関寺小町(読み)せきでらこまち

精選版 日本国語大辞典 「関寺小町」の意味・読み・例文・類語

せきでらこまち【関寺小町】

謡曲三番目物。各流。世阿彌作か。七夕祭の日、近江関寺の僧が稚児を伴って、山陰の庵(いおり)に住む老女の所に歌物語を聞きに行く。老女は請われるままに歌物語をするが、ことばの端から小野小町の零落した姿であることを僧に知られると、自分の歌を引いて過去の栄華を語り、今の零落を嘆く。やがて僧に伴われて関寺の七夕祭に臨み、稚児の舞にさそわれて舞い、明方に庵に帰る。「姨捨(おばすて)」「檜垣(ひがき)」とともに三老女の一つ。せきでら。

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デジタル大辞泉 「関寺小町」の意味・読み・例文・類語

せきでらこまち【関寺小町】

謡曲。三番目物世阿弥作か。古今集などに取材。老女となった小野小町関寺住職に華やかだった往事歌道を語り、稚児ちごの舞にひかれて舞をまう。「三老女」の一。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「関寺小町」の意味・わかりやすい解説

関寺小町
せきでらこまち

能の曲目。三番目物。五流現行曲。世阿弥(ぜあみ)作か。古くは『小町』ともよばれた。近江(おうみ)国、関寺の僧(ワキ・ワキツレ)が和歌の話を聞くため、稚児(ちご)(子方)を伴って、あたりに住む老女(シテ)の庵(いおり)を訪れる。和歌の物語の端々から、僧たちは老女を小野小町の成れの果てと知る。華やかであった昔の述懐と、落魄(らくはく)の現在との対比が語られる。七夕(たなばた)の祭りに招かれた小町は、稚児の舞にひかれて、思い出の舞を舞い、昔をしのぶが、明け方の鐘の音とともに庵へ帰って行く。山に捨てられた老女の霊の『姨捨(おばすて)』、地獄に落ちた老いた舞姫の『檜垣(ひがき)』とともに「三老女」とよばれるが、それらに比べ、劇的な起伏は極端に少ない。しかも現在能で書かれた作品だけに、その淡々としたなかに、深い老女の嘆きと、昔の華やかさを描くことは、至難の業である。能の最奥の秘曲とされている。観世(かんぜ)流では近年ときに上演をみるが、金春(こんぱる)流では宗家以外の弟子家に許されたのは、桃山時代下間少進(しもつましょうじん)以来、1955年(昭和30)の故桜間弓川(さくらまきゅうせん)が史上二度目の例である。宝生(ほうしょう)流、喜多(きた)流では大正以来、金剛(こんごう)流では明治から上演されていない。それほど重く扱われてきた能である。

[増田正造]

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改訂新版 世界大百科事典 「関寺小町」の意味・わかりやすい解説

関寺小町 (せきでらこまち)

能の曲名。流派により〈せきでらごまち〉とも読む。三番目物。老女物。世阿弥時代からある能。シテは老後の小野小町。7月7日のことである。近江の国関寺の僧(ワキ)が,寺の稚児(ちご)(子方)を連れて,近くに住む老女(シテ)を訪れる。老女が歌道をきわめていると聞いていたので,稚児たちの和歌の稽古に役だつだろうと考えての訪問である。話が有名な古歌の由来に及んだとき,小野小町の作として知られている歌が話題になり,老女こそ百歳を越えた小町その人だとわかる。小町は,栄華に誇った昔の身の上を思い起こして感慨にふけるが,今では好きな歌の道だけが生きがいのようで,手近の短冊に筆を下ろすのだった(〈クセ〉)。夜になり,僧は小町を七夕祭に誘う。稚児の舞を見ているうちに,小町は興を催し,立ち上がって老いの足もたどたどしく舞うのだったが(〈序ノ舞〉),明け方にはまた自分の藁屋に寂しく帰ってゆく。老女物5曲は能の最高の秘曲とされるが,この能はその中のさらに最高位に置かれる。現実の老女を描くことのむずかしさと,七夕祭のくだりまで藁屋の中に座りきりでいるために演技がしにくいということが重なっているからであろう。
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世界大百科事典(旧版)内の関寺小町の言及

【小野小町】より

…《卒都婆小町》は,朽ちた卒都婆に腰かけた乞食の老女が仏道に入る話であるが,その老女は深草少将の霊にとりつかれた小町のなれの果てであったという筋。また《関寺小町》は,関寺の僧が寺の近くに住む老残の小町から歌の道を聞くという物語であり,《鸚鵡小町》も,新大納言行家が関寺近くに老いた小町を訪ねるという筋になっている。この5曲に《雨乞小町》《清水小町》を加えて七小町といい,江戸時代には七小町が歌舞伎の題材,浮世絵の画題などにしばしばとりあげられた。…

※「関寺小町」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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