日本大百科全書(ニッポニカ) 「鍵(谷崎潤一郎の小説)」の意味・わかりやすい解説
鍵(谷崎潤一郎の小説)
かぎ
谷崎潤一郎の長編小説。1956年(昭和31)1月『中央公論』に発表のあと、4か月の休載を経て12月完結。同年中央公論社刊。京都に住む56歳の大学教授の夫が、女らしい身だしなみをモットーとする45歳の妻郁子(いくこ)を、日記を通して性的に啓発し、体質的に淫蕩(いんとう)な彼女を若い男性の木村に接近させることで、それを刺激剤に性生活の充実を計る。一方、夫の日記を盗み読み、自分の肉体が性的に優れていることを知った妻は、夫の要望にこたえて木村に接近し、性の秘戯を楽しむようになる。悪女に変身した彼女は、夫の血圧を絶えず上昇させ、ついに死に追い込む。それが木村との共謀であるのを、夫の死後の日記で郁子は告白する。「性」を大胆に描いた問題作として話題になった。
[大久保典夫]
『『鍵』(中公文庫)』