間脳(読み)カンノウ(英語表記)interbrain
diencephalon

デジタル大辞泉 「間脳」の意味・読み・例文・類語

かん‐のう〔‐ナウ〕【間脳】

脊椎動物の脳の一部で、中脳大脳との間にある部分。視床視床下部などからなり、中に第三脳室がある。自律神経の働きを調節し、意識・神経活動の中枢をなす。

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精選版 日本国語大辞典 「間脳」の意味・読み・例文・類語

かん‐のう ‥ナウ【間脳】

〘名〙 脊椎動物の大脳半球と中脳との間の大脳部。視床、視床上部、視床後部、視床下部の四部からなる。内部には第三脳室があり、視床下部からは下垂体が出ており、視床下部‐下垂体神経分泌系を形成している。人では内臓、血管などの働きを調節する自律神経の中枢、および五感の中間中枢がある。視床脳。〔解剖学名彙(1905)〕
[補注]「解体新書」では、大脳、小脳、後脳など脳に関する解剖上の用語が考案され使用されているが、「間脳」は見えない。

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改訂新版 世界大百科事典 「間脳」の意味・わかりやすい解説

間脳 (かんのう)
interbrain
diencephalon

脊椎動物の脳の一部。視床脳ともいう。ヒトを含めて脊椎動物の間脳は,その形成の過程や基本的な構造は同じである。動物が水中から陸上の生活に移るのと並行して,複雑な情報の処理が必要となり,視床が他の部分より大きく発達する。視床は種々の情報を受けて,それらを互いに関係づけ,終脳,視床下部などに伝えることが実験的に証明されている。鳥類と爬虫類の円形核は光,楕円核あるいは結合核は音の情報伝達に関与する。魚類の糸球体核は光その他の興奮を促進的または抑制的に受けて,さらに視床下部へ送り出す中継地となる。魚類では視床下部は視床に比べて著しく発達し,間脳の下面に下葉と呼ばれるふくらみを形成する。下葉の後方には下垂体および血管に富んだ血管囊がつき,血管囊 saccus vasculosusは深海魚でよく発達しているため水圧を感ずると考えられる。間脳の上面には松果体以外に,ムカシトカゲなどでは顱頂(ろちよう)眼がある。鳥類以下の動物の間脳についての実験的研究は少なく,個々の部分について哺乳類のどれに対応するかなどについては今後の解明がまたれる。
執筆者:

ヒトでは,脳幹の最前方に位置し,中脳の前方で第三脳室を取り囲む神経核の集団を間脳という。脊椎動物の中枢神経系は個体発生の初期にいくつかのふくらみ(脳胞)をつくるが,その最も前方のふくらみ(前脳)からさらに発生が進むと,終脳と間脳が生じる。ヒトの脳では非常に大きく発達した終脳の大脳皮質や大脳核がこの部を覆っているため,間脳はそのごく一部を腹側表面にのぞかせているのみで大部分は表面から見ることはできない。間脳はヒトでは中枢神経系全体の約2%を占める小さな構造ではあるが,一様なものではなく,発生的,位置的,さらに他の部とのつながりから,(背側)視床,視床下部,腹側視床,視床上部と呼ばれる四つの部分から成っている。また視床下部と視床上部には,中枢神経系内の内分泌器官である脳下垂体と松果体(上生体)がそれぞれ付着している。これらの間脳区分のうち視床は動物が高等になるにつれて全体のなかで占める割合が大きくなり,ヒトではその大部分を占めるようになる。この部には,ほとんどすべての末梢感覚器官からの感覚情報や小脳,大脳核,脳幹網様体で処理された情報が集合し,それはより高次の大脳皮質や大脳核に送られる。一方,視床下部はいわゆる神経性の情報だけでなく,液性の情報の制御によって体の種々の部位に存在する内分泌器官に指令を出し,個体を短期的にも長期的にも恒常性を保つように働いている。このように間脳は,ある特定の機能のみをもっているのではなく,個体の生存に必要なあらゆる情報の流出入が行われている。しかし,それぞれの機能が明晰(めいせき)な意識のもとで調和をもって遂行されるためには,より高次の大脳皮質との緊密な共同作業が必要である。

この部は一般に単に〈視床〉と呼ばれる。上記のように間脳内で最も大きな位置を占め,第三脳室を間に挟んで1対の卵形の構造として存在する。ヒト以外の哺乳類では中間質massa intermediaと呼ばれる灰白質によって左右の視床はつながっているが,ヒトではそのつながりが弱く,ときに欠けている。内部構造は複雑で多くの神経核が存在する。これらの核は内部に存在する髄板(内髄板)を基準にして,前核群,内側核群および外側核群に分けられる。外側核群は,さらに腹側核と背側核から成っている。後方ではヒトの場合,とくに著しく発達した枕核や,聴覚および視覚の中継部である内側膝状体,外側膝状体が小さなふくらみをもって存在している。これらの核は,いずれも大脳皮質との結合が強く,大脳皮質へ情報を送るとともに皮質からも下行性の情報を受け,緊密な共同作業のもとに情報処理にあたっている。

 しかし視床のどの核も同じ様態で大脳皮質と結ばれているのではなく,現在大略的には次の3群に分けて考えられている。その一つは〈中継核〉と呼ばれるもので,これは外側膝状体や内側膝状体あるいは腹側核の後方部のように,それぞれ視覚,聴覚あるいは体性感覚の感覚情報を受けとり,大脳皮質のそれぞれの感覚領に情報を受けわたす。しかし,ここでは単に感覚情報を〈中継〉するだけではなく,下位からの情報をより鋭くしたり,意味のあるものに変換して送っている。またこの中継核に属するものには,直接感覚情報を伝えるものだけでなく,腹側核の前方部がいったん小脳や大脳基底核で処理された運動情報を受け,皮質の運動野へそれを送るというように,運動回路の一部に組みこまれているものや,前核群のように視床下部からの情報を受け,辺縁系の一部としていわゆる〈情動回路〉に組みこまれているものも存在する。上記のような中継核のほかに〈連合核〉と〈非特殊核〉が存在する。連合核は,ヒトでとくによく発達している皮質の連合野と密接な関連をもつ。これには枕核と外側核群の一部および内側核群が含まれる。前者は中継核が受ける感覚情報に付随した情報を受け皮質の後部連合野と結合している。一方,後者は扁桃核(体)や視床下部からの体性・内臓感覚の統合された感覚を受け前頭連合野と結合している。このように視床核は,後部連合野で行われる物体の形状や言語を含む音の認識,さらに前頭連合野での高次行動の発現というようなより高等な機能になんらかの役割をはたしていると思われるが,詳細は不明である。視床核のなかにはさらに大脳皮質の一定の部位のみと結合するのではなく,不特定の広い領域と散漫に広がって結合しているものもあり,これを非特殊核と呼んでいる。これに属する核はおもに内髄板の中(髄板内核群)や,左右の視床を結ぶ正中部に存在している。これらは一定の領域からの入力を受けるのではなく,複数の感覚情報と小脳や大脳核で処理された運動情報さらには視床下部や網様体からの入力があり,この核から他の視床内の核や大脳核さらには上記のごとく大脳皮質の広い領域に出力し,正常状態における皮質の覚醒に関与している。以上のように視床全体をみると,この部に送られてくる情報は感覚情報だけではなく,情動的なものや統合的なものがあり,それらをそれぞれ整理し,いわば大脳皮質という上司に報告し,さらにいっしょになって討議している。この意味で大脳皮質にとっては欠くことのできない秘書課の役目をはたしている。
視床

これは,間脳のなかで腹側にある視床下部と背側にある視床の間に挟まれた小さな領域と,視床を前方および外側方から取り囲んだ薄板の神経細胞集団から成る。前者は視床下核,不確帯およびフォーレル野と呼ばれる,ある程度独立した細胞集団をつくっていて,いずれも運動機能の調節を行っている。とくに視床下核が破壊されると,反対側の上・下肢体幹部のはげしい不随意の運動hemiballismが起こるので,正常ではそのような運動の暴発を防ぐ回路の見張りをしているものと考えられている。一方,後者(網様核)は,この核より直接には大脳皮質に情報は送らないが,視床核より大脳皮質に向かう途中に存在する関門で,視床から大脳皮質に送られる情報を監視し,それ独自に,また大脳皮質の指令のもとに視床核に送り返している。いわば秘書室よりさらに上司の部屋に入る前の受付の役をしている。

視床上部は視床の背側の一部に存在する小さな構造物で,神経性のものとしては,繊維要素のみから成る視床髄条と後交連があり,神経核の要素としては手綱核がある。また内分泌腺構造である松果体が後交連の上に乗っている。手綱核は辺縁系のなかで前脳と中脳を結ぶ経路の間脳での中継核の一つである。辺縁系の前脳と中脳を結ぶ経路は大きく二つ存在するが,そのうち腹側の経路が視床下部を貫く内側前脳束であるのに対し,背側の経路は中隔や視床下部から視床髄条を介して手綱核に集合する。ここからは中脳の脚間核や,再び視床下部に繊維を送っている。また手綱核は,大脳基底核の一部から運動性の情報も受けていることが最近判明し,辺縁系におけるさまざまな行動の〈動機〉と実際の行動調節の間脳における接点部としての意味をもっている。松果体は脳の中心部に存在する一種の内分泌腺で,多くのメラトニンを含んでいる。この部ではメラトニンの合成と分泌が日周期性に調節され,性腺ホルモンの産生を抑えているといわれるが,そのメカニズムの詳しいことは不明である。
松果体

視床下部

これは間脳の最腹側部に位置する,境界があまり明確でない多数(約18)の神経核の集合から成る。その全体の大きさは成人で背側視床の約1/5を占めるにすぎない。しかし,この部では,ドーパミンアセチルコリンノルアドレナリンのような神経伝達物質や,いままでに中枢神経系で認められているほとんどすべてのペプチドが合成されている。またその底部には多種のホルモンを含む脳下垂体が付着し,視床下部の指令によってここから血中にホルモンが放出され,内分泌腺を制御している。さらに中枢神経系内の多数の部位と連絡をもち,全体として生体の内部環境の恒常性,植物性機能の制御,さらには辺縁系とともに情動行動の全般にわたって強いかかわりをもっている。

 視床下部は上記のように多数の神経核から成るが,その機能や結合関係からみると,概略的には前後に三つの核群と,内外に三つの帯とに分けることができる。これらは前方から後方に視索上部,隆起部および乳頭部で,内側から外側に室周帯,内側および外側帯である。視索上部には視索上核室旁核および室周囲核が内側帯に集合して存在する。視索上核と室旁核から出る神経分泌繊維は下垂体後葉に向かい,乳腺や子宮を収縮させるホルモンであるオキシトシンと腎臓での水分の再吸収を促すバソプレシンを出す。隆起部には脳下垂体の付着部である〈灰白隆起〉につつまれた神経核群があり,これには背内側核,腹内側核および隆起核が含まれる。このうち隆起核からの繊維は視索前野からの繊維とともに下垂体前葉の門脈系に向かっている。これらもホルモンの分泌を制御しているが,後葉の場合と違って間接的にまず分泌促進物質(たとえばサイロトロフィン)や抑制物質(たとえばソマトスタチン)を血中に出し,全体のホルモン分泌を制御している。乳頭部は乳頭体核,後核および外側核が大きな位置を占め,他の多くの中枢神経系の構造に上行性および下行性の情報を送っている。視床下部の細胞は神経性の情報だけでなく,体液性の情報に対しても敏感に反応している。たとえば,視索上核と室旁核の周辺の細胞は,血流量の増加に伴う細胞外液の上昇を感じとり視索上核と室旁核に伝える。これらの二つの核は,先に記したように,バソプレシンを放出して腎臓での水分の再吸収を促す。また,内側帯と外側帯では,グルコースインシュリンの血中での濃度を髄液を介して感じとり,それぞれ個体の摂食を調節している。

 視床下部は,上記のような血液組成やホルモンの調節のほかに他の中枢神経系の構造との連絡も強く,とくに辺縁系や自律神経系の活動の仲介の役目を担っている。これらの神経経路のうち大きなものは乳頭体核に関連したものと背側縦束と呼ばれる繊維束である。乳頭体核は海馬からの繊維を受け視床の前核群や中脳の被蓋に繊維を送って,辺縁系の回路に組みこまれている。一方,背側縦束は第三脳室周辺の諸核から出発し,中脳の多くの部位,たとえば,中心灰白質や網様体などに下行し,さらに脊髄にまで下行性の情報を送っており,多くは自律神経系への視床下部からの指令を伝える役目を担っている。
視床下部 → →脳下垂体
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「間脳」の意味・わかりやすい解説

間脳
かんのう

キノコの傘のように広がった終脳(左右大脳半球)を支えている柄(え)に相当するのが脳幹(延髄・橋(きょう)・中脳・間脳)である。間脳は脳幹の最先端部にあたり、左右大脳半球の間に挟まれた位置にある。間脳の上方は直接、左右大脳半球へ続き、下方は中脳へと続く。脊髄(せきずい)、脳幹を通じて間脳はその2%以下の容積であるが、大脳半球と密接な関係をもつ重要な部分である。

 哺乳(ほにゅう)類の間脳は前後方向に薄い板状の第三脳室によって左右対称的に分けられている。間脳は多数の神経細胞集団(神経核)から構成されているが、解剖学上は視床、視床上部、視床下部、視床後部の4部分に区別する。視床は間脳では背側部を占め、第三脳室の両側壁を形成している灰白質の塊で、視床全体としては楕円(だえん)球状である。視床は、嗅覚(きゅうかく)系以外の感覚神経が大脳皮質の感覚中枢に到達する中継中枢であり、大脳皮質の活動水準を統御する調節系(賦活(ふかつ)系と抑制系)の系路の中継場所でもある。視床上部は視床の後上部で正中位にある松果体を中心とした部分で、松果体は後方に突き出ている。視床下部は視床灰白質の腹側に続く部分で、第三脳室の底および腹側壁をつくっている。底中央部は漏斗(ろうと)状をしており、その下端には下垂体が下垂体茎によって付着している。視床下部は内臓の働きや内分泌の働きを支配し、生命現象をつかさどる自律神経系の中枢として知られるが、感情や情動の活動と密接な関係があり、大脳皮質全域(新皮質と辺縁系皮質)の調節系の中枢ともなっている。

 視床下部には、抗利尿ホルモンや、子宮筋収縮および乳腺(にゅうせん)分泌を促す筋上皮細胞収縮のホルモンなどを分泌する神経細胞が存在し、また、下垂体前葉ホルモンと関係した放出因子を産生すると考えられる。視床後部は、外側膝(しつ)状体(視覚中継中枢)と内側膝状体(聴覚中継中枢)で構成されている。

[嶋井和世]

『佐野豊著『神経科学――形態学的基礎 間脳1 視床下部』(2003・医学書院)』


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百科事典マイペディア 「間脳」の意味・わかりやすい解説

間脳【かんのう】

脊椎動物の脳幹の一部で,前脳の後半部で中脳に続く部分。感覚情報を受容し大脳皮質に伝える働きをし,大脳が最もよく発達したヒトで最大になる。視床,視床上部,視床後部と視床下部からなり,中に第三脳室をいれる。視床上部には松果体があり,視床後部には視・聴覚の中継点としての外側・内側膝状(しつじょう)体がある。→
→関連項目大脳トランキライザー脳幹ヘス

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「間脳」の意味・わかりやすい解説

間脳
かんのう
diencephalon

脳幹の中で第三脳室を囲む部分をいう。視床視床下部との総称。左右の大脳半球の間を腹方より連ね,背方の視床と腹方の視床下部から成り,内部に第三脳室がある。視床は間脳の上部を占める卵円形の灰白質で,嗅覚を除くすべての感覚伝導路が集り,ここでニューロンを替えて大脳皮質に多くの線維で連結している。視床下部は第三脳室の下にあり,自律神経の中枢として重要である。

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栄養・生化学辞典 「間脳」の解説

間脳

 中脳の前方で,第三脳室を取り囲んだ領域.背側視床,視床下部,腹側視床下部,および視床上部から構成されている.

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世界大百科事典(旧版)内の間脳の言及

【脳】より

…脊髄管がその後も原形を比較的よく保ちながら脊髄に分化,発育するのに対して,脳管は胎児の成長につれて複雑に変形する。まず脳管は前脳胞,中脳胞,菱脳(りようのう)胞の三つの膨らみ(脳胞brain vesicle)に区分されるが,さらに前脳胞は終脳胞と間脳胞に,菱脳胞は後脳胞と髄脳胞に区分される。このように脳管が五つの脳胞から成立する時期は,ヒトでは胎生5週である。…

※「間脳」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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