関節リウマチの手術治療

内科学 第10版 「関節リウマチの手術治療」の解説

関節リウマチの手術治療(リウマチ性疾患総論)

(1)治療における位置づけ
 関節リウマチrheumatoid arthritis:RA)は全身の炎症性疾患で,運動器障害が問題となる.抗リウマチ薬による疾患活動性の抑制が重要で,手術治療は薬物治療にもかかわらず発生した症状・障害に対する補助治療の位置づけになる.手術治療の目的は運動器障害予防や運動器機能再建である.RA患者での運動器の機能障害は大きく2つ,上肢障害と下肢障害に分けられる.これは機能障害の再建を目的としたときに優先される機能が上肢と下肢では異なるためである.一般に関節障害により疼痛変形,不安定性,可動制限を生じる.運動器再建の直接的な目的は①支持性,②運動性,③無痛性の回復と,日常生活動作(activities of daily living:ADL)の改善と生活の質向上をはかり,その状態を維持することである.RAは多関節障害であるから,1人の患者に種々の障害が発生する.すべての機能回復は困難であるために,外科的機能回復時には対象となる障害に応じて再建する機能に優先順位をつけるのが一般的である.
(2)手術治療時期の選択
 手術時期の決定では①薬物治療が十分に行われ,疾患活動性が可能な限り低下していること,②患者自身が,手術の目的,限界を理解し治療に対する積極性をもつこと,③全身および局所に細菌感染症がないこと,④関節破壊が進行しすぎないこと,⑤内科合併症の十分な治療がされていること,などがあげられる.長期的には薬物治療の成否が手術成績を含めて,患者の機能的な予後に大きく関与する.関節単純X線所見による関節破壊程度の判定は手術時期や術式決定に有用である.LarsenグレードによるX線所見の評価法が一般的(表10-1-15)である.一般的にLarsenグレードⅠ,Ⅱに相当する関節破壊が軽度の場合には滑膜切除が,LarsenグレードⅣ,Ⅴでは人工関節置換術適応がある.一方,RAは多関節障害であるから,放置による近隣関節の進行も含めて手術時期を考慮する必要がある.
(3)上肢障害に対する手術治療
a.治療目標
 上肢機能は,①肩・肘関節による手を届かせるリーチ機能,②手による物をつかんだりする把持・巧緻運動機能と,③前腕の回内外動作による方向調節機能に分けられる.上肢機能は運動性に大きく依存している.手術目標はADLの自立維持,回復である.
b.上肢機能再建の考え方
 下肢機能回復は上肢機能回復に優先する.したがって,上肢手術による機能回復は下肢関節の機能再建による自立歩行や車椅子移動が可能になってから行われることが多い.ADL障害となっている部位(肩,肘,手関節,指)と,その原因(疼痛,筋力低下,可動域制限,変形)を評価する.肩,肘関節については無痛性と可動域の獲得が,手・手指関節では把持,巧緻動作の獲得が重要である.
c.上肢関節における手術適応
 一般的に滑膜炎による疼痛・腫脹が持続し,X線所見で関節破壊が比較的軽度(関節裂隙が残存し,骨破壊が軟骨下骨に及ばない)の場合は滑膜切除術が適応となる.腱皮下断裂や絞扼性神経障害による機能障害では,放置により筋,神経に不可逆的障害が起こるので早期の腱再建術や神経除圧術が望ましい.進行例で高度な関節破壊や変形を伴う場合,手関節では不安定性・変形には関節固定術が,肘関節には人工肘関節置換術が考慮される.肩関節は人工肩関節置換術が行われることもある.
1)肩関節:
肩関節の手術治療は疼痛に対する処置として行われる.鏡視下滑膜切除,または直視下滑膜切除が選択される.解剖学的な特徴から滑膜をすべて切除することは困難である.短期成績は良好とされるが,疾患活動性の高い症例では効果は一過性にとどまる.LarsenグレードⅢ,Ⅳの進行例では人工関節置換術が行われる.除痛効果は高いが,関節可動域,長期の耐用性に問題が残る.適応症例を限って行われている.
2)肘関節:
肘関節屈曲は摂食動作などに必要で,可動域制限が明らかとなれば手術治療を考える.LarsenグレードⅠ,Ⅱの早期例で明らかな増殖性滑膜炎を認める症例は滑膜切除のよい適応である.鏡視下滑膜切除と橈骨頭切除を併せた直視下滑膜切除がある.橈骨頭切除により回内外可動域の改善がみられる.術後成績は早期例では比較的良好で5年経過後に半数以上の症例で除痛効果が得られる.LarsenグレードⅣ以上の進行例には人工肘関節置換術が適応となる.
3)手関節:
手関節の疼痛は把持力に直接関係する.疼痛による障害が起こりやすい関節である.滑膜切除は遠位橈尺関節の関節形成術(Sauve-Kapandji(SK)法など)と組み合わせて行われることが多い.特に尺骨遠位端背側亜脱臼症例では橈尺関節不安定性が疼痛の原因となることが多く,SK法は有効である.滑膜切除は手関節固定術(部分固定を含む)と組み合わせることで関節破壊が進行した症例でも効果がある.足関節と並んで,手関節の関節固定術は確実な効果が期待できる.手関節に対する人工関節置換術は試作段階にとどまる.
4)指関節:
関節破壊が軽微な症例では滑膜切除が行われることもあるが評価は定まっていない.母指MP関節またはIP関節の関節症進行例では固定術は効果が期待できる.特にIP関節の高度変形では固定術は簡便かつ有効である.インプラントによる関節形成術は母指MP関節をはじめとしてすべての指MP関節の高度破壊症例(LarsenグレードⅣ 以上)に適応がある.短期成績は除痛と変形矯正にすぐれるが,長期的にはインプラントの弛み,折損,感染など問題が多い.手指関節の人工関節は開発段階である.長期的には関節固定術が最も成績が安定しているが,使用状況を熟慮の上手術に望む必要がある.安易な方針でMP, PIP関節固定術はするべきではない.
(4)下肢の手術療法
a.治療目標
 初期には増殖性滑膜炎による疼痛,関節機能障害から起立,歩行障害が生じる.進行すると関節軟骨下骨破壊の結果,膝関節の外反変形,動揺関節,屈曲拘縮,可動域制限,股関節の内転拘縮,足関節の有痛性拘縮,後足部や足趾の変形,有痛性の足底胼胝などが生じ,歩行障害を招く.下肢障害の手術治療の目的は疼痛の軽減,関節支持性,可動域回復による歩行障害の克服である.移動能力再獲得は日常生活動作(ADL)改善,生活の質(QOL)の向上に繋がる.移動能力の維持により最も重篤な状態である寝たきりの発生を予防する.
b.下肢機能再建の考え方
 下肢機能は移動能力にかかわり,下肢関節の支持性と可動性によって規定される.一般に大関節では可動域を失うことの障害がほかの関節で代償できないので,RAをはじめとする多関節障害患者では支持性を優先した股関節,膝関節固定術は禁忌である.下肢荷重関節では関節破壊が急速に進行することがあるので,経過を観察し,破壊が高度となる前に手術治療を選択する必要がある.
c.下肢関節における手術適応
 長期間移動困難,寝たきりの状態が続くと,筋萎縮,関節の拘縮が進行し手術の難易度が高まり,術後成績や術後リハビリテーションの長期化などの悪影響が起こる.関節破壊の高度化は人工関節置換時に骨移植などを必要とする原因となり,合併症頻度を高める.下肢の支持,運動能力を補足する目的での安易な杖の使用はときに上肢障害の原因となり変形の進行を加速するので,移動能力の低下がどの関節の障害に由来するのかを明らかとし,積極的な機能回復を目的とした手術治療が必要とされる.
1)股関節:
RAでの股関節障害の起こる頻度は30〜40%とされる.股関節障害は歩行時痛,歩行障害の最も大きな原因となる.股関節機能の回復は患者運動能力の回復に不可欠である.股関節破壊による機能障害はいったん起こると手術以外の方法では回復は困難である.解剖学的特徴から滑膜切除術の適応はない.関節固定術は関節固定による機能障害が大きくやはり適応はない.人工関節置換術がすぐれた適応をもつが,人工骨頭置換術は長期的には中心性脱臼や弛みなどの問題が多く適応がない.人工関節コンポーネントの固定法により骨セメント使用型と非使用型がある.手術治療として成績は確立しており,適切に手術された人工股関節の耐用年数は20年をこえる.
2)膝関節:
関節液貯留,滑膜炎が著しいが,X線所見LarsenグレードⅠ,Ⅱの早期例では直視下および鏡視下滑膜切除術が適応となる.近年は鏡視下滑膜切除が広く行われる.疼痛と可動域改善(特に鏡視下滑膜切除術)が期待できるが,関節破壊進行抑制効果は限られる.滑膜切除後には疾患活動性によっては早期に滑膜炎の再発が起こる.特に鏡視下滑膜切除では不十分な切除になりやすく,再発率が高い.関節破壊の進行した障害例には人工関節置換術がよい適応である.人工膝関節置換術は目覚ましい発展を遂げ,適切に手術された場合,20年以上の耐久性が期待できる.
3)足関節:
腫脹,疼痛を認めるがX線所見で関節破壊の軽度な例に滑膜切除術の適応がある.関節裂隙狭小化,軟骨下骨の破壊を伴う例には足関節固定術,または人工足関節置換術が適応となる.人工足関節置換術は長期の成績が十分とはいえず,足関節固定術がより一般的である.固定する範囲と角度に十分な配慮が必要であるが,無痛性,支持性の獲得にすぐれる.
4)足趾MP関節
(前足部): 足趾の変形,特にMTP関節での脱臼,胼胝形成,外反母趾は歩行時に著しい疼痛を招き,歩行障害の原因となる.さらに足趾潰瘍から感染を起こす可能性もあるので,このような難治性潰瘍を生じる高度変形例には積極的に外科的治療を考慮すべきである.切除関節形成術のよい適応で,中足骨頭を切除する(Lelievre法),基節骨基部を切除する(Lipscomb法),両方を切除する(Clayton法)などの方法がある.切除範囲を適切に行えば成績はすぐれる.
(5)頸椎の手術療法
a.治療目標
 関節リウマチの頸椎病変の頻度は軽症例を含めれば頻度は高い.頸椎病変は高度化に伴い神経症状や疼痛の原因となる.特に脊髄症状は放置により不可逆的な障害を残すので,早期の脊髄圧迫除去が必要となる.頸部痛の低減と神経症状の回復を目的とする.
b.頸椎外科治療の考え方
 局所症状として,運動時・安静時の頑固な頸部痛,運動時の異音,さらに手足のしびれや脱力などの神経症状,めまいなどの椎骨動脈不全の訴えがあれば積極的に頸椎病変を疑う必要がある.筋力,深部反射は関節障害で評価できない場合が多い.MRIなどの画像診断を利用して,高度障害が起こる前に脊髄圧迫を診断し,除圧固定術を行うように努める.脊髄性麻痺の放置は致死的な結果や麻痺障害の原因となる.
c.頸椎の手術適応
 脊椎固定術が基本である.脊髄圧迫があればこれに除圧術を追加する.固定方法と範囲については議論が分かれる.亜脱臼症例では整復位での固定が理想とされるが,麻痺発生の危険もあり,その位置での固定にとどまる症例も多い.固定範囲が広いと頸椎位の運動性が失われ,固定による障害発生もある.手術前に十分な患者理解が必要とされる.[石黒直樹]
■文献
Larsen A, Dale K, et al: Radiographic evaluation of rheumatoid arthritis and related conditions by standard reference films. Acta radiologica. Diagnosis[0567-8056], 18(4): 481-491, 1977.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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