門前雀羅(読み)もんぜんじゃくら

四字熟語を知る辞典 「門前雀羅」の解説

門前雀羅

その家、その場所に誰も訪れる人がいなくなって、寂しい様子。

[使用例] 流行に追われ、世間にぶる文学者は、これ流行文学者なり。流行する時は、五陵の年少争うててんとうを投じ、ろうだいと成ればあんまれにして門前雀羅を張るに至る[正岡子規ぼうざんまい|1895]

[使用例] それにもう内が台なしですからね、私が一週間もなかった日にゃ、門前雀羅を張るんだわ。手紙一つ来ないんですもの[泉鏡花*おんなけい|1907]

[使用例] 「今ではまるで門前雀羅を張るといったような好景気でございまして……」居合わす実業家たちは、頭取がこうした気の利いた漢語を知っているのがうらやましそうな眼つきをして、たがいに顔を見合わせた[すすききゅうきん茶話|1918]

[解説] 「門前、雀羅を張る」から来たことばです。家が寂れて、門の前に雀が集まり、雀羅(=網)を張って捕まえられるほどだ、という意味です。
 「史記」は、てきこうという人が退官後、門の外が雀羅を張れるほど寂れた、と記しています。唐代の詩人はくきょも、権勢のなくなった家を「門前、雀羅を張る」と表現しています(「ぐう」)。
 大正時代、「門前雀羅」の意味用法に変化が起こりました。「門前に市を成す」との混同から、「大勢が集まる」という意味で使われるようになったのです。例文の[茶話]は、これが好景気の形容に使われていることを紹介しています。
 芥川龍之介は、こうした変化を弁護しています。日本語での用法は、元の中国語のとおりでなくていいと、理解を示します(「しゅじゅの言葉」)。
 芥川は「通用さえするならば」そのように形容していい、と述べます。ことばを選ぶ基準を「通じるかどうか」に置くのは、いたって合理的な態度です。

出典 四字熟語を知る辞典四字熟語を知る辞典について 情報

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