間着用ができない,不衛生であるなどの問題がある。通気加工は,織布に防水剤を浸透させることにより繊維に撥水性を付与するもので,防水力は不通気加工に劣るが,不通気加工のもつ欠点を解消するとともに,外観的にも良好である。一時防水は,乾性油やパラフィンなどの防水剤を布面に付着させるもので,洗濯などにより効果が喪失する。永久防水は,ベランシリコンなどの撥水物質などで繊維を化学的に処理するもので長期使用が可能である。

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化学辞典 第2版 「防水加工」の解説

防水加工
ボウスイカコウ
waterproofing

ビニル系の熱可塑性樹脂を布の両面あるいは片面にコーティングして,水の通過を防止する不通気性防水加工と,布を構成している繊維を疎水化して,布としてはっ水性を与える通気性防水加工とがある.前者の防水は完全であるが,通気性がないため,被服用には適さない.後者はさらに油脂,ろう,パラフィンやアルミニウム塩で処理する一時的防水法と,繊維表面にシリコーン樹脂(有機ケイ素化合物,主としてメチルシロキサンのポリマー)のフィルムをつくるものや有機フッ素化合物を用いる恒久的防水法に分かれる.前者は簡便で安価であるが,耐久性がない.後者,とくにフッ素化合物ははつ油性もある.

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