日本大百科全書(ニッポニカ)「鎖」の解説
鎖
くさり
chain
金属その他の材料で環(かん)をつくり、これを多数つなぎ合わせたもの。チェーンともいう。装身用、時計用から船舶係留用、チェーンブロック、クレーンに代表されるつり下げ用、エスカレーターなどの引張り用、自転車に使われている動力伝達用など種類も多い。環の寸法は1、2ミリメートルから数十センチメートルのように大きなものまでさまざまで、鎖の長さも数センチメートルの小さなものから数百メートルという大きなものまである。使用範囲も広く、目的により材料も形もさまざまある。
[中山秀太郎]
工業用鎖
船舶係留用、チェーンブロック用、クレーン用、各種機械の動力伝達用などの鎖。普通、軟鋼、可鍛鋳鉄あるいは鋳鉄でつくられ、楕円(だえん)形、長方形、またはそれらの中央に横ばりを入れて強化した環からできている。鎖の製作方法は、使用する材料によって異なる。軟鋼の場合には、まず鍛造により環をつくり、もう一つ別に口のあいた環を用意し、二つの環に開口した環をはめ、あいている口を鍛造により接合する。このようにして次々と環をつないで適当な長さの鎖をつくる。鋳鉄の場合にはまず鋳造で環を2個つくり、この2個を鋳型に入れ、それにはまるように第三の環を鋳造してつなぎ合わせる。
船舶用の鎖は一般に大きく、錨(いかり)につけて係留するアンカーチェーン、舵(かじ)取りに使われる操舵(そうだ)チェーン、荷役用のもっこなどがある。アンカーチェーンは普通、環の中央に横ばりを入れたスタッドリンクチェーンが用いられる。船舶用のチェーンは船の安全性に関係があるので、チェーンの寸法、長さ、強さなどについての規則が定められている。大型の船には強度の高い鋳鋼製あるいは電気溶接製の鎖が用いられる。操舵チェーンには環に横ばりのないショートリンクチェーンが用いられ、これらについても規則が定められている。荷役用には、扱う荷物の性質、重量などによって環の大きさ、太さが選定されて使用される。動力伝達用の鎖としては、環を連結した普通の鎖のほかに、ころ入り鎖、音なし鎖、低速用としてはピン鎖など安価なものが使用される。
[中山秀太郎]
鎖と鋼索
鎖と同じ目的に使われるものに鋼索(鋼線でつくられた綱)がある。同じ荷重に対して鎖は鋼索よりも数倍の重さがあるが、全体としては大きなたわみ性があり、滑車への巻掛け、巻胴への巻取りに便利である。しかし、ケーブルカーとかロープウェーのような引張り用には、長さと重量の点からもっぱら鋼索が使用される。鋼索は容易にたわむことができるように、なるべく素線を細くし、芯(しん)には木綿などの繊維を入れるので、滑車に掛けたりすると摩耗、切断しやすく、とくに水中で使用すると腐食も早いという欠点がある。鎖は、環を取り外すことによって鎖全体の長さを適当に調節できる特長があるから、摩耗したようなときには、その部分だけ交換できるので便利である。
[中山秀太郎]
装身用の鎖
紀元前4~2世紀ごろから西洋では金の鎖が首飾りなどに使われていた。ギリシアでは古代から金細工が発達し、複雑な金の鎖がつくられ、首や腕の周りなどに巻き付けたり、ペンダントにして首から下げたりした。金細工は多くの人たちによって受け継がれてしだいに発達し、精巧な装身用鎖がつくられるようになった。ルネサンスのころになると組紐(くみひも)式の鎖細工もつくられ、装身用の金の鎖は貨幣と同じように支払いや贈り物にも利用され、一つの財産ともなった。1830年ころから長い金の鎖を首の周りに巻いたり、時計などを結び付けて用いられた。現代では腕輪、羽織の紐、首飾り、眼鏡用、懐中時計用などに使われている。鎖の材料としては金、銀、白金、ホワイトゴールドなどがあり、鎖の組み方も喜平(きへい)形、注連縄(しめなわ)形、蛇の目形、角環(かくかん)形、斜子(ななこ)形、小判形、水雷形などのほか、これらの組合せ、変形されたものなど多種類ある。
[中山秀太郎]